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(1/30)『カニバリストの告白』のこと

※お断り。以下の記述でデイヴィッド・マドセン『カニバリストの告白』の内容に触れます。未読の方はご注意ください。

 ご存じの方も多いと思うが、唐沢俊一氏の文筆活動を監視し、その一つ一つについて批判を行っているブログがある。複数あるのだが、その中でもっとも閲覧者数が多く、影響力も強いだろうと思われるのが「唐沢俊一検証blog」だ。ブログの主であるkensyouhan氏の努力と、公平な立場での検証を心がける姿勢には頭が下がる。私も同ブログの愛読者である。

 その上で一点、気になったことを書く。昨日の同ブログのエントリーは「唐沢俊一の「朝日新聞」書評について。」と題したもので、唐沢氏が朝日新聞書評委員を務めた間に行った書評仕事を総括して批判するものだった。書評を生業とするものとして興味深く読んだのだが、その中にデイヴィッド・マドセン『カニバリストの告白』について触れた箇所がある。kensyouhan氏は同書についての唐沢書評は「唐沢俊一はどういうわけか書評の中でこの小説が人肉嗜好をテーマにしていることについて一言も触れていない」と批判する。「そもそも『カニバリストの告白』というタイトルを見れば本の内容はすぐにわかってしまうのだから、言葉を規制する意味なんてないのに」とも。

 実は検証blogがその唐沢書評を取り上げたのは初めてではない。同書評は二〇〇八年八月三十一日に朝日新聞に掲載されたのだが、直後の九月三日に「まさに人を食った書評。」として最初の批判が行われた。その中でkensyouhan氏は上記と同じ趣旨の批判を行い「朝日新聞から規制があった様子もない。それに規制するくらいなら最初から書評委員会で本が取り上げられるはずがない」と付け加えている。
 その後、唐沢氏が自身のサイトで二〇〇九年三月十八日に「それからカニバリズム小説なのに、朝日の規定で“人肉食”という言葉が
使えず悲鳴をあげながら書いた『カニバリストの食卓』」(どうでもいいけど書名が間違っている。引用元ママ)と書いたことについて、kensyouhan氏は追撃を行った。同年十月二十七日の「天下の朝日に責任転嫁?」記事がそれで、kensyouhan氏は朝日新聞が人肉食という言葉を規制した事実はない、と複数の事例を挙げて証明している。

 事実関係は以上の通りで、公平に判断するならkensyouhan氏の主張はもっともである。ただし、私は唐沢氏が『カニバリストの告白』について人肉食の要素を書かなかったことを支持する。なぜならば、その件は全三百五十一ページの本文の、二百七十ページ目で初めて明かされる事実だからだ。ミステリーとして『カニバリストの告白』を読みたい人にとって、これが重大かつ許されざるネタばらしであることは言うまでもない。私が同書の書評を行うとしたら、この一件は絶対に伏せるはずだ。代わりに別の要素を書く。いくらでも書くことはあるからだ。同書の主人公は亡き母親に対して近親相姦的な愛情を抱いており、母親に認められたという事実が料理への情熱に結びついている。そうするとどうなるか。彼にとって肉を料理することは、母親とのセックスにつながる快楽になるのだ。そうした「肉欲」のグロテスクさだとか、全体に充溢している下ネタだとか、書くべきことはいくらでもある。だいたいこの小説は一ページ目に「小刻みに震えるクリームのようになめらかな肛門にズッキーニを挿入」された死体が出てくる、とんでもないブラックユーモア小説なのだ。ここを紹介しなかったらチキンだね。

 だから唐沢氏は、規制云々などと言わずにミステリー書評の姿勢として書かなかったのだ、と主張したらよかったのである。それであれば私はこの件に関しては全面的に氏を支持した(他のことは未確認だから知らない)。

 ただし、kensyouhan氏や町山智浩氏が言うように『カニバリストの告白』という題名を見れば、ある程度の教養がある人間なら絶対に人肉食の小説である可能性を疑うだろうと思う。そういった意味ではkensyouhan氏の批判も的外れではない。同書をミステリーではなくて主流文学の喜劇小説として読むことは可能だからだ(その場合でも私は人肉食のことは書かないと思う。読者から気付きの機会を奪うことは書評の役割ではないと考えているからだ)。

 以上はkensyouhan氏と唐沢俊一氏いずれの肩を持つつもりもなく書いた。唐沢俊一検証blogの愛読者ではあるが、誰かの尻馬に乗って個人攻撃を行うことほど卑劣な行為はないと思うし、どんな過激な言説であっても、その中にきちんとした検証の姿勢があれば、批評として成立すると考える(kensyouhan氏のブログを評価するのはまさにその点である)。だからこそ、今回は公平な立場から意見を申し上げた次第。長文失礼致しました。

 あ、『カニバリストの告白』は抜群におもしろいから読むといいよ。上記のネタばらしがあっても小説の魅力が(それほど)大きく損なわれたことにはならないと思います。ぜひぜひ。

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