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(6/23)村上春樹『1Q84』書評の件

 前のエントリーで、村上春樹『1Q84』書評がどうこうという話題を振ったが、時間がなくて曖昧な書き方だったので、はっきりと記しておく。震源地は、筑波大学大学院教授・黒古一夫さんのブログである。
 黒古さんは、ブログの当該エントリーに、ご自身が北海道新聞に発表した750字の書評を転載された。その内容が、『1Q84』二巻の最終部分までをネタばらしするものだったのである。

 同業者の先輩である豊崎由美さんが、ブログにコメントし、そのネタばらしは許容範囲を超えるものではないかという異議申し立てをされた。豊崎さんが「読者の初読の快感の権利を奪う書評を、わたしは良いとは思えないのです」という意見を述べられた後、黒古さんはそのエントリーに追記をされた。少し長くなるが追記部分を引用する。

 --「1Q84」については、北海道新聞に載った拙文を最後に掲載しますが、果たして拙文は「道新読者」を名乗る人が言う「あらすじだけじゃないか」に該当するかどうか、読者諸氏に判断していただきたいと思います。言い訳ではないのですが、「書評」というのは(北海道新聞の場合)「750字」という制約の中で如何にその作品の内容を紹介し(ある程度内容=「あらすじ」めいたものを紹介しなければ、その作品の概要が理解されない)、なおかつどのような点が問題なのかを(評者なりに)明らかにすることが如何に難しいか、「1Q84」の場合、2100枚を超える長編作品である、どのような形でこの村上春樹の最新作について「書評」すればいいのか、もし良い方法があったら是非「道新読者」氏にはご教示願いたい、と思っています。

 念のため書いておくが、道新読者=豊崎さんではない。本来ならこれまで長い引用ではなく、黒古さんのブログへと誘導すべきだと思うのだが、なにせ当該エントリーには重大なネタばらしがあるもので。一応以下にURLは記すが、すでに『1Q84』をお読みではない方にはあらかじめ注意を喚起しておく。

http://blog.goo.ne.jp/kuroko503/e/a2228c915ae2edd4e8e51c800c6695c6

 さて、黒古さんのご意見である。字数の制約の中で作品を紹介することの難しさにはもちろん同意するが、書評する対象が「物語」である場合、未読の読者にすべてのあらすじを伝えるべきとは私は思わない。上に記した豊崎さんの意見にまったく同意である。

 もちろん物語の全貌を読者に晒した上で、評者の読みを開陳する書評もあっていい。それはまっとうな文芸批評というものである。公平に見れば、黒古さんの書評は文芸批評を目指しており、筆者なりの「読み」をきちんと表明している。単にあらすじを書いただけで終わっている書評とは思わないが、この程度の結論を導くために長い小説の最後の部分を明かしてしまう必要はないはずだ(引用元の文章の第一段落、最後の文章が黒古さんの「読み」だと私は考えた)。筆者の態度は誠実だが、書評の技法としては拙い。ネタばらしという大胆な手法をとったわりに、読者に与えるものが少なすぎるからである。私ならば、ネタばらしをせずに書評をすることが不可能と判断されたのであれば、もっと長い文章量のメディアを選ぶか、もしくは本を代えることを検討すると思います。

 どのような形で書評すればいいか、「道新読者」氏の代わりに私案を書いてみる(以下、関心がない人は読み飛ばしてください)。

 この書評の「読者は」で始まる最終段落をまるまる削除するだけで、ネタばらしの被害規模はかなり縮小されるはずだ。その不足分は、黒古さんの書評から抜け落ちている要素を補えばいい。黒古さんの書評には、『1Q84』の重要なピースである『空気さなぎ』の話題が欠落しているのである(書評では「この小説の大切な要素でありながら意味不明な(SF的な)「空気さなぎ」」と書いておられるので、黒古さんは『空気さなぎ』の意味がよく判らなかったのかもしれない)。もちろん、限られた文字数の中で小説の全要素について触れることは不可能なので、評者は話題を限定して論を起こして構わない。だから『空気さなぎ』について完全無視した書評もありといえばありなのだ。しかしながら、第二巻の後半でしか出てこない事実を書くぐらいであれば、第一巻の前半で明らかにされている要素について触れるほうが、少なくとも未読の人間にとっては親切だと私は考えるのである。

 以上。念のために書いておくが、黒古さんご本人を叩きたいわけではない。あくまで、『1Q84』の書評に限定した話題であり、該当エントリーからは書評技術について考えるいい機会をいただいた。非常に感謝しております。黒古さんはブログに荒しといってもいい匿名の書き込みがあるにもかかわらず、それを削除せずに公開して議論の場を与えてくださったのである。その勇気ある態度には敬意を表したい。


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