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(12/30)一人の年末

 妻がおせち料理作りの手伝いをするため実家に戻ったので、今日は一人の年末。どこかに遊びに行く気もなく、翻訳ミステリー大賞シンジケートの仕込みをやっている。大晦日、元旦とも更新をしますのでどうかお見逃しなきよう。また、シンジケートサイトには3月20日に決定した第一回翻訳ミステリー大賞授賞式の告知もしているので、ぜひご覧になってください。コチラ
http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/20091230/1262173408

 東京創元社のサイトを見たら、多島さんの情報提供を呼びかけるページができていた。ありがたいことである。

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(12/28)多島さんのこと

 多島さんが京都のお宅を引き払う際、PCを引き取った業者を特定し、取り戻すことができた。データ回復を専門業者に依頼したというので期待していたのだが、削除ソフトを使って完全に消去してしまっていたそうだ。多島さんらしい、手際のよさだと思った。こんなときにまで徹底して完ぺき主義者でなくてもいいのになあ。

 そんなわけで、引き続きご家族は情報を求めておられます。皆さんのご協力をお願いします。

「父、多島斗志之を探しています。」
http://ameblo.jp/suzilard/

 

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(12/28)文豪さんへ

 メディアファクトリーから、アンソロジーの見本をいただいた。『文豪さんへ。 近代文学トリビュートアンソロジー』である。明治期以降の小説作品を現代作家が読み、それに対するトリビュート短篇を書くという企画のもの。北村薫が夏目漱石『門』、田口ランディが中島敦『山月記』、貫井徳郎が葉山嘉樹『セメント樽の中の手紙』、夢枕獏が坂口安吾『桜の森の満開の下』、宮部みゆきが新美南吉『手袋を買いに』、吉田修一が芥川龍之介『トロッコ』についてそれぞれ語り、短篇を書き下ろしている。

 ええと、なんでこの本をいただいたんでしたっけ。心当たりが無かったのでしばし考えた。

 ……そうか。私、この本に収録された作家のインタビューを半分担当しているんだった。すっかり忘れていたのだけど、この企画は「ダ・ヴィンチ」で連載されたもので、そのときお仕事をさせていただいたのである。そうか、あれが本になったか、そうだったか。忘れるな、という話だが。

 そんなわけで、なかなかおもしろい着眼点のアンソロジーです。長篇の『門』以外は元の短篇も掲載されているので、読み比べてみるといいでしょう。ちなみに夢枕作品は、あの〈陰陽師〉シリーズなのだ。

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(12/27)闘うベストテン

 そういえば、今日の二十一時三十分から、「第一回AXNミステリー 闘うベストテン」の放映があるのだった。第一回になっているのは放送局名がミステリチャンネルからAXNミステリーに変わったためだが、内容も少し変化している。国内と海外が一緒のランキングになり、それに伴って放映時間が三十分に短縮、出演者も少なくなった。栄えある第一回のベストワンが何になるか、どうぞご覧になって確認ください。

年末年始の放映時間
09/12/27(日)21:30 【日】
09/12/28(月)16:00 【日】
10/01/01(金)25:30 【日】
10/01/03(日)08:00 【日】

 番組詳細は以下から。
http://mystery.co.jp/program/best10/

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(12/27)多島さんの件さらに続報

 ご家族が、ブログを作って情報提供の呼びかけを始めました。
 時系列で状況が報告されていますので、ご覧になってみてください。携帯電話のブラウザからも見ることができるとのこと。
 
http://ameblo.jp/suzilard/

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(12/26)続報

 もう一度書いておく。失踪された多島斗志之さんのご家族が下記のIDのツイッターで、多島さんの消息に関する情報を求めておられます。身体特徴や思い当たる行き先などについて書いてあるので参考にし、有用な情報があったら、ぜひご連絡ください。ツイッターだけではなく、ブログのページを作ることも検討中だそうだ。

https://twitter.com/suzilard

 私がここで今回の件に関して書くことについて、作家を私物化しようとする人間の勝手な思い入れと受け止められる方もいると思う。だが、この件に関してだけは、ネット上での宣伝活動を安易に手伝わないという自分に課した禁を破ることにした(ツイッターで公表された内容と自分の知っている多島さんの情報をつきあわせて、suzilardさんが偽者ではないと判断したからだが)。理屈より情を優先したいのだ。多島さんの行動を批判しているエントリーもいくつか読んだ。それはそれで仕方がないことだ。この事態が無事に解決したら(そう願いたいが)、世間を騒がせた責任を追及されることになる、かもしれない。かもしれないが、今はそういうことを言っている場合ではないだろう。多島さんの行動を非難しているブロガーの方にもお願いします。批判は批判として、まずは心配しておられるご家族に力を貸してあげていただけないだろうか。

