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(2/19)二十三年目の解散無用

 絵草紙屋の地下アジト、血相を変えた正八(火野正平)が転がりこんでくる。手文庫の中をがさがさと漁り、中から布にくるまれた匕首を取り出す。
 背後から近づく男。中村主水(藤田まこと)だ。主水静かに語りかける。
主水 おまえ、そんな物持ってどこへ行こうってんだ。
正八 (振り向く。すでにぼろぼろの涙顔)鉄っつあん、右手真っ黒焦げだよ!
主水 なんだって。
正八 松っつあん、生きる屍だってさ。俺、今から辰蔵のやつぶっ殺してくる!
 慌ただしく立ち上がろうとする正八
主水 ばかやろう!
 ぶん撲る。その場に崩折れる正八。うつぶせに倒れた正八の耳元に顔を近づけ、主水は語りかける。
主水 おめえみたいな餓鬼が行って何ができるってんだ。(声をやわらげ)俺がしくじってからでも遅くはないだろう。
 正八が顔をくしゃくしゃにして泣き始める。
正八 うぉお、うぉおおおん。
 絵草紙屋を後に夜の街を去っていく主水。胸中を示すように、カットバックで仲間・念仏の鉄(山崎努)、鋳掛屋の巳代松(中村嘉葏雄)が敵に拷問される場面が横切る。

 必殺シリーズでいちばん好きなキャラクターは藤田まこと演じる中村主水なのだが、それ以外では火野正平の絵草紙屋の正八がお気に入りだった。津坂匡章(現・秋野太作)、岡本信人、渡辺篤史らが務めた歴代の「手先」役の中で、正八はもっとも視聴者に近く、素人臭い甘さが残った人物だったように思う。そのちゃらんぽらんな男が、仲間の捕縛、拷問という未曾有の危機に遭遇する。『新・必殺仕置人』最終回「解散無用」である。仲間の危機を見て動転しまくる正八を、拳一発で諭し、貫目の差を見せつけたのが中村主水だった。このときの台詞にたぶん、気持ちをやられちゃったんだんだな。正八が視聴者に近い存在だった分、まるで自分に語りかけてきたかのような、浸透圧のある台詞だったと思うのである。

 俺がしくじってからでも遅くはないだろう。

 まず行くのは俺だ、後は任せた。そういう声が、私の耳にも届いたわけですよ、藤田さん。いや、空耳だったかもしれないけど。多くの必殺ファンが、いちばんのお気に入り、忘れがたい作品として「新・必殺仕置人」を挙げる。無理もない。四十一話にして非の打ち所のない完成度。シリーズ史上における最高の最終回である。ストーリーはもちろん、この場面に心を持っていかれたファンは多かったはずだ。私だけではなく。みんなあのとき、「何かがあったら、次は俺が/僕が/私が/あっしが/それがしが/小生が」と思ったんだよな。

 そんなわけで後は任せてゆっくりお休みください。これまで本当にありがとうございます。

 なお、冒頭の情景再現はDVDを敢えて見返さずに書きました。細部に間違いがあったら私の記憶のせいです。どうぞご寛恕ください。

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Comments

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Posted by: free music downloads | April 03, 2015 at 02:27 PM

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