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(9/12)過去よさらば

 書類棚がいっぱいになったので、整理をして要らないものを捨てた。旧いものはあらかた捨ててしまったのだが、裁判の記録のみはそうせず、重複する書類だけを廃棄した。残りは段ボール箱に詰めて物置に残しておくのだ。段ボール箱に入れてしまえば、かさもぐっと減って、これだけのことだったのか、と驚くほどである。だが、この裁判に、何年ものあいだ振り回されてきた。

 事の起こりは、現在の住居を建てたことである。それまで住んでいたのは貸間で、子供が生まれて手狭になったことで、引っ越さざるをえなくなったのだ(2LDKの一間が私の書斎というか物置になっていた)。「車庫は要らないから書庫を」という注文は、建売住宅にはなじまないものである。いろいろと物件を見て歩いた結果、地所を買って自分で工務店と契約し、建てるという結論に達した。注文住宅というやつである。予算が乏しかったこともあり、それからの業者選びも難航した。当初は鉄筋コンクリートで作ることを考えていたのに、木造建築に変更した。地所の前の路地が狭く、コンクリートを入れるための作業車が入れなかったからである。木造建築の身体に優しい家を作る、という触れ込みの業者を訪ねていったら、モデルルームのセンスがとんでもなくて逃げ帰ったこともあった。本当にいろいろあったのである。おまけに銀行からの建築資金借り入れには条件があって、期限までに竣工している義務があった。ほうぼうの業者に断られたが、ようやくのことで手を挙げてくれたところが一社あったのだった。

 最初は救いの神のように見えた。地元で何軒もの家を作っていて、その工務店が建てた家が並んでいるため○○通りと名がついている、と胸を張っていた。社長は高齢だったが、いかにも年季を積んだ職人肌の人に見えた。経験がありますから任せてください、と言われ、頼もしく思ったものである。

 雲行きが怪しくなったのは、最初の着手金を支払ってからである。「予算も限られているので、前もって資材を一括発注します。そのほうが割安になる」と言われて契約金額のうち半金を振り込んだ。師走の押し迫ったころである。ところが、年内に基礎のコンクリートを打つという約束が守られず、年が明けても一向に着工する様子がなかった。しびれを切らして督促し、ようやく動きがあった。その時点で、五月のゴールデンウィークに引越しという約束は危なくなっていた。それどころか、梅雨の時期までに棟上という予定さえ見えなくなっていた。九月には借間を出なければならないというのに、竣工予定日は不明のままだった。

 こんな感じで、半年にわたる工務店との闘いの日々が続いた。どうやらその業者は資金繰りに困っていたらしく、渡した金を運転資金に注ぎ込んでいた形跡がある。その証拠に、すでに半金を渡しているにもかかわらず、打ち合わせと称してたびたび現れては、「このままでは倒産して工事が中断する危険がある」などといった言葉を吐き、少しずつ残金の無心をしていったのである。工事が終了し、入居がかなったのは、当初の予定から五ヶ月も遅れた秋の日のことだった。それでもまだ、出来ただけまし。あんな業者に頼んだ自分が悪かった、と勉強をしたつもりになっていたのだが、さらにその先があった。

 なんとその業者が、追加工事代金と称する、心外な額の支払いを求めてきたのだ。当然のことながら蹴っ飛ばし、知人の弁護士さんを通して交渉するように連絡した。そのころにはもう、顔も見るのも嫌だという気持ちになっていたからである。もちろん交渉のテーブルにつく意志はあったが、いくら法的に必要な話し合いとはいえ、そんな心無い仕打ちをした人間の顔をもう一度見るのは嫌だ、と思っていた。いや、願いはかなうものである。テーブルにつく必要はなくなった。業者が、支払いを求める訴えを起こしたからだ。人生初の「被告」だ。そこから約二年半、労のみ多くて得るもののない民事裁判の日々が続いた。

 そんな辛い思い出も、詰めてしまえば段ボール一箱だ。堪忍のなる堪忍は誰でもする。ならぬ堪忍するが堪忍、堪忍のふくろをつねに首にかけ、やぶれたら縫え、やぶれたら縫え、とな。袋ならぬ箱に過去を詰め、もうこのことは忘れよう。はあ、どっとはらい。

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