« January 2010 | Main | March 2010 »

(2/28)AMAZONのアフィリエイト規約改定は強気な態度 その2

(承前)

 アマゾンの規約改定について新旧比較の続き。

新6.注文処理(旧3.注文処理)
 ここはほぼ同じ。旧規約にあった「注文と納入にかかわるすべての側面はアマゾンが担当します」という文章が抜けているのはなぜか。この件に関わらず、「乙はこれをしなければならない」という項目が増えて、「アマゾンは何をしなければならない」が減っているのが新規約の特徴だ。

新7.紹介料(旧4.紹介料)
 かなり文章が変更されている項目。変更はされているが大枠に変化があったわけではなく、細部がちょこちょこ変わっている程度である。なんで新旧規約の変更箇所対比表を出さないのかと思ったが、こんな具合に全体の文章を変更したから、対比したくてもできない(面倒くさい)のだろう。大物だなあ。下々の者は面倒くさがらずきちんと読んでおけ、ということだ。読みました。
 以下はその細かい点。
(1)紹介料が払われるための条件として「お客様が(i)商品をショッピングカートに入れ、お客様の最初のクリックスルーから89日以内に当該商品を注文する」という条件がひっそりと追加になっていた。ショッピングカーとに入れたまま九十日以上経ったら紹介料を払いませんということか。これは旧規約にはなかったと思う。というか、知らなかった。
(2)紹介料を支払わない条件がいくつか列挙されていて、その中には旧規約(箇条書きではなくて文章で説明していた)には見当たらないものがある。
「乙のサイトからアマゾン・サイトへのリンクが適正にフォーマットされていないために正しく追跡または報告されない商品の売買。 」
「再販売目的またはいかなる種類の商業的用途のために購入された商品。 」
「以下のいずれかを通じてアマゾン・サイトに紹介されたお客様により購入された商品。 /禁止有料検索紹介サイト、または /リダイレクト・リンクを含むアマゾン・サイトへのリンクで、一般的なインターネット検索のクエリーまたはキーワード(すなわち、自然の、自由な、一般的な、または無料の検索結果)に対応して検索エンジン上に生成または表示されるもので、かかるリンクが乙によるこれらのサイトへのデータの提出その他により表示されるか否かを問わない。 」

 いずれも常識的な内容ではある。禁止有料検索紹介サイトについては別途説明がある。

 あ、書いていて気がついたけど、この7.紹介料の中で「アソシエイト・プログラム紹介料率表」へのリンクが貼ってあるけど、URLが間違っている。やっぱり大物だ。

新8.紹介料の支払い(旧6.紹介料の支払い方法)
 特に大きな変更はない。

新9.ポリシーおよび価格(旧7.ポリシーおよび価格)
 旧規約よりも文章量が減っているが、他の項目に吸収されたため。大きな変更はない。

新10.乙がアソシエイトであることの表示(旧8.Amazonアソシエイトであることの明示とその範囲)
 ここも大きな変更はない。

新11.限定ライセンス(旧9.制限的ライセンス)
 文章は異なるが大きな変更はない。要するにアマゾンの商品を売るためという目的に限ってアマゾンのサイトにあるコンテンツを乙のコピペすることを許可するという内容だ。レビューの全文引用も、その目的においては認めると書いてあるように読める(レビュワーはアマゾンに著作権行使権を無条件で与えているのでそれに対して文句はつけられない)。でも、アフィリエイターじゃない人が勝手に全文引用を行ったり、雑誌記事などにライターが自分の原稿としてこっそり使ったりするのは駄目なのだ。当たり前だけど。

新12.権利の留保、提案(旧なし)
 ここも新規追加になったところだから、ちゃんと読んでおいたほうがいい。つまり乙はアマゾンに対して知的財産権や所有権などを請求しちゃだめよ、ということである。もう一つは乙からアマゾンに対して行われた「提案」(たとえばプログラムの改善だとか個々の商品についての情報修正)の内容をアマZンは無制限に使用できるし第三者に対しても頒布ができる。要するにお上に何か申し上げても、お上はわざわざ民に褒美を与えたりはしませんよ、ということだ。この契約が台頭なものではないということをよく表しているように思う。

新13.法令遵守(旧11.法廷遵守)
 大きな変更なし。

新14.契約期間および契約解除(旧12.契約期間)
 大きな変更なし。乙がアフィリエイト契約を破棄した場合の、未払い分紹介料の支払いについての規定が追記されているが、まあ常識的な内容でしょう。

新15.修正(旧13.修正)
 大きな変更なし。「甲の修正に乙が同意できない場合は、乙の唯一の対応方法は本規約を解除することだけです。アマゾン・サイト上に変更のお知らせ、修正済み規約または修正済み運営文書が掲載された後も引き続きプログラムに加入していただいている場合は、乙がその修正を拘束力のあるものとして承諾したものとみなします。」という文言を(これに類する記述はトップページのお知らせにもある)高飛車だとか今回の変更は強引だとか評する声が上がっていたが、この記述自体は元からあるのである。もともとそういうアマゾン様だったということだ。また、この箇所に限らず、太字になっている文章がいくつかあるが、それらは「追加・修正になった文章」ではないから気をつけていただきたい。そこだけ読めばいいわけではないのである。太字箇所は「特にアマゾンが主張した文章」と読むべきだ。

新16.両当事者の関係(旧14.当事者関係)
 大きな変更なし。

新17.責任限度(旧15.責任限定)
 追加になったのはアマゾンが乙に対して行う損害賠償の限度が「直近に生じた責任請求の原因となった出来事の日の直前の12ヶ月間において、本規約に基づき乙に支払われた、または支払うべき、合計紹介料を超えないものとします。 」という規定である。旧規約には十二ヶ月という記載はなかった。

このあと旧規約にあった17.独自調査という項目が削除されている。

新18.無保証(旧なし)
 これも新規の項目だ。要するにアマゾンは提供するサービスについて、乙に一切の保証を行わないということである。言い方はきついが、常識的な内容だと思うので、気になる人は読んでおくことをお勧めする。

新19.紛争(旧18準拠法および旧19.紛争)
新20.雑則(旧20.譲渡および旧21.不放棄)
 それぞれの項目が合体したもので、大きな変更はない。雑則の方には「特別リンクサービスを利用する場合」のライセンス契約に関する記載が追加されているが、自分には関係がなさそうなのであまり真面目に読まなかった。あとは、旧規約にあった22.税金の項目が削除されている。

 以上である。何度か書いたが「アマゾン様はアフィリエイターに情報と商売の機会を与えているんだから、あれをしろこれをよこせといった面倒くさい些事にはとりあいませんよー」という態度が明確になったように思う。それが嫌ならどうぞ契約解除くださいということだ。お殿様だねえ。

| | Comments (1) | TrackBack (0)

(2/28)AMAZONのアフィリエイト規約改定は強気な態度 その1

 しばらくアフィリエイトのサイトにログインしないでいたら、知らない間に規約改定のお知らせが出ていた。三月一日だから、明日からじゃないか。お知らせが出されたのは二月下旬のことらしいが、こんな短い期間で結構長い規約を全部読ませようというのか。いや、読む気が起きないように短い期間なのか、そうか(邪推)。

 企業に勤めていた際、結構大きな金額の契約をまとめることが多かったので、こういう規約は一応全部読むことにしている。今は翻訳ミステリー大賞シンジケートの管理人もやっているので、責任もある。以下、新旧規約について変更点を簡単にまとめてみた。法律の素人が書いたことなので、大雑把かつ不正確な点はご容赦いただきたい。なお甲=アマゾン、乙=自分(サイト)である。

新0.前文(旧前文)
「同意する」ボタンでプログラムへの参加表明を行うことになる旨の文章が追加されていた。まあ、常識的な内容である。

新1.本プログラムの説明(旧なし)
 いきなり新規の項目が追加されていた。常識的な内容で、旧規約の2に含まれていた「除外商品」「除外マーチャント」の規定が行われている。問題なし。

新2.加入申込み(旧1.プログラムへの加入)
 プログラムへの加入を断る場合の例示に以下が追加されていた。
(c) 誹謗中傷を奨励する、またはかかる内容を含むサイト。
(g) ソーシャル・ネットワーキング・サイト上で、アマゾンまたはその関連会社の商標をユーザ名、グループ名、またはその他の識別子に含むサイト。例えば、TwitterやFacebookなどのソーシャル・ネットワーキング・サイト上に登録される「Javari Shoes」、「Amazon Japan」または「Kindle For You」などのユーザ名は不適切となります。

 旧規約では加入者は適法に契約を締結できる者のみだから20歳未満は親権者か後見人の承諾がないと駄目よ云々という文言があったが、どこかに消えていた。他の条項にまとめられたのかな?

