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(11/25)素敵なグルメ本

 本当は全部読み終えてから書こうと思っていたのだが、勝見洋一『ラーメン屋の行列を横目にまぼろしの味を求めて歩く』があまりに素晴らしいので、中途で感想を書く。

 題名にもあるように、今はもう失われてしまった数々のまぼろしの味について語る内容である。第一章の中に「新興宗教とラーメン」という文章があり、これがもう一語一句を写したいほどに我が意を得た内容だった。

 勝見は「東京のラーメンでは必ず語られる」「行列に並んでから三十五分」は当たり前の店で驚愕させられる。「醤油の塩分をあおっているだけで、ダシの馥郁とした世界を語っていない」スープに「茹でる前の半感想状態」の麺。刺激第一の料理とはいえない料理をつきつけられ、勝見は決意するのだ。「こんなの食べていては病気になる。ラーメン屋のカウンターで脳溢血に爆死す、ということになりかねない。出よう。健康第一!」

 新橋生まれの勝見は、子供のころはラーメンが大好きで「浜松町、新橋、銀座、日本橋の京浜国道ライン」にあるラーメン屋はほとんど制覇したはずだという。その勝見がカルチャーショックといってもいいほどに驚かされたのだ。あんなものはラーメンではない、と思いつつも実証精神に則り勝見は各店のラーメンを食べ比べてみる。そしてことごとく討ち死することになるのだ。文京区音羽にある「TVチャンピオンラーメン職人王選手権」優勝者の店では「ラーメンとは別の一品料理をラーメンの上にぶちまけた感じ」の具に違和感を覚える。「ラーメン食べながらビールが飲めそう」なのだ。また、日暮里の「豚骨スープと魚介系スープをブレンドした」「おまけに丼に魚粉まで入れる」という店では、「生臭さが口から喉へ鼻へと引っ掻き回しながら吹き抜け、たったひと啜りでノックダウン」される羽目になる。

 こうした行脚の果てに辿り着いた結論は、現在のラーメン作りには何の制約もなさすぎるということである。料理にも常道があり法律がある。法律のない料理は料理ではないのだ。勝見は言う。「驚くな、サンマを焼いてその搾り汁をダシにしている店も存在するらしい。それって生ゴミの臭いと違うか」

 勝見の態度を頑迷な古老の言い草と笑う読者もいるだろう。しかし、ラーメンの世界が日に日にマニア向けの世界になり、街場の味を失いつつある現実を知る者は、この意見に対して大いに頷きたくなるはずである。「どこかでボタンのかけ違いが起こり、やらなくてもいいこと、本物のプロならば絶対に踏み込もうとしない袋小路の掘り返し工事ばかりやっている」という勝見の意見に賛同する人は、この本を読んだほうがいい。

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