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(12/25)多島斗志之さんのこと

https://twitter.com/suzilard

 ツイッターで、ご子息が多島さんの情報を求めておられます。
 ツイッターのアカウントをお持ちの方、よろしかったら見てみてください。
 ご家族の心痛、お察し申し上げます。

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(12/25)無事をお祈りします

 ある作家が自分の意志で失踪したとのニュースを聞いて衝撃を受けている。
 某新聞社の報道サイトでそれを知った。
 両目を失明する危機に瀕し、他人に迷惑をかけたくないと判断したというのだ。
 人生はその人自身のもの。誰も口出しをすることはできない。
 だが純粋に、帰ってきてもらいたい、と思う。ファンとしての傲慢かもしれない。それを承知で書くが、このまま私の前からいなくならないでほしい。あなたにいただいた物語への感謝の念を、私はどうすればいいのだ。
 ああ、やはり傲慢だ。安否を気遣うつもりが、自分の中にある感情の捌け口を見失って動揺しているだけだ。作家をモノのように所有したがる心根を、浅ましく思う。

 だが、しつこく何度でも言い続けなければならない。帰ってきてください。

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(12/24)素敵なクリスマスプレゼント

 届きましたよ、イヴに。再校ゲラという名の贈り物が。
 今日頂いて、戻しは来年一月の末だという。再校だから、とりあえず直すところは少ないし、一月もあればできるでしょう、という意図なのかな。これ、以前に書いた編集部の都合で二年近く中断していた企画なのだが、急ぐんでしょうかね。向こうが二年塩漬けにしていたものなら、こちらも多少、というのは許されないのだろうか。一月あるとはいうものの、その一月は仕事がすでに詰った一月で、別に暇なわけではないし。ちょっと許されるかな。駄目かな。などと思いつつ、とりあえず書棚の見えにくい場所に入れてみた。来年になったら、お年玉のつもりで出してみよう(お年玉ならぬ、放置の落とし前はまだつけてもらってないんだけどね)。

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(12/22)削る削る

 調子にのって倍以上の分量を書いてしまい、現在原稿の削除中である。こういうこともたまにある。たまにあるけど、〆切が厳しいときにやらかすと大変なことになるのでみんな覚えておこう!

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(12/21)人疲れ

 土曜日は「AXN闘うベストテン」の収録だった。会場は昨年までと同じ青山ブックセンター本店なのだが、使用する部屋が違っていた。しかも今年から制作会社が替わったからか、会場の作りも豪華そのもの。出演者一同「テレビみたいだ」「テレビみたいですよねえ」と言い合っていた。だってテレビみたいなんだもの。

 結果については放送をご覧いただきたい。十九日に収録で二十七日から放映……って、どれだけ速いのか。本当にテレビみたいだ。

 収録後は近くの「鳥良」で打ち上げ、編集があるためスタッフ陣は不在で、出演者プラス有志の少人数による穏やかな飲み会になった。あまりに少人数すぎて割り勘の金額に怯えたほど。

 そうやって人に会いすぎた反動か、ここ二日ほど人と顔を合わせたくない感じが募っている。厭人症ですな。おまけに風邪もこじらせ気味なので、仕方がない。今週は潜伏モードで失礼します。

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(12/19)立川キウイ

 仕事の合間に立川キウイの『万年前座』を読む。立川流に入門し、前座修業十六年という前人未到の不名誉な記録を打ち立てた落語家の本だ。落語家の前座というのは、つまり徒弟であり、一人前の扱いはしてもらえない。そうした暮しを十六年もしていたわけだ。よほど精神力が強かったのかといえばそうでもないようで、文章を読んで伝わってくるのは、ぬるま湯に浸かって上がるに上がれなくなってしまったような状態。それを悪びれずに振り返っているので、逆に爽やかな印象がある。書いてあることは徹底的にネガティヴなのに、却ってポジティヴな読後感があるという不思議な本だ。立川談志の弱い面も描かれており、落語ファンなら楽しめる。
 立川流で前座が全員破門になるという事件があったことは知っていたが、当事者の立場から内幕を語っている。当時の立川キウイは前座の最古株で(立前座という)、弟弟子の立川志加吾(現・雷門獅篭)から「今回の破門は、兄さんのせいじゃないのか?」と責められたという。ひどいな志加吾。

