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ミミスマ

MIMISUMA
「ミミスマ」

男子中学生「ZONEのどこが美人なんだよ。ホワイトベリーのほうがいいよ

マルチ勧誘員「うん、10万は確かに大金だでも肉体労働をやれば半月で稼げる額でもある。そのくらいの投資で未来が切り開けるなら安いもんだろ

ネット掲示板女「そうそう、どっから来たのかうち(の掲示板)が気に入ったらしく、頻繁にカキコしてたんだけどさー、なんだかことごとく寒いっていうか、自分のことばっかし書いてるんだよねー」

 などなど。この本から、ちょっと気に入った会話の断片を抜き出してみた。マクドナルドで大声張り上げてホワイトベリー(まだ活動してるのかな?)の可愛さを力説する中学生、おめでとうあと10年は童貞だろう君は。マルチの勧誘員の台詞は、応酬話法の基本をばっちり押さえている。「たしかにそうだ」「でもこういう考え方もある」「それならば」目の前の人間がこんな喋り方をしていたらあなたを洗脳しようとしている証拠。有無を言わせず席を立つか、迷わずぶっ飛ばせ! ネット女の「らしく」。これはフィクションでは書けそうで書けないフレーズだ。「らしく」たしかに言うなあ。発音は「ら・し・く」。厭味なほどに刮舌するのが正しい。

『ミミスマ』はアングラ系サブカルチャー誌「裏モノJAPAN」連載を再構成した本だ。街角や喫茶店などで奈良崎コロスケが聴き取った会話の断片を文章に再現したものである。新宿住まいが長かった私には、この中の会話のいくつかは耳にタコができるほどによく聞いたものだった。キャバクラ嬢とそれを狙う中年サラリーマンの同伴出勤中の会話。ああ、よく聞いたよく聞いた。この餃子屋は歌舞伎町にあった餃子房じゃないのか? 「スーパールーズ」の火災現場前に立つ野次馬の会話。そうだそうだ。いたんだよ、野次馬がしばらくの間。当時の私の部下も興味本位で見に行ったらしいから叱ったんだ。だってあの火事の夜、私も歌舞伎町にいたんだから。地下の店から出てきたら靖国通りが消防車で埋め尽くされていてびっくりした。中年サラリーマンがリストラされようとしている会話。この場所にも心当たりがある。喫茶西武だな。そうだ、いるんだよあの辺の喫茶店には。カタギだかなんだかよくわからない変な会社に勤めている連中が。読み進めていくとこの会話を聴いていたのは自分自身なのではないかと錯覚するほどに『ミミスマ』はリアルな内容だ。そう感じるというのは間違いない。奈良崎コロスケは抜群のいい耳をしているということだ(録音はしているのかもしれないけど)。

 清水義範に『ビビンパ』という小説がある。親子四人が焼肉屋で食事をする模様だけを延々と書いた小説だ。誰もがあの会話はリアルだと言う。いかにもありそうな会話だと言う。だが清水は『パスティーシュと透明人間』(新潮文庫)で書いている。『ビビンパ』の会話は、あれでも作為的で説明調のものなのだと。現実の会話をそのまま紙の上に再現しても絶対に小説の会話としては成立しないのだと。『ミミスマ』は、その小説ができないリアルというものの壁を突破した作品なのである。断言してもいいが、この本を読んでリアルな会話の書き方を学ぼうとする小説家が10人はいるね。自分だって機会があったらやりたいもん。たとえば池袋西口公園でナンパされるのを待ち疲れた少女二人が、

ミニモニ娘「超かわいー」
飯田香織似娘「超犬飼いたいー」
――話し疲れたのか、やや沈黙――

 この「話し疲れたのか、やや沈黙」が難しいんだよなあ。

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