新3.乙のサイトのリンク(旧2.乙のサイトのリンク)
 ここは旧規約ではリンク方式(アマゾンライブリンク、イージーリンク、サーチ結果リンクなど)が列挙されていたのだが、新規約ではばっさり削除された。契約とは無関係ということで無くなったのか。別にかまわないけど、やや不親切だとは思う。

新4.プログラム要件(旧なし)
 これも新規に追加された項目。旧規約であちこちに分散していた内容を、リンクで跳べるアソシエイト・プログラム参加要件に集約している。全部を読むのは面倒くさい人もこの部分だけは目を通しておいたほうがいいかも。常識的な内容ではあるのだけど。

新5.乙のサイトに対する責任(旧10.乙のサイトの責任)
 順番が入れ替わった。乙が追うべき責任を列挙してあるのだが、旧規約とはすべて文言が異なっている。微修正というよりは、規約を起草した際の思想、狙いが変化しているためだ。そのことは以下の記述に象徴されている。乙が単独で責任を負うことの一つにこうある。
「甲の権利またはその他の個人もしくは企業の権利(著作権、商標、プライバシー、パブリシティー権、またはその他の知的財産権もしくは所有権を含む。)を侵害せず、これらに違反せず、またはこれらを不正流用しない方法にて、甲のコンテンツ、乙のサイト、および乙のサイト上またはサイト内における素材を使用すること。」
 今回の規約改定は要するにここが言いたいのではないかという気がする。アフィリエイターに対してアマゾンは権利の譲渡をしません、アフィリエイターはそういう無茶な要求をしないでね、あくまで販売の一チャンネルとしてしか見てないんだから、ということだ。アマゾン本体の法務でそういう強化の動きがあったのかな。だから旧規約ではあっさりと書かれていた以下の内容が、倍以上の文章量で詳しく書かれている。ここも読んでおいたほうがいい箇所だ。
「甲は、前記の事項や、それに関する乙のエンドユーザのクレームについては何らの責任も負いません。また、乙は、後記(a)から(e)に関連する一切のクレーム、損害、損失、責任、費用および支出(弁護士報酬を含む。)につき、甲、甲の関連会社およびライセンサー、ならびに甲およびこれらのそれぞれの従業員、役員、取締役および代表者を抗弁し、これらに対して補償し、被害を与えないことに同意します。(a)乙のサイト、または乙のサイトに表示される素材、および乙のサイトまたはかかる素材と他のアプリケーション、コンテンツまたはプロセスとの組合せ。(b)乙のサイトまたは乙のサイト上もしくはサイト内に表示される素材の使用、開発、設計、製造、生産、宣伝、販売促進またはマーケティング、および本第5条に記載する一切のその他の事項。(c)乙による甲のコンテンツの使用。本規約によりかかる使用が許可されているか、本規約に違反するか、または適用ある法律に違反するか否かを問わない。(d)本規約のいかなる規定または条件の乙による違反。(e)乙または乙の従業員による過失または故意の不法行為。 」
 お前らわしに迷惑かけんなよ、と言いたいわけね。

(つづく)

| | Comments (8) | TrackBack (0)

(2/27)名前の由来は「起きたばっか」

 漫画家の沖田×華をインタビューすることになった。知り合いを取材するというのは、なんとなく新鮮な気持ちがするものである。ゲッツ板谷さんのところのサイトつながりだ。

 朝から今までかかって、PTA広報誌のための原稿書き。三百字を二本だが、文庫解説を一本書くよりも疲れた。気を遣う原稿なのである。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/26)『まんが極道』は相変わらず怖い

 漫画家の実態を残酷に描く唐沢なをきの『まんが極道』の四巻が出た。仕事の合間にぱらぱら読んだが、かさぶたを剥がして傷口をぐじぐじつついているような恐怖を感じる。いや、もちろん笑えるのだけど。

 たとえば、物書きとして生計を立てている中で「墜落」前後編に戦慄しない人はいないはずだ。これまでの各巻にも出てきて、傍若無人な態度でアシスタントをいたぶってきた漫画家の山本孫太郎虫先生が売れっ子の座から滑り落ちていく過程を描いたものである。連載が打ち切られて定期預金を解約するくだりとか、嫌だなあ。あと壺にはまったのが、「漫画家の妻」の話。売れっ子漫画家と結婚した女性が果てしなく増長していくのだが、その台詞がもう……。

 ――でね! でね! 私はね! 漫画評論を足がかりにしてエッセイストとかコラムニストとかライフスタイルアドバイザーとかワイドショーのコメンテーターになってそれをプロ意識をもってやる予定なの!! すごいでしょう

 プロ意識をもってやる予定って。うわ、ここまで残酷に書くか。他にもいろいろ書きたいことはあって、たとえば「いや、そうじゃなくて」の話は例のテレビ取材拒否の話を下敷きにしているとか、「酸欠くん」は全年齢対象とすれすれの表現だとか、「矜持」というのは外見だけだとひどい話だけど実はいいことを言っているとか、たくさんある。でもまあ、このへんで。ギャグ漫画としてとても好きな作品なのでご紹介した次第。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/25)SF翻訳界の巨人VS小学五年生

 以前から書いているように私は子供の小学校で読み聞かせボランティアをやっている。本日が平成二十一年度最後の当番だったのだが、さすがに本を選ぶのに苦労した。二年生のころから始めて四年目、毎回毎回「子供を笑わせる」「いい話で妥協しない」という目標を掲げてやってきたので、そろそろネタが尽きてきたのだ。低学年だったら絵本でも笑ってくれたんだけど、そろそろお兄ちゃんお姉ちゃんでしょう。もう絵と言葉のパワーで押し切るだけではなく、物語の力で押すべきなのではないかと思ったわけである。ちなみに前回読んだのは星新一「おーい、でてこーい」。まあ定番ですね。星新一は偉い。これを試金石にして、まずは日本SF作家のショートショートに挑戦してみようと思ったのだ。

 だけど、なかなか上手くいかないものである。Twitterでお知恵を借りて当たってみた書名の数々が、たしかにおもしろいのだけど、必ずしも読み聞かせには適さなかったのだ。使われている言葉や時代背景が旧かったらそれだけで子供の耳を素通りしてしまうし、子供向けに書かれた作品ではないからちょっと教室で読むには不適切な表現もある。なによりも、長すぎたり短すぎたり。二十作ぐらいは検討したかな。結局目的に合致したのは二作だけでした。その二つだけでは十五分という時間がもたないので、どうしようと頭を抱えた。

 当日朝になって思い出したのは、『ジョン・ディクスン・カーを読んだ男』の作者ウィリアム・ブリテンが、ビル・ブルトゥン名義で児童書を書いていたということ。さっそくその一冊『魔法をかけられた世界中のお金』が図書館で借りられないか探してみたら、ありましたよ、電車の駅で四つばかり行ったところにある図書館に。急いで往復すれば、一時間半でいける場所だ。読み聞かせまでは二時間ある。よし楽勝だ、と思ってその図書館に出かけたのだが、借り出してみてびっくり。

 ちょ、長篇でした。

 そういえばこの本、以前にも読み聞かせに使えるかもしれないと思って借り出して「あー、長すぎるな」と諦めたことがあるのだった。がっかりした瞬間に思い出した。もっと早く思い出せよ。

 この時点であと三十分、学校までは歩いて十分ちょっとかかるから、家の書棚から何か一冊選ばないといけない。かといってそんなにすぐ読み聞かせに適した本が見つかるわけないし、うわわわわ、どうしよう。いっそのこと小さいころ覚えた「まんじゅうこわい」でも語るか(それは本末転倒)。と思い惑うこと五分。

 結局、『ユーモア・スケッチ傑作展』(早川書房)からジェローム・K・ジェローム「自転車の修繕」を選んで読むことにしました。とても好きなスケッチの一つで、あの『ボートの三人男』の続篇の一部を抜粋したお話だ。迷惑な男が家にやってきて愛用の自転車を分解してしまうさまを描いている。スラップスティックだ。私はこの作品を読んで小学生のころ大爆笑した記憶がある。よし、これでいこう。自分なりの浅倉久志追善興行だ(ずいぶん規模はちっちゃいけど)と、意気込んで教室に向かったのである。

 結果は、そうですね。浅倉久志と小学生が引き分けという感じかな。ところどころは受けたので良しとしましょう。でも私はもっと笑ったんだけどね。やはりこういうものは、読み聞かされるのではなくて、自分で読んで楽しむものなのかもしれない。図書館に、『ユーモア・スケッチ傑作展』三巻を寄付しなければならんな、と思った次第です。

 ちなみに、時間が一分だけ余ったので、準備していたショートショートのうち一本を読むことにした(もう一本は秘密だ)。お題は筒井康隆「到着」。ああ、と思うでしょう。そのとおり、こっちは馬鹿受けだった。読み終わったあとも子供たちが、「べちゃっ」と口真似をしていたくらいである。そうか、この「口にして楽しい」という要素がまだ大事なのかもしれないな、と思いました。「バブリング創世記」とかどうなんだ。ありゃ元ネタを知らないか。





| | Comments (1) | TrackBack (0)

(2/25)第三回世界バカミス☆アワード候補作発表!