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(12/18)ブックジャパン

 金曜日恒例の新作チェックを更新しました。詳しくはコチラ
 今回採り上げたのは、ヘレン・マクロイ『殺す者と殺される者』、ジェフリー・ハウスホールド『祖国なき男』、滝田務雄『田舎の刑事の闘病記』の三冊。一押しは『殺す者と殺される者』だ。本筋とはあまり関係ないのだけど、この本の務台訳で感心した箇所がある。ある専門用語について、現在使用されているものではなく、過去のものを使っているのである。おそらく作品の発表年を配慮してのことだろう。専門用語は時代によって移り変わるものだが、最新用語ではなく、その時代に生きていた言葉を当てはめるのには訳者として覚悟が要ったはずである。読者に、ものを知らなくて間違えたと思われる可能性があるからだ。おそらく、編集者と翻訳者の間で協議が行われたのではないか。その上で、旧用語を敢えて使ったのだろう。良い訳だと思います。



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(12/18)実はですね

 ここでは初めて書くのだけど、一年ぐらい前から東方projectという同人ゲームのおもしろさに目覚めまして、仕事とPTA活動以外の余暇はほぼそれに使っています。現在は東方妖々夢でがんばっている途中。

 なんだかんだ言っていたtwitterも東方活動のためだけと割り切って始めました。本当に東方のことしか書いていないので、覗いて文句を言わない事。アカウントはfrom41tohomaniaです。いや三十九歳からのめりこんでいたんだけど。

 そんなわけですが、こちらのブログではミステリー絡みの話が中心です。今までと変わりないので、どうぞ適当におつきあいくださいな。

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(12/17)池袋

 本日はおなじみの講師の日。寒くて悲しいのだけど、いただいた佐々木譲『北帰行』のゲラを読みながら行ってきます。まだ前半なのだが、これまでのところは非常におもしろい。ギャビン・ライアルみたいだ。

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(12/17)週刊SPA!

 見本を頂戴した。今週号に、三津田信三さん『水魑の如き沈むもの』の書評を寄稿しています。

 トークショーのときにも言ったのだけど、今回の作品で美しいのは満州引き揚げの場面だと思う。松谷みよ子さんの現代民話集を思い出しました。

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(12/17)尻拭いとはご存じない

 昨日はPTA会長として小学校へ。いくつかある委員会の一つに出席するためである。
 そこで、出席者の一人と険悪な雰囲気になった。私が、運営の合理化に関する提案をしたためだ。実はこの件、PTAの予算上絶対に必要な案件である。詳細は省くが、慣例上今まで見過ごされていた変則的な施策を、正常化するための提案なのである。変則案というのは、だいたい当時の事情が反映されているものだから、現状打破のためにえいやっと正論をねじ伏せて実行される。そのときはいいのだけど、当事者がいなくなると困るのだ。事情が判らなくなって、形骸化したルールだけが残るから。後から見ると、変なことをわけも判らずやっているようなことになる。どこかで本筋に戻さないと駄目なのだ。
 今回は古いメンバーから異議が出るのを承知で、しらばっくれて提案させていただいた。険悪になった相手というのは、実はその変則案を提示した本人なのである。「私がせっかく頑張って通した提案をどうして元に戻すの」という顔をして睨んでいたが、仕方がないじゃん。現状に合わなくなってきてしまったのだから。実はご当人の尻拭いをしてやっているようなものなのだが、それを敢えて口に出す必要もなし。
 できるだけすまなそうな顔をして、図々しい提案をしてみたら、当然のように注文をつけられてこっちの要求が半分だけ通った。実は半分だけ通れば上等なので、思い通りである。落としどころというやつですね。

 次の委員会で本決まり。そこでもう少し爆弾を落す予定だ。

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(12/16)須藤元気さん

 エッセイ集『Let' 猫』が刊行されるというので取材してきた。
 本日からプロデュースした曲「WORLD ORDER」がituneで配信開始されるそうで、Youtubeにも動画のフルバージョンが上がっていた。おお、カクカクしている。

