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(12/29)次郎さん

 宅急便配達のお兄さんに起こされた。届いたものは、解説を書いた浅田次郎さん『草原からの使者 沙高楼綺譚』の文庫見本である。今年は都合○○冊の文庫解説を書いた(末尾にリスト掲載)。『草原からの使者』の後に〆切がくるものもあるのだけど、見本が届くのはこれが最後ということになるでしょうな。来年一発目に〆切がくるのは○○○さん『○○○○○○○○○』である。正月はその準備に追われることになりそうだ。

 まだ会社に勤めていてセミプロの物書きだったころ、書店主時代の茶木則雄さんが主宰していた一水会という飲み会に通っていた(現在も主宰者が変わって継続中、のはず)。鈴木邦男さんが代表だった政治団体と同じ名前だが、こちらはマニアが集まって本の話をするというノンポリ集団である。私はそこで、浅田次郎という作家の名前を知ったのだった。『初等ヤクザの犯罪学講座』が、最初に読んだ浅田本である。初期の浅田さんが手がけていた悪漢小説の一冊であるが、犯罪の描写そのものよりも、言葉遣いの美しさに驚かされた。あまりの上品さに「こんな古風な文体で、現代作家としてやっていけるものだろうか」と要らぬ心配をしたものである。いや、本当に要らぬ心配だったですね。月日が流れて、私も浅田次郎本の解説を書くようになった。あのころに完全なファン視線で楽しませていただいていた作家は、他にも多数いる。いつかは文庫解説でご恩を返したいものである。

 掲載誌も到着。今月の「ダ・ヴィンチ」では、京極夏彦さんにインタビューをしている。新刊『南極(人)』について、である。この雑誌のインタビューは、執筆者の地の文と対象者の声を交えた形で構成するのが常なのだが、京極さんの語りが可笑しかったので、あえて一人語り(というかぼやき)にさせていただいた。思えば『どすこい(仮)』(文庫版は『どすこい。』)のときも同誌で記事を書いた。やたらとデブ、デブという単語を連発する失礼なインタビュー記事なのだが、京極さんは嫌な顔一つせず、さらにおもしろい方向に原稿を校正されたものである。興味がある人は『ダ・ヴィンチ スペシャルエディション ミステリー迷宮道案内』というムックに収録されているので読んでみてください。実はこのインタビュー、上記の事情以外にもある秘密が隠されている。ここに書きたかったのだけど、京極さんご本人が明かすべき内容だと思うので、あえて秘します。いつか京極さんのご了解をいただけたら、書くことにしよう。あ、『南極(人)』は傑作なのでみんな読むように。「田村信のような」という賛辞がもっとも適切だと思うので贈らせていただく。頭から尻(田村信だけに)までくだらない、ギャグ小説である。ずももももーん。

(二〇〇八年度杉江松恋文庫解説リスト)
『猫探偵カルーソー』クリスティアーネ・マルティーニ(扶桑社文庫)
『ヤバ市ヤバ町雀鬼伝』阿佐田哲也(小学館文庫)
『検死審問』パーシヴァル・ワイルド(創元推理文庫)
『ブルータワー』石田衣良(徳間文庫)
『タイムスリップ釈迦如来』鯨統一郎(講談社文庫)
『セリヌンティウスの舟』石持浅海(光文社文庫)
『電脳娼婦』森奈津子(徳間文庫)
『聖ジェームズ病院』久間十義(光文社文庫)
『笑い犬』西村健(講談社文庫)
『紳士同盟』小林信彦(扶桑社文庫)
『枯れ蔵』永井するみ(創元推理文庫)
『タナーと謎のナチ老人』ローレンス・ブロック(創元推理文庫)
『血塗られた神話』新堂冬樹(幻冬舎文庫)
『冥府神の産声』北森鴻(光文社文庫)
『贋作ゲーム』山田正紀(扶桑社文庫)
『草原からの使者 沙高楼綺譚』浅田次郎(徳間文庫)
『クラッシュ』楡周平(角川文庫二〇〇九年一月刊行予定)