 投票をいただいた結果、下記の十二作が最終候補作として選ばれました。
 アワードが決定するのは3月6日。みなさんも青山ブックセンター本店で、歴史の証人になりませんか?
 今回はネット投票も予定しています。
 詳細は別途。少々お待ちを。

『フラクション』駕籠真太郎(コアマガジン社)
『三崎黒鳥館白鳥館連続殺人』倉阪鬼一郎(講談社ノベルス)
『バッド・モンキーズ』マット・ラフ(文藝春秋)
『粘膜蜥蜴』飴村行(角川ホラー文庫)
『解雇手当』ドウェイン・スウィアジンスキー(ハヤカワ・ミステリ文庫)
『電気人間の虜』詠坂雄二(光文社)
『ダイナー』平山夢明(ポプラ社)
『死神を葬れ』ジョシュ・バゼル(新潮文庫)
『迷惑なんだけど?』カール・ハイアセン(文春文庫)
『レポメン』エリック・ガルシア(新潮文庫)
『世界名探偵倶楽部』パブロ・デ・サンティス(ハヤカワ・ミステリ文庫)
『神国崩壊―探偵府と四つの綺譚』獅子宮敏彦(原書房)

| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/24)ゾン子もビっくり

 今週号の「週刊SPA!」見本到着。『高慢と偏見とゾンビ』について原稿を書きました。「文化堂本舗」のコラムをご覧あれ。

 それにしてもびっくりしたのは、いつの間にか書評ページのレイアウトが変わっていて、縦組みだった原稿が横組みになっていたことだ(そしてコラム欄のタイトルがなくなり、筆者の写真もなくなった。これはまあいいこと)。なにがびっくりって、それに今まで自分が気付いていなかったこと。もう何回も原稿を書いていたはずなのに。いかに掲載後の原稿を読み返していないか、これで判りましたな。そういえば「最近あまり原稿の掲載号を送ってこないなあ」とか思っていたのだった。自分が見逃していただけだよ! これで今まで字数オーバーとかの事故が起きてなかったことが奇跡だ。

 それはともかく『高慢と偏見とゾンビ』はみんなで読もう。カンフー小説でもあるし。原稿では紹介しきれていないが、ちくま文庫の中野康司訳『高慢と偏見』も併せて読むとなお良し、である。



| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/24)翻訳ミステリー大賞贈呈式とコンベンションに来てください

 お待たせしました。第一回翻訳ミステリー大賞の贈呈式及びコンベンションの日程が発表されましたので、どうぞご覧ください。ただいま絶賛参加者募集中です。

 こちらを見たらぜひ参加申込みを!

 なにしろ初めての試みということで、スタッフ一同てんてこまいをしています。参加者によって作り上げていくイベントにしたいと思いますし、二回、三回と続けていくつもりですので、ぜひとも足を運んでみてください。

(翻訳ミステリー大賞のイベントは以下の人にお薦めです)

・職場や学校で周囲に翻訳ミステリーファンがいなくて淋しい思いをしている人→当然ですが周囲にいるのは翻訳ミステリーファンか潜在的なファンばかりなので、居心地良く楽しめます。

・翻訳ミステリーにちょっと興味があるけど何を読めばいいのかまだよくわからない人→今後の読書の参考になるような楽しい企画がたくさんあります。

・翻訳ミステリーマニアでちょっとやそっとのことじゃ驚かないよという人→同じような人がうようよいて、よしやってやろう!(なに?)という意欲が湧いてきます。

・翻訳ミステリーファンってどんな人なのという野次馬的好奇心がある人→ぜひ観察してみてください。

・手作りのイベントに関心がある人→翻訳ミステリー大賞事務局は現在企画部屋を募集中ですのでご提案ならなんでも歓迎です。

・これから話題になりそうなイベントは何があっても初回を見逃したくないという人→そうなります!(たぶん)

・徹夜でだらだら本の話をするのが好きな人→徹夜でだらだら本の話をしに来てください。

・遅くまでお酒を飲むと帰るのが面倒くさくなる人→たぶん面倒くさくなると思うので最初から宿泊の申込みをするといいと思うんだ。

・3月21日(日)に都内で用事があるんだけど今からホテルの予約をしなくちゃなと思っている人→奇遇だなあ、実はこのイベント、宿泊は八千円なんだよ。和風旅館に泊まってこの値段なら悪くはないんじゃないのかい?

・将来翻訳家になってみたいなと思っている人→言い忘れましたが、翻訳家の方も多数参加していただける見込みですので、ぜひ来てみてはどうか。

・杉江松恋の友人→来てよ。

 そんなわけでお申込みを待っております。よろしくどうぞ。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/24)書きたくなかった原稿のお話

 何日か前に「問題小説」三月号掲載の大藪賞選評がすごいという話を書いたが、書店で手にとってくださったかたはいるだろうか。書き忘れたが、今月号には私も二本原稿を書いている。一本はおなじみのブックレビューで、採り上げた本は湊かなえ『Nのために』、永嶋恵美『W 二つの夏』、連城三紀彦『変調二人羽織』の三冊。もう一本は北森鴻さんの追悼文だ。この原稿は正直書きたくなかったですよ。

 最初に北森さんにお会いしたのは、たしか武蔵溝の口駅前のビルにあるファミリーレストランだったと思う。インタビュー取材だったのだが、ずっと料理の話ばかりで『屋上物語』に出てきたうどん屋のモデルは西武百貨店池袋本店の屋上にある店で、あそこの麺がいかに画期的か、というような話題で一時間終始した。あとで誌面を見たらきちんと原稿になっていたのだが、いったいどうやってまとめたのだろう。北森さんは本当に座持ちのする方で、偉ぶるところがまったくなく、いつも自分から話題を振ってこちらに気を遣わせないようにしていた。作家仲間にときどき深夜に電話をすると聞いていたが、一度だけ私もいただいたことがある。文庫解説を書いたときで、そのお礼の電話だった。まさかご本人からそういう電話があると思っていないときだったから、びっくりしてろくでもないことを口走った記憶がある。あのときはすいませんでした。

 その北森さんが『ミステリーズ!』に連載していた『うさぎ幻化行』がこのほど単行本になった。「問題小説」に連載していた長篇小説の方は残念ながら未完に終ったが、こちらも単行本化の予定である。詳しいことが決まり次第、またお知らせできるはずだ。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/23)なにがびっくりって筆者が黒原敏行だということだ

 いやいやいや。黒原敏行さんが書かれる文章はおもしろいと以前から思っていたが、まさかこういう手でくるとは!

 翻訳ミステリー大賞シンジケートで毎月更新している、翻訳者による「初心者のための作家入門講座」、今月はコーマック・マッカーシーである。当然ながら執筆はマッカーシー翻訳者の黒原敏行さんにお願いしたのだが、上がってきた原稿を見てびっくり。予想の斜め上をいくはっちゃけぶりだったのだ。これはぜひ読んでもらいたい。『ユダヤ警官同盟』で黒原さんの名を覚えた人は、読めば訳者に対して抱いていた先入観が変わるはずだ。ここ

 もしかしたら黒原さん、浅倉さんの跡を継いでユーモア・スケッチ翻訳もいけるんじゃないの? 早川書房はさっそく打診したほうがいいと思う。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/23)滝田務雄に注目したい

「ナンプレファン」四月号の見本をいただいた。今回の「より道ミステリー」で取り上げたのは滝田務雄『田舎の刑事の闘病記』(東京創元社)である。第一作『田舎の刑事の趣味とお仕事』(創元推理文庫)のときは、狙いはいいけど地味な作品集だよな、という印象だったのが、二作目になって魅力が開花した観がある。刑事としては切れ者だが神経質が玉に瑕な主人公とちゃらんぽらんな部下、何を考えているのかさっぱりわからない主人公の謎の妻、署内を私物化する署長、といったキャラクターがうまく動きだしたということが大きい。コメディとしての枠がきちんとはまれば、その中に盛りこんだ素材も活きてくる。全五篇、毎回趣向を変えた謎解きが楽しめるというお得感のある短編集だ。次回作は長篇だというが、ぜひこの盛りだくさんな感じを変えずにいってもらいたいものである。


| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/22)ジョー樋口は偉い、ラジャ・ライオン偉い!

 毎回楽しみに読んでいる「BREAK MAX」の吉田豪インタビュー、四月号の今回は和製ドラゴン、倉田保昭がゲストだ。

 三軒茶屋から下北沢に向かう茶沢通りの途中に倉田氏の道場だか養成所があるとかで、いつか前を通ってみたいと思いつつも果たせずにいる。興味深く読んでいたら、あの「ジャイアント馬場と異種格闘技戦をやった男」ラジャ・ライオンに関する記述があった。ちょっとだけご紹介を。

――(前略)ジャイアント馬場さんとの対戦で知られるラジャ・ライオンとかはどうでした?
倉田 ……気が弱いだけ(キッパリ)。
――やっぱり(笑)。身長226センチでジャイアント馬場よりデカい空手家だけど。
倉田 こういう椅子に座るとすぐ椅子壊しちゃって。「お前はもう椅子なかいらないから地べたに座ってろよ!」って言って。
――ダハハハ! 絵が浮かびます!