 途中で子供が真似を始めているが、ゲリラ撮影なので仕込みではないとか。最後にもちょっとしたハプニングがあるのでご確認を。

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(12/16)コメントを頂戴したようなので

 2ちゃんねるのミステリー板で話題になっているから読むように、というコメントをいただいたので読んでみた。

 ふむふむ。

 http://love6.2ch.net/test/read.cgi/mystery/1259476150/l50

 要するに、飴村行さんの『粘膜蜥蜴』を「このミス」ランキングに入れたいがために、慶應推理小説同好会閥が共謀して組織票を投じた疑惑がある、ということなのですね。うーん、隅から隅まで「このミス」を読んでくださっているようで頭が下がります。私も昔は発行と同時に全投票者のコメントを舐めるように読んでいたものです。今はちょうど繁忙期と重なるため、そこまでの精読もできないのですが。羨ましいな。

 初めに書いてしまえば、飴村行を読むように薦めたという事実はあります。ただし慶應推理小説同好会だけではなく、広範囲の方に薦めたし、大いに喧伝してまわったのは『蜥蜴』ではなくて『粘膜人間』が最初です。『粘膜人間』を読んだときには、本当にびっくりした。あまりに驚いたので、同じ作品を二度繰り返して読んでしまったくらいです。新人の作品で、そんなことをしたくなったのは初めてだと思います。海外作家でケム・ナンの第一作『源にふれろ』(ハヤカワ・ミステリ文庫)を読んだときくらいかな。衝撃的でした。今まで読んだどんな作家のデビュー作とも違っていた。髑髏すげー。

『粘膜人間』はエログロ(特にグロ)の側面ばかりに言及されることが多い作品ですが、中に二つの美点を持っていると私は思いました。一つは「ぐっちゃね」「ソクソク」といった用語の妙を含むユーモアのセンス(相当に悪趣味ではあるのですが)、もう一つは格闘場面などを書きこなす描写力です。後者の方にはあまり注目されることがないのだけど、あの小説の暴力描写には見るべき点が非常に多い。人体破壊などにも迷いがなく、爽快感があります。したがって、エログロという飛び道具を捨てても十分に勝負ができる作者だと私は判断しました。そういう作者が、あえて趣味のエログロに操を立てて、インモラルな小説を書いているのだと。これは非常に志の高いことですから、新人の小説家としては賞賛されてしかるべきです。ブックジャパンのインタビューでお話を伺い、さらにその意を強くしました。

 そして『粘膜蜥蜴』です。ありがたいことに解説のご依頼をいただいたので他に先んじて原稿を読む機会がありました。まっさらの状態で作品と向き合えたのです。一読して、『粘膜人間』を読んでの期待は裏切られなかった、それどころか『蜥蜴』は『人間』を遥かに上回る作品であるという感想を持ちました。『粘膜人間』最大の弱点は、構成に難があること。第二部が浮いており、それが主人公の中途交代という意外性を呼んではいるものの、長篇小説としてはやはり減点対象となる。『粘膜人間』を読んだ限りでは、飴村さんの長篇を書く能力については、判断を保留せざるを得ないと思いました。印象的な表現を用いて場面を描くことはできても、しっかりとしたプロットの上にストーリーを組み上げることはできないのかもしれないということです。奇想の作家としては印象的な場面を描ければ十分なのだけど、それだけではマイナーの域を出ない。万人に訴求できるだけの力量を持ったエンターテインメント作家とは認められないでしょう。

『粘膜蜥蜴』はそうした危惧の念を払拭してくれた作品です。前作と同様、構成には飛躍があり、途中で大きな場面転換があります。しかし今回は、その飛躍にきちんとした意味があり、着想だけに頼らず、作者が物語を統御できていることが分ります。結末にサプライズがあることが大きな加点ポイントですが、それ以外にも美点は多々ある。主人公の愚かな少年は非道な振る舞いをしますが、その根底に母を失った悲しみがあり、女性に赦されて抱擁されたいという渇望があることが読者にも判ります。彼のキャラクターとプロットとが密接に結びついており、『粘膜蜥蜴』は月ノ森雪麻呂の物語なのです(だから途中で異なる視点人物の章が挟まっても読者は大きく動揺しない)。嫌な人物なのに、雪麻呂に共感を覚えてしまった読者は多いはずです。また、作中に登場するヘルビノは、旧日本軍による帝国主義的な侵略戦争の事実を戯画化して取り入れたキャラクターです。ヘルビノの存在によって、物語は一回り大きな奥行きを持つことができました。これは『粘膜人間』のときに荒俣宏選考委員から呈示された「現実と取り組み、逃げない」という課題に挑戦して、見事に成功したものと言うことができます。

