昨日は都内某所にて、バカミス・アンソロジー文庫化のささやかなお祝い会が開かれた。小山さん、おめでとうございます。幹事さん、出席者のみなさん、おつかれさまでした。
その席上で、小山さんが出席されている国際推理作家会議のお話をうかがった。各国のミステリ作家や批評家が出席し情報交換をする場なのだが、言語の異なる文化圏に対し、自国や自分の住む地域のミステリーを紹介するという機能があるらしい。小山さんもアジア代表として情報発信に努めているそうだ(追記:実際には本会で発表を行うのは、松坂健さんだとのこと。小山さんからコメントで訂正が入りました。→8/19 追々記 「日本ミステリの現状」テーマで発表をされたのは小山さんとのこと。たびたびの訂正で申し訳ありません)。
これは非常に意義のあることで、永く続いていってもらいたい。また、日本推理作家協会・本格ミステリ作家クラブからも代表者を送ることが望ましい(すでに実行していたらごめんなさい)。桐野夏生さんの『OUT』英訳版がアメリカ探偵作家クラブのエドガー賞候補になったことは記憶に新しく、それを契機として英訳が進んでいるという。どうせなら、推協賞や本格ミステリ大賞の受賞作は、毎年英訳出版を行うくらいの試みをしてもいいはずだ。作家本人が手にする賞金の額など知れたものだし、そのお金を使って日英翻訳をしたほうが後々の投資になると思うんだけどな(本格ミステリ大賞はたしか賞金がないはずなので、これは完全に持ち出しになるね)。過去の例でいうと、松本清張や戸川昌子は、英訳されて海外で通用するビッグネームになったのである。
もののついでに、英訳出版してもらいたい作品のベスト10を作ってみた。お慰みにご覧ください。ちなみに、現役作家の作品に絞っています。物故作家編や短篇編、ホラー編、時代小説編もそのうちに考えてみよう。
1位 山口雅也『奇偶』 世界に類例のない大思弁ミステリー。主流文学としても読んでもらえそうだ。言語の壁があるので日本語作品は英訳に向かない、という言い訳はこの作品には通用しない。
2位 松井今朝子『家、家にあらず』 解説を書いたときにゴシック・ロマンス・ジャパネスクという造語をしたが、それが狙い。和製デュ・モーリアか。フェミニストにも受けるのではないかという気がする。
3位 船戸与一『蝦夷地別件』 世界文学の書き手として外せない名前。どの作品でもいいのだけど、やはり日本が舞台のものがいいような気がする。自国にしか関心がないアメリカ人向けに『夜のオデッセイア』?
4位 貴志祐介『硝子のハンマー』 本格畑には紹介したい作品が目白押しなのだが、その代表ということで。男女ペアの主人公像が受け入れられやすそうだし、こういう形でアイデアを蕩尽するタイプの作品は珍しいはずだ。
5位 佐々木譲『警官の血』警察小説を一冊入れたかった。日本国内の警察組織事情を知らない海外読者にも、一家の年代記を描いた作品として受け止めてもらえるのではないか。
6位 鳥飼否宇『爆発的』 これを読んで、海外の読者はどういう顔をするのだろうか。バカミス代表ということで。鳥飼作品はどれを入れてもいいのだけど、題材が比較的通用しそうなものを選んでみた。
7位 桜庭一樹『少女には向かない職業』 初期作品のどれでもいいが、島の風景が印象的かなと。ある程度成熟した社会では必ず問題にされる題材を扱っているので、どの文化圏でも読まれる内容だと思う。
8位 恩田陸『中庭の出来事』 恩田作品を一つ入れたかった。こういう構成の作品も、わが国ではミステリーとして読まれています、と海外の読者に言ってみたい。『三月』か『ユージニア』でもいい。
9位 西澤保彦『収穫祭』 日本の風景を背景にした殺戮劇ということで入れてみました。後半の悪夢展開も文化に関係なく読んでもらえると思う。そういえば西澤さんは米国の大学で創作を専攻していたんだっけ。
10位 東郷隆『蛇の王』 東郷さんの作品は、収支バランスが悪すぎる。あれだけ取材費がかかっている(ように見える)作品なら、もっと多い読者のいる場所で勝負した方がいいのではないか。伝奇小説の代表として。
次点 北村薫『六の宮の姫君』 とりあえずビブリオ・ミステリーのこの作品を選んでみた。日本の文学作品を題材にしていることもあり、関心を持つ読者は多いはずである。
以上。記憶にある限り英訳された作品はないはず(あったらごめんなさい)。すでに英訳が進んでいる作家の作品は外してみました。北村さんが次点なのは、英訳作品があったかも、と途中で弱気になったせい。
みなさんだったら、どの作品を英訳紹介してみたいですか?