 すこぶる納得。ラジャ・ライオンといえば馬場戦で見せた「尻餅」が有名だが、倉田邸でも必殺技を繰り出して椅子を破壊していたわけである(詳細は各自調査)。こんな素晴らしいお話が満載の「BREAK MAX」は現在絶賛発売中です。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/22)プロレス記者の本が売れない理由

 興味のない人はまったく食指が動かないだろうが、プロレス関係の本を二冊続けて読んだ。元日本テレビアナウンサーの倉持隆夫による回想記『マイクは死んでも離さない 「全日本プロレス」実況、黄金期の18年』(新潮社)と元「週刊ファイト」編集長・井上譲二『「つくりごと」の世界に生きて プロレス記者という人生』である。前者は題名を見れば一目瞭然の内容で、日本テレビのプロレス中継を支えた筆者が実況の再録などを交えながら当時のことを書いている。後者は「週刊ファイト」の編集長が初めて、プロレスの裏を知っていながら業界を守る形で報道を行っていたことをカミングアウトし、プロレス斜陽の理由を探るという内容である。どちらの筆者もプロレスファンがそのまま仕事に就いたわけではなく、一歩引いた形の業界入りだったことを明かしている(倉持は元々野球実況希望。井上はプロレスの「つくりごと」に気づき、仕事と割り切って編集部入りした)。能天気なプロレス礼賛ではないのが逆におもしろい。

 気になったのは後者で、井上はプロレス専門記者より一般のライターが書く本の方がおもしろく、売れるのはなぜかという問題提起を行い「プロレス記者は肝心なことが書けないから」と自答している。暴露を目的とした本ではなくても、書くべきところをはっきり書いてしまったほうがおもしろい。一般ライターはその点のしがらみがないからいいが、専門記者はどうしても関係者に遠慮をしてしまう、というのである。

 これは半分正しい。井上が『「つくりごと」の世界に生きて』を書いたのも、踏み越えられない境界線を越えようという英断を下したからだろう。勇気ある判断だと評価したい。しかし、半分は間違っているのである。プロレス記者が書いたプロレス本が売れないのはなぜか。それは文章が下手で、構成に問題があるからである。もっと端的に言うと、プロレス記者の書く本は小島和宏『ぼくの週プロ青春期 90年代プロレス全盛期と、その真実』(白夜書房)や金沢克彦『子殺し 猪木と新日本プロレスの10年戦争』(宝島社)を除き、根幹となるプロットが明確ではなく、知っていることをただ羅列しただけの魅力ない構成の本がほとんどである。これは、記者時代に短い煽りの文章しか書いてこなかったことの弊害だ。じっくりと長い文章を読ませるだけの構成力がないのである。プロレス記者本としてはおもしろい部類に入る上記の二冊には、読者に「その先を知りたい」と思わせるだけの牽引力があった。それは「つくりごと」を暴露しているからではない(当然それについての言及はあるが)。前者について言えば「週プロ記者として無茶苦茶な生活をしている筆者がどのような運命をたどるのか」という関心が、後者はばらばらに配置されたエピソードがアントニオ猪木というキーワードによって結び付けられていくミステリーのような趣向が、読者にとっては強烈なフックになる。長い本を読ませるためには、それだけの構想が必要なのだ。

『「つくりごと」の世界に生きて』が残念なのは、題材はおもしろいのに、やはり知っていることを羅列しただけのプロレス記者本の域から脱していない点だ。冒頭は気を引かれるのに、読んでいるとだんだん飽きてくる。もっともおもしろいことが最初に書かれていて、あとは同工異曲のくりかえしなのだから仕方がない。はっきり言って編集者の責任だと私は考える。せっかくの素材なのだから、もう少しなんとかしてあげてもらいたかった。「週刊プロレス」の現在の誌面を眺めてみればわかるが、プロレス記者は一つの目的だけに特化した書き手であり、広い世間に通用するだけの文才を持ち合わせているわけではない。その点に目をつぶり、プロレスファンの興味を惹くだけでいいや、と割り切って本を作れば、縮みゆくプロレス業界の市場規模に見合った売れ行きのものしかできないのは当たり前のことだ。高田延彦・金子達仁『泣き虫』(幻冬舎文庫)や柳澤健『1976年のアントニオ猪木』(文春文庫)が売れた理由をよく考えてもらいたい。世間に届く本を作るやり方とはそういうことだ。






| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/21)マイケル・シェイボンとS・S・ヴァン・ダイン

 全日本大学ミステリ連合で急遽読書会を開くというので覗いてきた。課題作はマイケル・シェイボン『シャーロック・ホームズ最後の解決』、『ユダヤ警官同盟』の作者が手がけたホームズ・パスティーシュの佳品である。

 あの小説には、殺人事件とは別にもう一つの謎が呈示されている。そちらの方は最後まで明確な形では解が示されていないので読後非常に不安になるのだ。うー、誤読しているんじゃあるまいか。気になったのでこちらで、海外の書評なども検索してみた。結論としては自分が納得するような解を示してくれるものはなかった(ネタばらしになるから当たり前なんだけど)。ちょっとおもしろかったのは、ニューヨーク・タイムスの書評である。いきなり「探偵小説の読み方はS・S・ヴァン・ダインが一九二八年に制定した探偵小説二十則によってルール上の拘束を受けている(大意)」なんて文章から始まるんだもんな。なぜそこから始める。ヴァン・ダインのアレは権威主義というか「オレ偉い」主義というか、微笑ましい自意識によって支えられている代物であるわけだが、それにシェイボンの稚気に満ちた小説をぶつけるという試みなのである。書評としては遊びが多いよね。

 読んでみると、ヴァン・ダインの第十六則が引き合いに出されていて、急に気になってくる。ええと、それはなんでしたっけ。故・中島らもが戯曲で「七福神の名前を相手に全部言わせて不安にさせる攻撃」というのを書いたそうで、ええと弁財天に毘沙門天と、と挙げていって六人目から後がいえず「うう、なんだったかいのう」と頭を抱えさせるものだという。それと同じで、ヴァン・ダインの二十則を全部言わせる攻撃が成立するかもしれない。「ちゅ、中国人を出してはいけない」「それはノックスのほうだ!」とか。

 そんなことを思った土曜日の昼下がりでした。



| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/21)三津田信三さんにインタビューをしたのだ

 事情があって先週はアップできなかった「翻訳ミステリー大賞シンジケート」の週末招待席インタビューを更新した。今回で三津田信三さんの回はおしまい。最後は豪華に、最近読んでおもしろかった作品を列挙していただくことにした。ちょっとお話をしただけで、出るわ出るわ。読んでいなかった本の話題が出てきて、後から慌てて書店に走るはめになったくらい。いや、感服つかまつりました。本当に翻訳ミステリーがお好きなのですね。

 この翻訳ミステリー大賞シンジケートインタビューだが、次回のゲストは逢坂剛さんを予定している。これまた濃い話が展開される予定なので、お楽しみに。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/19)第十一回大藪春彦賞の選評が凄すぎる件

「問題小説」三月号に掲載されているのでぜひご覧いただきたい。同賞は本年で第十一回を迎えた。今回の受賞作は樋口明雄『約束の地』、道尾秀介『龍神の雨』の二作で、他の候補作は沢村凛『脇役スタンド・バイ・ミー』、百田尚樹『風の中のマリア』、誉田哲也『ハング』(徳間書店)の三作だった。現在の選考委員は、逢坂剛、志水辰夫、真保裕一、馳星周の四名。いや、この四人による選評が凄いのである。何が凄いかというと、きちんと読んだ上で、作品の短所を的確につく、極めて辛口の論評になっているという点。プロの作家に授与される文学賞は他にもあるが、選評を読んでいて首を傾げたくなることもある。特にメジャーなあの賞ね。しかし大藪賞は違う。どの選考委員の評価も極めてもっともである。これには候補作家も頷くしかないのではないか。

 まず気がつくのが、今回の同時受賞という結果が選考委員にとって「甲乙つけがたい作品だからどちらも受賞」なのではなくて「消去法によって二つ残って落選作を決めかねた」結果であったらしいということ。馳星周の選評がのっけからその気分を伝えている。

 ――できれば受賞作はなしにしたい、というのが本音だった。しかし、若手の背中を押してやることもこの賞の存在理由なのだと言われれば、わたしに反論の言葉はない。だから、重い気分で選考会場に赴いた。

 それゆえに、各作品への評価も熾烈を極めるものとなった。落選作について、以下抜粋を示す。なるべく選評の中核となるような文章を抜いたつもりだが、ぜひ原文をご確認いただきたい。

・沢村凛『脇役スタンド・バイ・ミー』(連作集)
「五作目まではおもしろく読んだが、なぜか六作目でいきなり作り物めいた展開になり、エピローグにあたる最終作で結構が崩壊した」(逢坂)
「ありふれた日常から、このような事件をすくい取ることのできた作者の力量は大いに評価したい(中略)終章のまとめも取ってつけた感じで、腑に落ちる内容とはいいがたい」(志水)
「(前略)作者には、文章力がある(中略)が、まとまりすぎていて、驚きがどこにもない。各話もすべて収まるところに収まってしまい、心に残るものが薄い」(真保)
「最終的にこの形に収めることには無理があったと思う」(馳)

・誉田哲也『ハング』
「筆力があるだけに、その才の切り売りを惜しむ。ホラーでもないスプラッタでもない、そして今風の若者の崩れた会話に頼らぬ、本格的なサスペンス小説を期待したい」(逢坂)
「確実にうまくなっているし、読むものを巧みに引きこむストーリーテラーとしてのセンスにも恵まれているのに、構成が乱暴すぎるのだ。書き飛ばしの域を出ていないのである」(志水)
「『ハング』が候補になったのも、版元が主催する出版社の作品という不運なのだろうと思いたい(中略)たとえ手慰みの作品で、候補に挙げられたこと自体が不本意でも、細部に手を抜かずに書いたものであるなら、もっと評価は得られたはずだ」(真保)
「(前略)選考委員という立場になければ途中で読むのをやめていただろう(中略)この作品を担当した編集者は糾弾したい。あなたは小説家と一緒に戦う覚悟があるのか? あるのならば、なぜこんな作品をゆるしたのか?」(馳)

