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(2/5)自分だけはバカではない、という巧妙な意識操作

 中川淳一郎『今ウェブは退化中ですが、何か?』(講談社)を読んだ。書店の新刊棚で題名が目について買ったものだ。一気に読み終えた。

 なにがそんなにおもしろかったのかというと、読者層の想定の仕方である。普通の考えだと、日常的にブログを書いている一般人は「ネットの特性を理解している上級者」「ネットのことをよく判っていない初級者(携帯ユーザー含む)」の二種類がいる。上級者が初級者を「あいつらにはネット・リテラシーがない」とか「せっかくのツールを出会い系サイトみたいに使って」と見下すことができるのも、自分たちが流行の先端を走っているという自負があるからだ。

 ところが本書ではブログ人種をもっと明快に仕分けしている。「芸能人」と「それ以外」だ。たしかにビュー数などでいえば芸能人ブログの世間における認知の度合いは桁違いである。それ以外のブロガーなど、所詮はどんぐりの背比べにすぎない競争をしているだけにすぎないのだ。本当は「それ以外」の「上級者」と「初級者」との違いは、微々たるものである。にもかかわらず自分たちが何か崇高な目的の元に動いているかのように「上級者」が振舞うのは、ネットビジネスを利用して金儲けをしようと目論む企業の思惑に乗って、利用されているだけなのだ、と中川は書く。

 つまり「ネット初級者をバカと見下している自称ネット上級者こそバカ」と嗤う本だ。人間心理の常で、「あいつらバカ」という趣旨の本を読むとき、自分を「あいつら」に含めて怒る人はあまりいないのである。たとえ読者が、この本で批判されている立場に属する人だったとしても、「あいつらバカ(ま、オレはわかってたけど)」と優越感に浸れるように、視点に配慮して本書は書かれている。冒頭で、ネットのヘビーユーザーは本を読まないので無益な炎上を避けるために自分は書籍という安全地帯から発言をする、という趣旨の発言を中川はしている。ということは、書籍を読むような読者(あなた)は単なるネット中毒者とは違う、という言い訳にもなるわけだ。ここが巧いね。読者を不快な気分にしないよう、ちゃんと配慮しているわけだ。もちろん、本を通読しないで流し読みしたり、アマゾンのレビューだけを読むようなネット住人は、こうしたレトリックに気付かないで憤慨炎上するだろうが、それは作者の知ったことではないわけである。

 ちょっと茶化すような書き方をしてしまったが、私自身は本書から多くの啓発を受けたし、「ネットはとても便利なツールだけど、それだけで社会が変革するなんて思い込むのは楽観主義にすぎる」という意見にも同感である。単純におもしろい本が読みたい人や、ネットの世界の現状に関心がある、という人にはぜひお薦めしたい。前著の『ウェブはバカと暇人のもの』や、作者と立場の違う人の描いたネット礼賛本も私は読んでみる気になった。広がる読書を促す本でもある。

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