 十七冊か。月に平均して一冊半、二十日に一冊を書いている計算になりますね。この他、中央公論新社『スカイ・クロラ オフィシャルガイド――Surface』に〈スカイ・クロラ〉シリーズを解説する文章を、本の雑誌社『おすすめ文庫王国2008』に『容疑者Xの献身』東野圭吾(文春文庫)を解説する文章(文庫に解説がついていなかったので、勝手に書いてみるという企画)を書いています。


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(12/24)全身落語家

「ミステリマガジン」2月号をいただく。今月号から「翻訳ミステリ応援団!」なる座談会企画が始まっていた。低迷が続く翻訳ミステリ業界にてこ入れをすべく、さまざまな立場の人が集まって知恵を出し合うというものである。その中で「クラシック・ミステリのススメ」に言及してくださっている方がいた。ブック・ファーストの林香久子さんである。梅田店では「クラシック・ミステリのススメ」を軸にして古典探偵小説のフェアをやってくださった。残念ながら売り場の様子は未見なのだが、かなりの方がガイドを参考にして本を買ってそうである。ありがたいことだ。パート2の刊行もスケジュールは滞っていますが、今から頑張りますので宜しくお願いします。

 年内の紙媒体仕事は一段落したので、少しずつ趣味の本を読む。まずは立川志らく『全身落語家読本』。BookJapanの企画で立川談春を新人賞に選んだし、これも読んでおかなくちゃ。八年前に刊行された本で、実はすでに読んでいた、ような気がするのだが自信がない。憶えていないということはまた新鮮に読むことができるということだから気にしないで読んだ。たいへんにおもしろい本です。

 現代落語堕落の原因として志らくが挙げているものは、落語番組「笑点」であったり、寄席の芸人たちであったり、学校寄席の存在であったり。年寄りに喧嘩を売っている印象だが、このくらい威勢がいいほうがよろしい。俺の好きな落語の世界をけなしやがって、とむかついた人は柳家権太楼『権太楼の大落語論』などを併読するといいでしょう。あちらは、寄席に出ていない立川流の若い奴に何が判るか、という姿勢の本だ。私がおもしろかったのは、「初天神」の凧上げの場面を時間がないからといって切る演者は噺が判っていない、とくさし、それぞれの噺の醍醐味といえるフレーズはこれ、と決めつける「特殊講義「ネタ論」」の部分だ。おのれのセンスをそうした形で披露しているわけで、相当の度胸がないと出来ないはずである。また、演者について語っている部分では、六代目三遊亭圓生の魅力は幼児性にあり、としたくだりで思わず本を持ったまま立ち上がるほど驚かされた。志らくによれば、「百川」の百兵衛さんは「おとな子供」だから圓生の任に合っているのだ。なるほど、そうか。かつて三遊亭円丈『御乱心!』を読んで、三遊協会独立にあたって圓生があまりに大人げない振る舞いをしていることに呆れた記憶があるのだが、それも幼児性のなせる業だったわけですね。二十年来の胸のつかえが下りた気がして、このくだりは大変に納得した。刊行から十年近く経つし、そろそろ文庫化してもらいたい一冊である。ちなみにあとがきは「第二弾は十年後、私が落語界の第一線で活躍をしていたらまた書きましょうね」としめくくられている。


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(12/22)杉江松恋は反省しる! 本家はこちらに移転しました

 タイトル通りです。
 仕事の告知なども以降はこちらで行うつもりなので、よろしくお願いします。
 過去の日記はコメントを受け付ける設定にしてありますが、以降はコメントなしにします。
 日々レスポンスを返せるか、はなはだ疑わしいもので。怠惰な性格で申し訳ありません。
 なにか御用がある方はメールをいただければ幸いです。

 ええと、仕事の告知を。
 書評専門サイト「Book Japan」でしばらく前から仕事をしておりますが、「2008ベストブック10&新人賞」を決定いたしました。選考会は公開で行われ、豊崎由美さんを司会に、末國善己さん、藤田香織さん、三浦天紗子さん、吉田伸子さん、私の五名でそれぞれ候補作を推薦し、受賞作を決定しました。トークの模様は、ここでで見ることができます。

 よかったら、年末年始の読書の参考にしてください。特徴としてはミステリー風味薄め、海外文学含有率やや多めのランキングであります。

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