 以上の理由をもって、私は『粘膜蜥蜴』を「前作に引き続き描写力とユーモアの感覚を備えた、読んでいて楽しい作品である」「しかも前作には無かった構成力という武器を備えた」「人物や舞台の設定にも注意が行き届いており、きちんと計算の上に組み立てられた物語である」と判断しました。以前に新人賞作品を読むときの自分なりの規準を描いたことがありますが、『粘膜人間』について言えば必要条件である1)~3)のうち1)に明確な難があり、2)は及第点、3)は十分という判断でした(テーマの消化というのは、作家がやりたいことを十分に自分で理解して、自分なりのプランで書き切っているという意味です)。三つのうち二つで合格なので新人の作品としては及第点なのですが、それに十分条件である4)5)が加わるので、総合して八十点は差し上げられる出来です。『粘膜蜥蜴』の場合、さらに1)の評価が上がるのでさらに点数は高くなる。新人の第二作としてはもちろん、作家全般に視野を広げてもここまでの充実度を持った作品は珍しいはずです。素材に嫌悪感を覚える方はたしかに多いはずですが、すべての人に受け入れられる物語などは無いのでそれは仕方ない。エログロは嫌いという人でも、この作者なら好きになってもらえる可能性はある。ならば書評家としては、敢えて万人に薦めるべきなのではないか、と思った次第です。

 長くなりましたが、以上が私が『粘膜蜥蜴』を推す理由です。こうした思いを汲んでくださり、本を手に取る方が一人でもいたとしたら、書評家としては実に嬉しい限りです。お礼を申し上げたい。もっとも、周囲の人に『粘膜蜥蜴』を以上のような形で薦めて歩いた事実があるかどうかといえば、それはあまり無かったかな。なぜかといえば、すでに『粘膜人間』の段階で薦めるべき人には薦め終わっており、読んで『粘膜』が気に入った人は、私があえて言葉を費やすまでもなく、『蜥蜴』を読んでくださったからです(これは飴村さんの実力の結果で、別に私が偉いわけでもなんでもない)。来年春までには『粘膜兄弟』が上梓されるでしょうが、ファンになった方は迷いなくこの第三作を購入してくださるでしょう。世界に広がれ粘膜の輪、ああ、ぐっちゃねぐっちゃね。

 ええと、なんの話だっけ。ああ、組織票うんぬんのことを書かなければいけなかった。というわけで、『粘膜人間』を人に薦めたことは事実だけど、「このミス」投票の時期になってわざわざ『粘膜蜥蜴』に票を投じるよう説得して歩くような手間はかけるまでもなかった、というのが真相です。それどころか、投票前に慶應推理研とワセミスの学生・OB数名と会ったとき「今年の海外ミステリー一位は『バッド・モンキーズ』しかないよ!」と高らかに宣言してみたら「そんな作品を一位にするなんて見識を疑いますよ」「今年の海外一位はどう考えても他にあるでしょう」「杉江松恋は反省しる!」と非難を受け、書評家のあるべき態度について懇々と説諭されましたよ。むっきー! あいつら全然年長者の言うことを聞きゃしない!

 おしまい。



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(12/15)ピンチ!

 昨日から身欠きニシンを米の磨ぎ汁に入れて戻してある。今日中に煮物にしなければならないのだ。だが午前中はPTAのお仕事、夕方からはAXNミステリーの収録と、用事があって厨房に立つ時間がない。しかも日中に二本の原稿書きを終わらせなければならない。なにこの同時多発。いわゆるタイムリミット・スリラーというやつか。果たして私は、ニシンをちゃんと煮れるのでしょうか。美味しくできたらいいなあ。

(追記)
 無事煮られました。よかった。

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(12/14)疲れのとれない月曜日

 一昨日は早慶交歓会、昨日は他市に引っ越した方の家をお訊ねして新築祝いの会と、普段ひきこもり気味の人間にしてはよく外出していて、正直疲れがとれずにいる。これを別名飲みつかれともいいます(杉江松恋は反省しる!)。