・百田尚樹『風の中のマリア』
「〈スズメバチの生態と一生〉という、ノンフィクションノベルとして読むのならば、この小説は格好のガイドブックになるだろう。惜しむらくは、それ以上でも以下でもない」(逢坂)
「(前略)擬人化はやむを得ないとして、寄りかかり方が安易にすぎ、興を削がれるところが少なくなかった」(志水)
「そこにゲノムを理解したうえでの人間の視点が垣間見え、与えられた台詞を語る虫たちの存在感のなさが気になってしまった点だ」(真保)
「蜂の一生は三十日で終る。とても短い。それはいいが、スズメバチがそんなことを認識、思考するはずがないではないか」(馳)

 どうです、この一刀両断ぶり。そして作品の急所を確実にとらえる批評の確かさ。信用できる読みとはこういうことを言うのである。受賞作についての評価は、ぜひ本誌を読んで確認されたい。





| | Comments (3) | TrackBack (0)

(2/19)二十三年目の解散無用

 絵草紙屋の地下アジト、血相を変えた正八(火野正平)が転がりこんでくる。手文庫の中をがさがさと漁り、中から布にくるまれた匕首を取り出す。
 背後から近づく男。中村主水(藤田まこと)だ。主水静かに語りかける。
主水 おまえ、そんな物持ってどこへ行こうってんだ。
正八 (振り向く。すでにぼろぼろの涙顔)鉄っつあん、右手真っ黒焦げだよ!
主水 なんだって。
正八 松っつあん、生きる屍だってさ。俺、今から辰蔵のやつぶっ殺してくる!
 慌ただしく立ち上がろうとする正八
主水 ばかやろう!
 ぶん撲る。その場に崩折れる正八。うつぶせに倒れた正八の耳元に顔を近づけ、主水は語りかける。
主水 おめえみたいな餓鬼が行って何ができるってんだ。(声をやわらげ)俺がしくじってからでも遅くはないだろう。
 正八が顔をくしゃくしゃにして泣き始める。
正八 うぉお、うぉおおおん。
 絵草紙屋を後に夜の街を去っていく主水。胸中を示すように、カットバックで仲間・念仏の鉄(山崎努)、鋳掛屋の巳代松(中村嘉葏雄)が敵に拷問される場面が横切る。

 必殺シリーズでいちばん好きなキャラクターは藤田まこと演じる中村主水なのだが、それ以外では火野正平の絵草紙屋の正八がお気に入りだった。津坂匡章(現・秋野太作)、岡本信人、渡辺篤史らが務めた歴代の「手先」役の中で、正八はもっとも視聴者に近く、素人臭い甘さが残った人物だったように思う。そのちゃらんぽらんな男が、仲間の捕縛、拷問という未曾有の危機に遭遇する。『新・必殺仕置人』最終回「解散無用」である。仲間の危機を見て動転しまくる正八を、拳一発で諭し、貫目の差を見せつけたのが中村主水だった。このときの台詞にたぶん、気持ちをやられちゃったんだんだな。正八が視聴者に近い存在だった分、まるで自分に語りかけてきたかのような、浸透圧のある台詞だったと思うのである。

 俺がしくじってからでも遅くはないだろう。

 まず行くのは俺だ、後は任せた。そういう声が、私の耳にも届いたわけですよ、藤田さん。いや、空耳だったかもしれないけど。多くの必殺ファンが、いちばんのお気に入り、忘れがたい作品として「新・必殺仕置人」を挙げる。無理もない。四十一話にして非の打ち所のない完成度。シリーズ史上における最高の最終回である。ストーリーはもちろん、この場面に心を持っていかれたファンは多かったはずだ。私だけではなく。みんなあのとき、「何かがあったら、次は俺が/僕が/私が/あっしが/それがしが/小生が」と思ったんだよな。

 そんなわけで後は任せてゆっくりお休みください。これまで本当にありがとうございます。

 なお、冒頭の情景再現はDVDを敢えて見返さずに書きました。細部に間違いがあったら私の記憶のせいです。どうぞご寛恕ください。

| | Comments (1) | TrackBack (0)

(2/18)本格ミステリ大賞選びはKYに

 事務局から第十回の本格ミステリ大賞候補作のリストをいただいた。
 投票〆切は五月八日、開票と大賞決定は一週間後の十五日である。
 以下がそのリスト、人名などに誤記があったので訂正した。

【小説部門】候補作(タイトル50音順)
『Another』綾辻行人(角川書店)
『追想五断章』米澤穂信(集英社)
『花窗玻璃』深水黎一郎(講談社)
『密室殺人ゲーム2.0』歌野晶午(講談社)
『水魑の如き沈むもの』三津田信三(原書房)

【評論・研究部門】候補作(タイトル50音順)
『アジア本格リーグ』島田荘司選【出版企画に対して】(講談社)
『英文学の地下水脈』小森健太朗(東京創元社)
『戦前戦後異端文学論』谷口基(新典社)
『都筑道夫ポケミス全解説』小森収編集(フリースタイル)
『ミステリ・ジョッキー2』綾辻行人・有栖川有栖(講談社)

 評論・研究部門の『アジア本格リーグ』は出版企画に対してのものなので、作品を全部読まなくていいらしい。えー、じゃあどこを見て何を評価すればいいのか。

 小説部門、評論・研究部門とも、あの人のあの作品が人気では本命だろう、というものが上がってきた。ここで必要とされるのは、あえて空気を読まず、作品本位に徹して投票を行う姿勢である。KYでいきますよ、KYで。

| | Comments (2) | TrackBack (0)

(2/17)三月六日はバカミスの日

 ここで告知するのをすっかり忘れていたというかサボっていたが、第三回世界バカミス☆アワードの公開選考会を、三月六日に東京・青山のABC青山店で行う予定です。告知ページをリンクすべきところなのだけど、思いがけず「コミックナタリー」というウェブニュースで補足されていたので、そっちにリンクしておく。これはびっくりだ。

 そんなわけでもしかするとわれわれが思っている以上の反響があるかもしれないので、予約はお早めに。ABC青山店のホームページでウェブ予約するか、直接店頭で予約券を貰うか、どちらかの手段が有効です。関係者席もあまり準備できないかもしれないから、「俺は関係者だと思うんだけど席を予約してくれよ!」という人はすぐ杉江松恋宛にメールで連絡すること。最大で三日ぐらいディレイがあるのであらかじめ覚悟ください。

| | Comments (2) | TrackBack (0)

(2/17)そういう深町さんは結構カタギっぽい人の外見なんだぜ

 二月十五日の深町秋生のベテラン日記を読んで思い出したのだが、私が最後に「ぶらぶらしてないで真面目に働けクヌヤロ」って怒られたの、三年前だ。怒られたというか、地元の焼き鳥屋で飲んでいて突然会社員風の五十男にからまれた。飲んで食べて二千円ぽっきりぐらいの安直な店だったが、男はすでにグデングデンで、帰りもタクシーを呼ぶの呼ばないのですったもんだがあった。たぶんどこかで社用で飲んだ帰りだと思う。まあ、それはどうでもいいのだが、三十八歳にもなってそんなことを、しかも見ず知らずの親父にいわれてすこぶる動転した私は、なすすべもなく言われるがままに説教を受けてしまったのであった。よく考えてみたら、ああいうときはぶん殴ってもよかったのだった。まだPTA会長を拝命する前だったし、頭も金髪で、イケイケだった頃だしな。というか働いているし、普通の勤め人程度の年収はある。

 間違いなくあれは服装差別だったはずである。金髪・髭・ホッピー(たぶん飲んでいた)という外見から、いい年した売れないバンドマンかなんかだと思われたのだ。だからって見ず知らずの人間に説教していいってものでもないだろう。今思い出してだんだん腹が立ってきた。あのときの親父、援助交際か何かで捕まって新聞に名前出ちゃえ(呪い)。

 世の中はだんだん清潔な方向に進んでいく。これはもう避けられないはずだ。今肩身が狭い思いをしている人間はどんどん狭くなるぞ。なで肩にでも改造しとけ。外見だけじゃなくて発言でもどんどん取り締まられることになる。昔知り合いだった元シャブ中が「い、いいか、メ、メールにな、ヤ、ヤクって書いただけで、お前は監視されるんだ、ヤ、ヤクって書いただけで、電話から何から全部盗聴されることになるゾ」って言っていたけど、あのときあいつはもしかすると更生していなかったんじゃないか。貸した金も返さなかったし。まあ、それはいいが、や○みつるの編集者とかも「や○さん」とかメールに書いただけで監視されることになるかも。乳酸菌飲料の名前を書いただけでも駄目かよ。いい加減なこといいやがってあのペイ中。金返せ。まあ、でも児童ポルノなんかは多分駄目だな。近い未来に絶対所持しているだけで有罪という時代がやってくる。二次元の人も諦めたほうがいい。

