(1/23)ミステリマガジン三月号
早川書房から「ミステリマガジン」三月号をいただく。
この雑誌は例年三月号で「わたしのベスト3」と年間回顧の企画をやっていた。三月号だけやけに分厚くなっていたものだが「ミステリが読みたい!」なる別冊ができたため、昨年からはその分厚い三月号が届かなくなった。古くからの読者としては、なんとなく物足りない気持ちである。思うのだけど、「ミステリが読みたい!」は止めちゃったらどうかな。類似企画本はいっぱいあるわけだし、老舗専門誌が他所の真似をしなくてもいいと思うのだけど。
今月号の特集は「デス・クルーズへの招待」で、近藤史恵さんがエッセイを寄稿しておられる。昨年のMYSCONに参加された方は、にやりとさせられる内容です。巻頭のインタビュー「迷宮解体新書」は永井するみさんがゲストである。ミステリーYA!の三浦凪シリーズの今後についても語られている。どうやら第四弾までは構想がある模様だ。ファンとしてはとても嬉しい。
その三浦凪シリーズの最新作『レッド・マスカラの秋』についてHMMレビューで福井健太さんが「大多数の男性読者にしてみれば、本作の題材と事件はどうでも良いことに違いない」「しかし重要なのは素材よりも調理法であり、女子高生の友情と価値観をベースにしたドラマ性、明瞭なキャラクター造形、彼女たちの屈託のない言動などは高く評価されるべきものだ」という書いていることには同意します。まさしくそのとおり。三浦凪シリーズの価値はまさに「書きぶり」にあり、十代女子の生活の中からすくいあげた素材をミステリのプロットで書く、しかも伝統的なハードボイルドの行動律を応用して書くという点にあるのです。
前作『カカオ80%の夏』は、主人公に明確な目的意識があって、読者が深く共感することができた。また、主人公の行動が周囲の人間を賦活するという副次の効果もあり、「読んで元気になる」良質の作品になっていたのである。第二作となると、キャラクターが定着した分、初見よりは新鮮味が薄れてしまう心配があった。『レッド・マスカラの秋』は友人の危機を救うために凪が動く話なのだが、やはり前作よりは若干共感度が落ちる。それを補うものとして描かれているのが、十代の一時期にしか共有することができない清潔な友情、淡い連帯だ。girlsfoodにあたるうまい訳語を思いつけないのだけど、つまり少女であること、少女の気持ちであることを描いた小説なのですね。そうした主題を描くのであれば、今後のシリーズではハードボイルドのプロットにこだわらなくてもいい(ミステリじゃなくてもいいとさえ思うのだ)。つまりは自由に、のびのびと、三浦凪という主人公を描いていってもらいたい。永井さんに期待しています。
本号の拙稿は『天外消失』『ユークリッジの商売道』『おかけになった犯行は』『ベベ・ベネット、死体を発見』の四冊を採り上げた。『天外消失』は素晴らしいアンソロジーだが、やはり『37の短篇』はそのまま復刊すべきであった。巻末座談会を削ったのも痛恨の編集方針ミスだと私は思います。どういう趣旨で編まれたアンソロジーなのか、さっぱりわからなくなってしまっているんだもの。原稿にも書いたが、本誌での再録を強く希望したい。
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