 今週一週間は外出の用事が多く、本日は区庁舎に行かなければならない。区のやっている子供会議のようなものに出席するためで、「いじめ」問題について子供たちが話し合うのをオブザーバーとして聞くのである。ただ、その場に大人がいると子供たちが萎縮してあまり話さなくなるらしく、大人は大人で別室に分かれて話し合いを行い、ある程度の話の輪郭が見えた時点で合流する、という形に今年から改められたとか。ということは何か意見を求められるということだろうか。一応すっきりした頭で行かなくては。

 そんなわけでちょっと散歩して頭をすっきりさせてきます。

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(12/13)うっぷす

 昨日は全日本大学ミステリ連合恒例の早慶交歓会(という名の忘年会)に混ぜてもらってきた。

 三軒目に行ったとき、「一杯だけ飲んで帰ろうね」と言い交わしていたにもかかわらず、気がついたら午前二時だったのはなぜか(杉江松恋は反省しる!)。

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(12/12)幽

 メディアファクトリーから見本をいただく。私は辻村深月さん『ふちなしのかがみ』の書評を担当しています。

 しかし、この表紙は怖すぎる。稲川潤二「幽」初登場にふさわしいインパクトだ。夢に出てきそう。怪談そのものよりも恐い稲川潤二が。


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(12/11)ウィキペディア

 にいつの間にか杉江松恋の項目ができていてびっくりした。作成してくださった方ありがとうございます。東京都府中市出身って、どうやって調べたんだ。

 せっかくだから翻訳ミステリー大賞シンジケート管理人を務めていることも追加していただけると嬉しいな。なにかのついでにお願いします。

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(12/11)麦酒の如き飲むもの

 昨日の三津田信三さんの『水魑の如き沈むもの』刊行記念トークイベントは60席が満員御礼となり、業界人率も極めて低いという盛況ぶりだった(編集者には席を空けて立ち見してもらったのだ)。トークイベントに参加できなくてサイン会のみ、という方も10人以上いらっしゃったようである。本当にありがとうございます。

 三津田さんは作家として人前で話すのが四回目ということなので、事前打ち合わせのとき、いろいろと余禄を考えてみた。まず三津田さんがプレゼントを二つ持参された。ジャンケン大会というのも芸がないので、質問票を配り、記入して出してくださった方の中から抽選で当てるという形式にしたのである。もう一つは三津田さんお薦めのホラー映画リストの配布。これは、本にサインをする際に使う敷き紙に印刷してみた。通常だとティッシュなどを使うのだが、それもお持ち帰り用にするということである。三つ目は、刀城言耶シリーズの挿画を担当されている村田修さん特製のポストカードの会場限定配布だ。シリーズをイメージして描いたというオリジナルイラストで、昨日のイベントでしか手に入りません。これだけおまけつきで、ドリンクもついて千円なら、お客さんに元はとってもらえたのではないかと思いますが、いかがでしょうね。あ、もちろんお話の方もおもしろかったと自負しております。
レポートが上がっていたので、この辺からご覧いただきたい。

http://d.hatena.ne.jp/tuckf/20091210/1260450250
http://nottin.info/archives/51557804.html
http://fanakwchdwn.hontsuna.net/article/2343200.html

 午後九時半から打ち上げとのことだったが、一時間ほど空いてしまったのでサイン書きに精を出す三津田さんを残し、近所のライオン一階でしばしビール三昧。打ち上げが始まってから聞いたところでは同ビルの二階で光文社グループが飲んでいたほか、サイン会を終えた三津田さんも地下一階で時間をつぶしていたらしい。なんというシンクロニシティ。というか、なぜ合流しない。

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(12/10)ミステリー忘年会で言われたこと

 翻訳ミステリー大賞一次投票の結果は見ましたか? なに、見ていない? じゃあ、すぐに確認してくるんだ。急いで、急いで→コチラ

 すでに見てしまったというあなた。ありがとうございます。
 一次投票の結果発表を行った場所は、翻訳系の関係者が多く集う「ミステリー忘年会」の会場である。毎年大人数が参加する会で、翻訳学校の出身者も多く集うことから、同門会・同窓会のような機能も果たしている。その余興の一つとして、一次投票結果発表を組み込ませていただいたというわけだ。

 忘年会終了後は近所のバーに流れて二次会。なんだっけ、アル中とかアルチュールとか、そういう名前の店だった。そこで言われたのが、

「あの写真、闇金の取立てに来たヤクザが弱っている債務者を締め上げているように見えるね」

 との感想である。あの写真とは……コチラ

 ああ、なるほど。うまいことを言うものだと思いました。

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(12/9)翻訳ミステリー大賞候補作決定!