 覚えているだけでも、この一年で私は二回職務質問を受けた。一回は新宿で、もう一回は赤坂で。たしか中国の要人が来ているかなんかしていて、警戒が厳しい折だった。大勢の群衆の中から私を捕まえて鞄の中を改めてくれた警察官のお兄さん、君は熱心なのはいいけれど直感力は少し不足している。今時、黒い革コートを着てサングラスをかけたテロリストなんて絶対いないから。あのとき私は試写室に行こうとして焦っていたのに、引きとめてくれてありがとう。もう少しで遅れて入れなくなるところだったよ。「おまわりさん角川映画のビルってどこですか」って聞いても知らなかったし。群馬かどこかから動員されたんだね。お仕事がんばってください。

 お兄ちゃんがシャツの裾を出してネクタイを緩めていたことを見咎めた人々が推し進める清潔な社会に幸あれ。でもサングラスに髭くらいは許してくれ。悪いことはしないから。ゴミだってちゃんと分別して出すからさ。

 

| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/16)ユーモア・スケッチ

 井上ひさしに『日本亭主図鑑』というエッセイがある。毎回、女性が男性に比べていかに劣っているかをむきになってあげつらい、それを否定されて(たしか通りすがりの魚屋か何かが毎回出てきて井上の鼻柱を折るのだと記憶している)へこむという内容の連続ものだった。こうして字面だけを見ると、なんたる男性優位主義の時代遅れな内容か、とお怒りになる方もいらっしゃると思う。だが実際には、そうして男性が女性に比べて優れているということを並べ立てることにより、裏返しで男性の滑稽さを綴ったエッセイなのであった。こうした言葉の遊びがあるということを、井上のエッセイで私は知ったように思う。

 ニューヨークのユーモリスト、コーリー・フォードに「女だけの世界」というスケッチがある。これは、世の女性陣が、いかに変なもの、役に立たないものを戸棚の中にしまっておくかということを箇条書きにした作品で、これまた女性読者に眉をひそめられそうな内容である。だがもちろん、なんたる男性(以下略)。この「女だけの世界」は『ユーモア・スケッチ傑作展』というアンソロジーの中で、「男だけの世界」というスケッチと対にして収められている。のちに「わたしを見かけませんでしたか?」という題名で、同題の邦訳短篇集に収められた作品だ。フォードのこのスケッチは、あまりにも人気が出た結果、盗作者が続出し、中にはフォード自身に自作のジョークとして披露しようとする者まで現れるほどだったという。

 そんな作品が『ユーモア・スケッチ傑作展』にはたくさん収められている。「ミステリ・マガジン」に長く連載されたものを編纂した作品集で、一九二〇年代から三〇年代にかけて「ニューヨーカー」や「ランプーン」などの雑誌に発表された小説ともエッセイともつかない愉快な「お話」、本来はスケッチとかカジュアルとか呼ばれていたものに、ユーモア・スケッチの名を与えたのは翻訳者・浅倉久志だった。脚注文学の大傑作フランク・サリヴァン「チュウチュウタコかいな」も、素敵なナンセンス、ロバート・ベンチリー「橋の不思議」も、清水義範を思わせる人名エッセイ「ロジャー・プライスの人名学理論」も、すべてこのアンソロジーで読むことができる。この本を読み「笑いの時代」のアメリカのエッセンスを学んだ人は多いはずだ。私は学んだ。いや、学んだというのはおこがましい。ただただ、大いに笑った。そしてジェイムズ・サーバーやH・アレン・スミスといった偉大なユーモリストの名をこの本で知った。『ユーモア・スケッチ傑作展』には感謝してもしすぎることはない。私にとってバイブルというものがあるとするならば、この本こそがそうである。

 今日は哀しいお知らせを告げなければならない。「ユーモア・スケッチ」の命名者であり、偉大なカート・ヴォネガット・ジュニア翻訳者であり、翻訳SF界の大支柱の一人であった浅倉久志さんが、去る二月十四日に亡くなったからである。享年七十九。ご親族のご意向により、通夜と告別式はご親族のみで行われるという。もっとも哀しいのはSF愛好者であり、故人の偉業のごく一部の愛好者であった私がそれらのひとびとを差し置いて弔意を示すのは僭越であると思う。よって、これだけを記す。浅倉久志は日本におけるユーモリストの偉大なる先駆者であった。故人から多くのものを受け取ったことを、私は心から感謝致します。どうぞ安らかにお休みください。

| | Comments (1) | TrackBack (0)

(2/16)厚顔無恥とはこのこと

 別件で気がかりなことがあるのでブログを書くのを控えようとしていたのだが、こればかりは見過ごせないので書く。喫茶店併設の書店、いわゆるブックカフェの実態についてだ。「mainz blog」(マインツ氏)に某書店員の談話が載っていた。そのブックカフェでは客が購入前の本を持ちこむことを許可している。喫茶しながらの読書だから当然本が汚れることもあるだろう。それはどうなるのかというと、「読み終わった本は喫茶店の前のワゴンに入れ」る形で回収し「原則返品」になるのだそうだ。返品だから店舗側はなんの負担もない。ただ単に商品が汚され、取次に戻っていくだけだ。

 返品、じゃないだろう。喫茶店の客寄せのためにやっていることなら、店舗がその負担をしろ。ラーメン屋に置いてあるスポーツ新聞、床屋に置いてある漫画と同じことじゃないか。なぜその商品がまた流通に戻っていかなくちゃいけないんんだ。喫茶店が宣伝用の消耗品として費用を支払うべきだろう。

 これを「委託制度のなせるワザ」で済ましちゃいけない。商売人として、人間としての常識があるなら、その書店は自らの行為を恥じるべきだ。そんなみみっちいことをしないと成り立たないブックカフェならやめてしまいなさい。少なくとも私は行かない。

| | Comments (10) | TrackBack (0)

(2/16)江戸川乱歩賞

 うっかりしていて気付かなかったが、講談社の江戸川乱歩賞係からファックスをいただいていた。今年から、乱歩賞の二次選考落選作品(最終選考に残らなかった作品)の選評を書くことになっていたんだっけ。その確認の連絡だった。「小説現代」の五月号に掲載するそうです。これ、いい慣習だから他の賞でもやるようにしたらいいのにな。単にリストを発表するよりも、励みになると思うのだけど。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/15)いろいろと愚痴ってみる

 妻の実家から包丁研ぎ器を貰ったので早速使ってみた。おお切れる切れる。おもしろいように切れるようになったのはいいが、勢い余って自分の指まで切ってしまった。左手の人差し指からだくだく血が出て、なかなか止まらない。鋭利な刃物でやるとふさがりにくいのである。おかげで今もじくじく痛く、この文章も極力人差し指を使わずに書いている。

 前のマウスが壊れ、何もしていないのにカーソルが上下動をするようになった。調べてみたところ、物理的に破損していると思われるので、ロジクール社のマウスに買い換えた。ところが、やたらとこのマウスが使いづらいのである。思ったように動かず、しょっちゅう右手を動かしているので肩が凝るようになってしまった。困ったな、手の大きさに合わせて一回り上のサイズのものに買い換えたのが災いしたか、などと思っていたが、さにあらず。ホイールの上下に、感度を上げ下げするボタンがついていて、知らないうちにそれを押してしまっていたのだった。感度が鈍くなり、そのせいで無駄な力を使っていたというわけ。

 右の肩凝り、左の指痛。哀しいことばかりあって、原稿が書けません。いえ、これは言い訳ではありません。もちろん、バンクーバーのオリンピックなんて少しも観ていません。ゲームソフトが届いたのだけど、まだやっていません。新しいフィギュアが届いたのだって開けていないし、立川談志のDVDだって観ていない、と縷々書き連ねるほどに嘘っぽくなる。でも本当なのである。痛いのだって本当だ。今朝皿洗いするのにも時間がかかったのだから。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/14)聖バレンタインまさかー

 新宿にて某書評家氏と某社編集者氏と会食のため、ひさしぶりに上海好吃に行った。あそこの横丁だけ時の流れが止まっているようだ。相変わらず人の話をよく聞いていないママさんに進められていろいろ食べる。旨し。そして相変わらずアバウトな会計。何を食べてもだいたい同じ金額になるのはちゃんと計算しているのだろうか。「はいこれ」と言って渡された勘定書きには、なぜか六百円が添えられていた。六百円多く計算してしまったから、ということらしいが、普通なら書き直すところだ。それが上海好吃。

 そのあと、帰宅する両氏と別れて池袋へ。トヨザキ社長が書評講座の打ち上げで飲んでいるのでお邪魔したのである。先日ツイッターで迷惑をかけてしまったので(各自調査)、直接お会いして詫びを入れたかった。もちろんそんな些事にこだわる方ではないので笑って許してくださった。ありがとうございます。なんだかんだ言いながら深更まで痛飲。『天地明察』がいかに優れた作品であるか、などと力説したような記憶がある。あとは「本の雑誌」書評特集について。書評を題材にしてくれるのはありがたいのだが、柱となる記事をもう二本ばかり入れるべきだった、ということで意見が一致した。「論座」以来の書評企画なんだもの、もったいない。その流れでおもしろい企画が進んでいることも教えていただいた。興味深い。実現を望みます。

