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古川日出男『gift』集英社

『gift』

掌篇・超短篇・ショートショート。今はどんな呼び方が好まれるのかな。2001年から03年にかけて、小説すばるに不定期掲載された短い小説を集めた作品集。単行本化にあたって、3篇が書き下ろされている。『アラビアの夜の種族』の裏で、こんなのを書き続けていたんだね。

古川日出男の小説は、神の恩寵として描かれるような類の奇蹟を、神の不在を疑いながら語るようなところがある。つまり感じやすくて頑固だ。19のストーリーの中で19の奇蹟が語られる。どれもが極めて私的な奇蹟である。ポップカルチャーの事物を器にして顕現する奇蹟があり、死ぬほどの孤独を体験して初めて体感できる奇蹟がある。極私的。神はうちのラックに並んでいるCDケースの中に宿るとでも言いたげに、身近。あえて言うなら、恋人以外とはともに体験できそうにないほどに閉じている。それだけに、心地よく包まれるような優しい感触があるのだけど。

卓越したユーモアのセンスにも言及せねばなるまい。「台場国、建つ」の、水没したお台場に取り残された人々が、独自の言語を獲得していくエピソードなど死ぬほどおかしい。神によって統一言語を奪われたバベルの塔の裏返しの話なんだけど、その人々が取り残された場所が、よりによってあの大観覧車なのだ。「ベイビーバスト、ベイビーブーム 悪いシミュレーション」の底意地悪い皮肉にも痺れた。言い切りというか言い捨てというか、作者がふっと顔を覗かせて吐き捨てるようなウイットの台詞は思わず真似をしたくなるほどに効果的だ。でもなかなか「アルパカ計画」のようには書けないはず。

とにかく、ひとつひとつ引用したくなるほどに印象深い文章なのだ。「入り海の浅瀬では鱶が眠っている。人間を襲う種類ではない。十数匹が身を寄せあって、仲間の尾鰭に顎をのせたり、頭と頭をぶつけたり、角度をつけて添っているので、「へ」の字を描いたり、あるいはそれが「サ」の字だったりする/さっきから数えているが、どうしても正確に何匹かが把めない/頭が一つで、尾が二つの鱶がいるような気がする」……あああ、駄目だ。「ぼくは音楽を聴きながら死ぬ」の一節を引用したら、停まらなくなってしまった。こうして書き写していて、本当に楽しい文章なのだ。淫している、作者も読者も。
新大阪から新横浜に向かうのぞみ号の中で、これを読んだ。少し読んでは眠り、少しページを繰ってまた眠った。

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