 発表の模様をシンジケートサイトで報告しています

 第二弾、第三弾の発表もあるので、しばらくはシンジケートから目を離されぬように。

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(12/8)三つの可能性

 いつも利用している古書店がメールで目録を送ってくれているのだが、その中にフォークナー『駒さばき』とボアロー&ナルスジャック『私のすべては一人の男』が並んでいて笑った。ついこの間、日下三蔵氏に書いていただいた「なぜ文庫にならなかった!? 埋もれた名作ベスト5」で採り上げたばかりの本だったからだ。

『駒さばき』
『私のすべては一人の男』

 くだんの古書店主は、「翻訳ミステリー大賞シンジケート」の愛読者なのだろうか。いや、二冊だけなら偶然の一致ということもある……と考えて、もう一つの可能性に思い当たった。

 店主は日下三蔵。

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(12/8)ミレニアム三部作は本当に傑作なのか?

「翻訳ミステリー大賞シンジケート」に、標記の評論を掲載した。執筆者は、酒井貞道さんである。
http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/20091208/1260199078
 刊行以来、絶賛の意見一辺倒であった『ミレニアム』三部作について、冷静に作品の価値を見つめなおしてみようという趣旨であり、筆致はいささか挑発的であるものの(既出の書評に対する批判の形をとっているから無理もないのだが)、根拠のない貶しの文章にはなっていないので、ここから建設的な議論を発展させることは可能であると思う。ぜひご一読を。そして、我こそはと思う論者の方は酒井論に対する反論もしくは擁護のご寄稿をいただければ幸いである。

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(12/7)このミスと本ミス

 奥付け上の刊行日は二週間も違うのだが、原書房「2010本格ミステリベスト10」と宝島社「このミステリーがすごい! 2010年版」の見本が同時に到着した。ありがとうございます。

 まだ精読していないけど、「このミス」の表紙を見て何かにデザインが似ていると思った。よく考えたら、数年前に休刊になった「ダ・カーポ」である。内容の方も、芸能人・著名人の寄稿が増えて、より一般誌向けになった。ちなみに私のお仕事は例年通り「このミス座談会」の構成である。座談会中、早川書房「ミステリが読みたい」の編集方針が変わったことを話題に採り上げていたのだが、なんのことはない「このミス」自身も大幅に誌面刷新されていたわけである。原稿をまとめる前から、言っておいてくれたらよかったのに。

 自分が関与していない箇所では、「新人賞クロスレビュー」のページだけを先に読んだ。いわゆる「ファミ通」形式で四人の評者が十点満点で新人賞受賞作品を批評するのである。こういうページでは穏健派の評者は求められていないはずで、すべての作品に六点以上をつけた宇田川拓也氏はちょっと物足りない(書店員という立場から、あまり過激な言動はできないのかもしれないが、それならば商業誌原稿を書くべきではない。一般の書店員ならばこんなことは書かないが、宇田川氏はもう十分知名度もあるのだから、そろそろ批評に臨む態度を自ら厳しく律する時期に来た。面識のある方だけに、あえて苦言を呈する。失礼の段、お詫びします)。その点、『プリズン・トリック』に二点をつけた千街晶之氏と、『臨床真理』に三点をつけた三橋暁氏、『虫とりのうた』に同じく三点をつけた不来方優亜氏は立派である。参考までに千街氏の『プリズン・トリック』評を引用しておこう。

 

これは作者ではなく版元が悪い。まだまだ手直しが必要な原稿なのに、例年より早く出してどうする。歴代受賞者への敬意のかけらもない東野圭吾の推薦文も減点の対象。どこが「乱歩賞史上最高のトリック」?

