(5/30)かけはしなんだって
新任の校長、KM先生が、保護者に自分の思いを伝えるための刊行物を定期的に出すとおっしゃって、その題名を「かけはし」とされた。
かけはし、素晴らしい。断然賛成である。保護者と教職員のあいだに橋は何本でも架かっていたほうがいい。多ければ多いほどいい。それが校長先生というトップから働きかけて架けられた橋なら素晴らしい。
毎号校長先生が文章を書き、それに保護者が一人相伴することになるのだという。第1号の寄稿をPTA会長としてご依頼いただいた。名誉なことである。「本職の方に申し訳ありませんが……(先生と副校長のKB先生は私の筆名を知っている)」と恐縮されたが、とんでもない。そういう趣旨でしたらいくらでも書かせてもらいますとも。
とはいえ、自分語りのエッセイというのは苦手なので、結構悩みながら書いた。けっこう時間もかかってしまった。
以下に転載してみます。子どもでも辞書を引けば読めるように書いてみたんだけど、どうかな。
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わーい、ありがとう
私は、文章を書く仕事をしています。
八百屋さんがキャベツを売るのと同じように、私は文章を書いて売っているんですね。
もちろん、ただ書いただけでは何も起きないので、いろいろな人が働いて、文章を本の形にしてくださっています。どれだけたくさんの人が本作りにかかわっているのか、私にもよくわからないくらい。そんなに多くの方に助けられているのだから、つまらない文章を書いてはいけないな、といつも思うのです。
考えてみると、この仕事を始めたときも、人に助けてもらったのでした。
私は、子どものころから本を読むことが大好きで、学校でも本の話ばかりしていました。でも大学を卒業したあとは、本とまったく関係ない仕事を始めてしまった。
そのときには、こう思ったのです。
「自分はこんなに本が好きだけど、もしかすると本作りは思っているほど楽しくないかもしれない。仕事を始めたらがっかりするようなことがあって、本がきらいになってしまうかもしれない。だったら本を読むのは趣味だけにしておいて、仕事にするのはやめよう」
もしかすると、こわかっただけなのかもしれませんね。あのときもう少し勇気があったらな、と思うこともあります。そんなわけでまったく関係ない仕事を始めました。
でも何年かすると、そのときの決断を悔いる気持ちがわきあがってきたのです。一度しかない人生なのだから、本当に好きなことをすればよかった。そう思って、毎日くよくよと悩むようにもなりました。そんなときに、ある人から電話をもらったのです。
リンリン、ガチャッ。あ、こんにちは、おひさしぶり。
「○○さんてさ、あんなに本を読んでいたのに、今はどうして関係ない仕事をしているの。よかったら、うちの雑誌で文章を書かないかな(その人は編集者でした)」
「すごくうれしいけど、いいのかな。私みたいなしろうとがいきなり書かせてもらって」
「だいじょうぶ。だいじょーぶ! ほら、昔から○○さんの書いたもの読ませてもらっていたし、書けることはぼくがよく知っているから」
ありがとう。私のことをよく知ってくれていて。ありがとう、読んでくれていて。
自分の気づかないところに、自分をよく知ってくれている人がいる。自分を助けてくれる人がいる。そのことがうれしくて、電話を切ったあと、私はちょっぴりガッツポーズをしてみました。わーい。それから、本だなをごそごそ探して、仕事の準備を始めました。
これが、私が文章を書く仕事を始めたきっかけです。誰でもきっと、知らないあいだに自分のことをよくわかって、助けてくれている人がいるのだと思います。それはもしかすると、顔も知らない人だったりするかもしれません。ありがとう、誰だか知らない人!
私も知らないあいだに誰かを助けているかも。そうだったらいいのにな、と思います。