 帰宅後、泥のように眠り、目覚めたら夕方だった。トヨザキ社長は午後からトークイベントに行かれた由。強いな。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/13)本の雑誌三月号

 日記をもういっちょ。原稿を書いた「本の雑誌」見本が到着。書評特集に「カスタマレビューで泣くなんてお馬鹿さんね」という原稿を書いています。

 で、驚いたのは私の次のページの北上次郎原稿。「いま、霜月蒼がすごい!」という題名で、慶應推理小説同好会後輩(北上さん、慶應ミステリー研究会ではないです)の霜月蒼を激賞しているのである。褒め方がすごいからこれも引用する。

 ――霜月蒼の書評が素晴らしいのは、その熱の量がケタ外れだからだ。これは大変だ、とすぐさま立ち上がってしまうのは、彼の書評から立ち上がるエネルギーにふらふらになってしまうからにほかならない、すごいな霜月蒼。

 おお。ベタ褒めだ。仲間褒めになってしまうので敢えてコメントは控えるが、霜月がやろうとしているのはかつて北上次郎が巻き起こした冒険小説ブームの再来なのだからアンテナに引っ掛かるのは当然。冒険小説を再び流行させようというのではなくて、あのころと同等の熱気をもって人々が本を読むような波を到来させたいと考えているのである。それには総論賛成。熱のある書評が有効という点には賛成だし、「○○ならなんでも」というやり方ではなくて、作品ごと個別評価でブームを起こそうというのであれば協力するのはやぶさかではない。

 というようなことを書いていると、北上さんにはこんな風に書かれてしまうわけだが。

 ――慶応ミステリー研のOBには他に、杉江松恋、川出正樹、村上貴史がいるが、評論家の資質ばりばりの松恋と、天才的な書評家霜月蒼を両端に置けば、その間にいる川出正樹と村上貴史は、川出がやや松恋寄りで、村上がやや霜月寄り。これが私の見立てである。

 そうかなあ。私は別に評論家体質ではないと自分では思っているわけなのですが。もしかして北上さん私に「お前は評論活動をすべきなのにサボっている」とか思っていますか? そういうことなの?

| | Comments (28) | TrackBack (0)

(2/13)この落語家に訊け!

「BURRN!」編集長・広瀬和生による二冊目の落語本である。落語ブームに乗っていろいろ本が出ているが玉石混交。広瀬本は別ジャンルの編集者が書いているということもあって、視野狭窄に陥っていないのが強みだ。『この落語家を聴け!』に続く『この落語家に訊け!』はインタビュー本。春風亭昇太、立川志らく、柳家花緑、柳家喬太郎、三遊亭白鳥、柳家市馬、橘家文左衛門、立川談笑、桃月庵白酒が登場している。いつも思うけど、こういうインタビュー本で円楽一門会の落語家が登場する機会って少ない。最後に読んだインタビューは楽太郎のもので、しかもプロレス関係の取材だったし。この注目度の低さをなんとかしないと駄目だよ。

 まだ全部読みきっていないのだが、素晴らしすぎる箇所を一つだけ紹介する。文左衛門のインタビューだ。

 文左衛門 言葉遣いは常に考えていますね。俺がよく使う「何ですと!」っていうフレーズ、あれって三十年前ぐらいに「少年マガジン」に連載された小林まことさんの『1・2の三四郎』ってマンガがありましたよね? あれで主人公の三四郎と悪友の虎吉が取っ組み合いの喧嘩してるところに同級生の岩清水くんが止めに入っていると、腋から「向こうから××学園の生徒が来ますよ!」って声が入って、そこで三人がピタッと止まって「何ですと!」と叫ぶんですよ。そのシーンが物凄く好きで。(笑)その記憶が自然と自分の噺に出てしまった例ですよね。
 ――出典はそんなところに!(笑)

 いい話だなあ。今度文左衛門の出る会に行こう。そういえばこの本に出ている噺家九人の中で、三人が「平成名物TVヨタロー」のレギュラーだったのだな。昇太→落協エシャレッツ、文左衛門→芸協ルネッサンス、志らく→立川ボーイズ。残念ながら円楽ヤングバンブーズだけは出番なし! 行きたかったな三遊亭優と女の子がいっぱいの会。



| | Comments (6) | TrackBack (0)

(2/13)道尾秀介さんのおうち

 駅前についたら、道尾さんがもう待っていて、編集者とカメラマンの首藤さんと三人して車でご自宅まで送っていただいた。帰りに歩いてみたら数分の道のりだったので、迷わないように配慮してくださったらしい。ありがとうございます。

 ご自宅二階の仕事部屋でインタビュー。いろいろ話し込んで、結局二時間半もいただいてしまった。前半の話題は集英社から出る新刊短篇集について。後半は、デビューして以降のことをいろいろ話していただいた。

 インタビューの模様は再来月に発売される「ダ・ヴィンチ」に載りますので乞ご期待。もしかするとファン初見のものも紹介できるかも。

| | Comments (4) | TrackBack (0)

(2/10)ずっとおうちで暮らしてる

 とシャーリー・ジャクソン風に書いてみたが、今日は翻訳ミステリー大賞シンジケートの読書会があるので、出かけなければならないのだった。それまでにレジュメ&書評一本、終るのか私は。

 昨日から無闇に来訪者数が増えているのは、たぶんツイッターのまとめサイトから来た人だな。ありがとうございます。でも残念なことに、ここでは特に何もおきないから。恩田陸風に言うと『私の家では何も起こらない』。……なんか巧いこと言ったかな、私。そんな恩田さんのインタビューがこちらにあるので、読むといいと思います。

 ではでは。湊かなえ『Nのために』の書評をやらねばならないので。

| | Comments (1) | TrackBack (0)

(2/9)王様は裸、の実例

 午前中の仕事おしまい……といいたいところなのだが、これから行事保険の書類を持って役所に行かねばならぬので、引き続きパソコンに向かう。

 いろいろと偉そうなことを書いて自己満悦に浸っていた朝であったが、ふと胸元を見たら、朝食のときにケチャップを垂らしてそのままにしていたことに気付いた。その汚れた胸元のままで宅急便をとりに出たりしていたわけである。恥ずかしいったらありゃしない。偉そうなことを言ったり書いたりしそうなときには「でも胸元にケチャップ」と呟くことにしよう。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/9)集合知について考えているんだけどあまり芳しくない

 ブログを以前から見ている方はご存じかと思うが、私は小説家にインタビューをするとき、たまに質問項目を募集することがある。自分では思いつかない質問が出てくるか、という欲目よりも、その作家のファンにとって聞きたいこと、聞けたら嬉しいことはなんだろう、という関心が先に立っての行為である。インタビューって話の組み立てが大事だから、あえて自分の聞きたくないことを混ぜる必要はないのだ。でも多くの人から「●●さんの好きな色はなんですか?」という質問の声があがったら、自分ではまったく興味がないことでも、ちょっと聞いてみたくなるでしょう。つまりそういうことだ。

 でも、実際はほとんど質問が寄せられることはないのである。このブログを見ている人がそんなにたくさんいないからかな、と思っていたのだが、母集団の数が問題ではないのかもしれない、ともこのごろ思うようになった。それは「あえてネットという媒体を通じてやりとりするような情報ではない」のかもしれない。ネット上では、すごく扇情的であるか、確実に報酬が得られる(自分の質問が誌面に載る、というような間接報酬ではなくて、何かがもらえる、というような直接の報酬)というようなわかりやすいことにしか返信がないのだ、たぶん。言うまでもなく、これは中川淳一郎の本を読んだ影響である。ネタとしておもしろいからコメントする、というのもあるか。ネット上で知見を募ろうとしたら、どきどきわくわくするか、得をするか、笑えるか、しないと人は動かないということだ。

 ●●ファンサイト、みたいなところで質問を募れば、また事情は違うのだと思う。もともと●●に関心を持つ人が多く集まっている場所なのだから。情報収集の方式としては正しいのだけど、でもそれは私が思っていた趣旨とは違うんだよな。そういう場所で上がる声の内容には予想がつけられるからだ。もっと出会い頭にぶつけられるような質問を求めているのである。ファンのフィルターがかかった目や、書評家として作品を読んでいる私の視点からは想像もつかなかったような、素っ頓狂な質問が。そういう「王様は裸!」みたいな悪戯小僧の声をインタビューに織り交ぜられたら、本望である。出ないのも無理はないか。

 まあ、そんなわけで、今のところインタビューは自分ひとりの努力でなんとかやっている。それが当たり前なんだけど。努力して自分の中で「うちなる悪戯小僧な私」みたいなものを出現させて、質問項目を考えているわけである。インタビューでお会いするみなさん、私が突然変なことを口走ったら、半ズボンを穿いた悪たれが言ったものだと思っていただきたい。

 で、今週は道尾秀介さんのところにインタビューで伺う予定だけど、何か聞きたいことはある?

| | Comments (7) | TrackBack (0)

(2/8)大沢在昌meets糸井重里!

