(2/24)書きたくなかった原稿のお話
何日か前に「問題小説」三月号掲載の大藪賞選評がすごいという話を書いたが、書店で手にとってくださったかたはいるだろうか。書き忘れたが、今月号には私も二本原稿を書いている。一本はおなじみのブックレビューで、採り上げた本は湊かなえ『Nのために』、永嶋恵美『W 二つの夏』、連城三紀彦『変調二人羽織』の三冊。もう一本は北森鴻さんの追悼文だ。この原稿は正直書きたくなかったですよ。
最初に北森さんにお会いしたのは、たしか武蔵溝の口駅前のビルにあるファミリーレストランだったと思う。インタビュー取材だったのだが、ずっと料理の話ばかりで『屋上物語』に出てきたうどん屋のモデルは西武百貨店池袋本店の屋上にある店で、あそこの麺がいかに画期的か、というような話題で一時間終始した。あとで誌面を見たらきちんと原稿になっていたのだが、いったいどうやってまとめたのだろう。北森さんは本当に座持ちのする方で、偉ぶるところがまったくなく、いつも自分から話題を振ってこちらに気を遣わせないようにしていた。作家仲間にときどき深夜に電話をすると聞いていたが、一度だけ私もいただいたことがある。文庫解説を書いたときで、そのお礼の電話だった。まさかご本人からそういう電話があると思っていないときだったから、びっくりしてろくでもないことを口走った記憶がある。あのときはすいませんでした。
その北森さんが『ミステリーズ!』に連載していた『うさぎ幻化行』がこのほど単行本になった。「問題小説」に連載していた長篇小説の方は残念ながら未完に終ったが、こちらも単行本化の予定である。詳しいことが決まり次第、またお知らせできるはずだ。
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