 おお、素晴らしい。この調子でいってください。

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(12/5)翻訳ミステリー大賞候補作決まりました

 昨日は都内某所で翻訳ミステリー大賞の集計作業を行った。結果については9日深夜にご報告できる見込み。お楽しみに。翻訳者だけではなく、一般の方も参加できるイベントも企画しますので。

 翻訳ミステリー大賞シンジケートでは、「週末招待席」と題して、作家インタビューの掲載を開始した。毎週土、日曜日更新で、全8回で完結する。記念すべき第一回は小路幸也さんがゲストである。ぜひご覧になってください。

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(12/4)某文学賞

 某誌で自分の一次選考箱を通過した作品が大賞を獲ったことを知る。こういうのはしみじみ嬉しいものだ。
 急いで自分で書いた選評を読み返してみたのだが、おぼろげにしか作品を覚えていない。いっぱい読んだからなあ。いいのである。正式に受賞作となって公刊されたものはどうせ加筆修正が入っているのだから、新鮮な気持ちで読めるというものだ。賞によってはまったく原型をとどめないほどに直すものもあるので、編集者に言われるまで自分が通した作品であるとに気づかないことさえある。推敲の力は偉大だ。

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(12/3)ねじふせろ!

 ここでは書きたい気にならないような不快な出来事があったのだけど、愚痴っても始まらないので仕事の成果を見せることにした。民主主義国家だから対話は大事。意見が違う相手が発言する機会を奪うことを絶対にやってはいけない。でも時には、有無を言わせない結果を示して雑音を消し去ることも必要なのである。まだ文句を言う気になるの? と態度で示すわけですね。おお、なんかシューティング・ゲームのボムみたいだね。

 これって対話を拒んでいることにはならないはずである。みなさん、気分の悪いことがあったら、くよくよ悩んでないで仕事しましょうよ。聞き耳ばかり立てていたら、耳がでっかくなっちゃいますよ。ボムだ、ボム!

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(12/3)あわわ、あわわ

 なんだか二日ばかり原稿がまったく書けない日が続いてしまった。あわわ、あわわ。

 でも仕事をしたような気分だけは残っているのである。思い返してみると、請求書を送ったり、「書評の一部を広告に使ってもいいですか」という問い合わせに答えたり、という対応はしているのだ。これは一般の会社では総務部とかの仕事である。

 つまり二日間は工場を閉めて総務部が仕事をしていたということだな。なーんだ。ちゃんと仕事しているじゃん、私ってば。

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(12/3)盛りだくさんの日

 本日は午前中が正月の子供会の準備で、午後一番が読み聞かせ、夜が池袋で講師という盛りだくさんの日になる予定。その合間に原稿を三本、最悪でも二本は書かないと。こういう一日ばかりだったら、うちには蔵が建つけど、十年もつライター生命が二年で駄目になる(アントニオ猪木・談)。

 とりあえず一つ目の用事にいってきます。

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(12/2)翻訳ミステリー大賞の資金源

「翻訳ミステリー大賞の賞金ってどこから捻出するの?」とか「シンジケートサイトの運営費はどうしているの?」という質問をよくいただくのだが、基本的にすべて「善意のカンパ」で賄っていく方針である。サイトのアフィリエイトも思ったより収入があって、助かっている(なので、あそこで本を買っていただいた方には間接的な支援をいただいているのです。ありがとうございます)。

 将来的にはNPO化をするなどして永続的な体制を作っていくべきかもしれない。しかし、現時点では完全なボランティアで事務局は動いていて、報酬を得ている人間はいないのである。上記の運営費にも「人件費」は一切含まれていない。私を含め、全員手弁当での参加である。したがってサイトを読んでくれた方からの反響が唯一の報酬だ。これは本当にありがたい。

 このたび、上記のカンパの窓口としてゆうちょ銀行の口座を設置した。カンパを考えてくださる方がもしいらっしゃったら、こちらを参考にしていただければ幸いである。翻訳ミステリーの更なる発展のために、お力を貸してください。

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(12/1)三津田さんと打ち合わせ

 昨日は都内某所にて三津田信三さん、原書房Iさんと打ち合わせをした。いうまでもなく十二月十日のトークイベントの件である。聞けば三津田さん、刀城言耶シリーズのみならず、自著に関してのこういう催しに参加されるのはほぼ初めてに近いのだとか。ミス連のゲストでお越しいただいたことはあるけど、そういえばそうかもしれない。そんなわけで、初物にふさわしくいろいろおまけを考えてみました。当日参加される方は楽しみにしていてください。

 その後、早川書房のある神田に移動し、事務局の打ち合わせを少し。議題はもちろん、翻訳ミステリー大賞について。こちらも実のある話ができた。九日に候補作を発表するのが楽しみです。

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