 朝っぱらから驚かされた。あの「ほぼ日刊イトイ新聞」で、大沢在昌氏が〈新宿鮫シリーズ〉の第十作を連載するというのだ。明かされている題名は『絆回廊』である。連載開始まで、毎日大沢×糸井対談が更新されるようなのでご参照いただきたい。詳細はコチラ
冒険するなあ、と思ったが、よく考えてみると日刊紙連載に慣れている大沢在昌には「ほぼ日」の連載を任せやすいだろうし、大沢氏側から見れば鮫島の動向に読者が一喜一憂するさまをリアルタイムで見守れるという利点がある。『新宿鮫』は、読者が実況中継するのにふさわしい作品なのだ(渡辺淳一『愛の流刑地』が日本経済新聞で連載されたときもヒートアップしたが、あれに迫ることができたら大成功だろう)。『絆回廊』によって大沢氏は、エンターテインメントの作り手として一つ上の段階に行こうとしているのだと感じた。作品が読者に受け、ベストセラーになっただけでは実験としては失敗である。世間を巻き込んだ話題作りができなければ。微力ながらこの勇気ある試みを応援したい。鮫島がんばれ。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/8)個人情報保護法の波は小学校にも

 ヒルに近いアサーッ(谷岡ヤスジ風に)。

 今週一発目の仕事は、PTA名簿作成の依頼を保護者に出すことだった。PTA活動では各家庭に個別連絡をすることが多い。従来は学校管理の名簿をお借りしてその連絡をしていたのだが、PTA独自の名簿を作成することに今年度から切り替えたのだ。個人情報保護法の観点からすると、学校が使うために集めた情報なのだから、その名簿をPTAが借りることは、本当はよくないのである。流用なのである。

 でもきっと、なんでこんな名簿を作るんだとかいう問い合わせが山のようにくるんだろうな。二月はその対応に忙殺されそうな気がする。でも、今やっておかないと後々面倒なことになるのは目に見えているのである。仕方ないことだ。

 こういう個人情報保護の動きでは、児童の写真撮影の問題がある。以前は区報だよりなどになんでも載せていた写真も、今は「写真で顔がわかってもいい児童」「顔がわからない程度の写真ならいい児童」「完全不可」というように家庭によってあらかじめ許可をもらうことになっている。以前、他県の催し物に学校ぐるみで参加したときは、その模様を写した映像が主催者によってTV局に投稿され、放映されることになったために騒動になった。事後承諾で申し訳ないと、各家庭に電話してお詫び、平身低頭行脚であった。こういうのもPTAのお仕事。

| | Comments (2) | TrackBack (0)

(2/7)定職もないのに定食

 お仕事の合間にまたもや趣味の読書。今回は今柊二『定食学入門』を楽しく読んだ。『定食バンザイ』『がんがん焼肉もりもりホルモン』『定食ニッポン』などの著書はすでに読んでいたが、今回は新書の体裁にふさわしく、定食のあれこれを紹介するだけではなく、近世以降の庶民史の中に位置づけて語っているのがおもしろい。学校給食と定食の関係など、隣接する食文化のほとんどに言及されており、参考文献も多数紹介されているので、ここから波及する読書が可能である。入門の名にふさわさしい書だ。これまでの本ではエッセイであることを意識してか、おもしろがらせようとする表現が鼻につくこともあったのだが、今回がそれがないので読みやすい。やはり四十を過ぎて文中に(泣)なんて使うのは恥ずかしいですよ。今氏の代表作となるべき著書だろう。お薦め。

 あ、今回のタイトルは自由業などという不思議な職業についている自分をさしたもので、今氏のことではないです。念のため。



| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/6)ジュピターテレコムのお話

 KDDIが経営権取得を断念したのだとか。全然関係ない話題だと思っていたらそうではなかった。AXNミステリーのBOOK倶楽部を制作している会社がこのジュピターテレコムなのだ。しばらく前に高田崇史さんのインタビュー収録に行ったとき、講談社のエレベーターの中でディレクターの人に「実は昨日、うちの会社が買収されることになりまして。ヤフーニュースで自分の会社が買収されるニュースを知るのはどうかと思いましたよ」と愚痴られ、ふーん、たいへんですねーと適当に答えたことがあった。今にして思えば、あれがジュピターテレコム買収の話を聞いた最初の瞬間だったのだな。

 ミステリチャンネルがAXNミステリーに名称変更したことで大きく変わったのが、ジュピターテレコムという制作会社が入ったことだ。番組の作りがテレビ風になって(変な言い方だけど)、出演者一同戸惑うばかり。昔はディレクターがハンディカメラ一台持って取材に来るなんてことはざらだったのだけど。番組の作りだけじゃなくて、それによって生じる販促効果も地上波になるといいですなあ。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/5)バカミス☆アワード一次投票終了

 みなさん、投票ありがとうございます。五日間皆勤賞で投票をしてくださった方もいたし、有意義な意見もたくさん聞くことができました。バカミス☆アワードの選考会が近づいたら、今度は最終候補作品への投票もやるから待っててくださいね。どんな投票方法にするかは現在考え中。

 ご存じないかたのために書いておくが、バカミス☆アワードは選考会に来場したお客さんの投票によって決定する。パネラーの紹介スピーチを聞いて、いちばん読みたいと思った作品に投票する形式なのだ。この現場投票に、どれだけネット投票の結果を反映すべきか。番茶でも飲みながらゆるゆる決めることに致そう。

| | Comments (4) | TrackBack (0)

(2/5)ダ・ヴィンチ三月号

 見本誌が到着。いつも見本誌がくるころにはその雑誌で何を書いたのか完全に忘れている。今号も忘れていて、どこのページに原稿を書いたんだっけ、と見返してしまった。須藤元気、佐々木譲両氏のインタビューでしたことよ。そうだそうだ。機会があったらご覧になってみてください。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/5)自分だけはバカではない、という巧妙な意識操作

 中川淳一郎『今ウェブは退化中ですが、何か?』(講談社)を読んだ。書店の新刊棚で題名が目について買ったものだ。一気に読み終えた。

 なにがそんなにおもしろかったのかというと、読者層の想定の仕方である。普通の考えだと、日常的にブログを書いている一般人は「ネットの特性を理解している上級者」「ネットのことをよく判っていない初級者(携帯ユーザー含む)」の二種類がいる。上級者が初級者を「あいつらにはネット・リテラシーがない」とか「せっかくのツールを出会い系サイトみたいに使って」と見下すことができるのも、自分たちが流行の先端を走っているという自負があるからだ。

 ところが本書ではブログ人種をもっと明快に仕分けしている。「芸能人」と「それ以外」だ。たしかにビュー数などでいえば芸能人ブログの世間における認知の度合いは桁違いである。それ以外のブロガーなど、所詮はどんぐりの背比べにすぎない競争をしているだけにすぎないのだ。本当は「それ以外」の「上級者」と「初級者」との違いは、微々たるものである。にもかかわらず自分たちが何か崇高な目的の元に動いているかのように「上級者」が振舞うのは、ネットビジネスを利用して金儲けをしようと目論む企業の思惑に乗って、利用されているだけなのだ、と中川は書く。

 つまり「ネット初級者をバカと見下している自称ネット上級者こそバカ」と嗤う本だ。人間心理の常で、「あいつらバカ」という趣旨の本を読むとき、自分を「あいつら」に含めて怒る人はあまりいないのである。たとえ読者が、この本で批判されている立場に属する人だったとしても、「あいつらバカ(ま、オレはわかってたけど)」と優越感に浸れるように、視点に配慮して本書は書かれている。冒頭で、ネットのヘビーユーザーは本を読まないので無益な炎上を避けるために自分は書籍という安全地帯から発言をする、という趣旨の発言を中川はしている。ということは、書籍を読むような読者(あなた)は単なるネット中毒者とは違う、という言い訳にもなるわけだ。ここが巧いね。読者を不快な気分にしないよう、ちゃんと配慮しているわけだ。もちろん、本を通読しないで流し読みしたり、アマゾンのレビューだけを読むようなネット住人は、こうしたレトリックに気付かないで憤慨炎上するだろうが、それは作者の知ったことではないわけである。

 ちょっと茶化すような書き方をしてしまったが、私自身は本書から多くの啓発を受けたし、「ネットはとても便利なツールだけど、それだけで社会が変革するなんて思い込むのは楽観主義にすぎる」という意見にも同感である。単純におもしろい本が読みたい人や、ネットの世界の現状に関心がある、という人にはぜひお薦めしたい。前著の『ウェブはバカと暇人のもの』や、作者と立場の違う人の描いたネット礼賛本も私は読んでみる気になった。広がる読書を促す本でもある。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/5)似たようなもの

 近所の書店で本を買って清算していたら、アルバイトの店員に「お取り置きの「週刊プロレス」ですが版元が倒産になったら本が入りませんがどうなさいますか」と聞かれた。寝耳に水の話なのでびっくりしたが、これは「週刊ゴング」の日本スポーツ出版社が倒産したのを、「週刊プロレス」版元のベースボール・マガジン社と混同しているのだろうと気がついた。
 相手がアルバイトの人なので丁寧に注意したのだが……。

「いえ、倒産したのは日本スポーツ出版社であってベースボール・マガジン社は大丈夫ですよ」
「でも、店長が倒産したら本が入らないといっているんです」
「だから、ベースボール・マガジン社は大丈夫ですってば」
「店長が……」

 だから。

 つきあっていられないので、呪文のように「店長が」と呟き続ける店員を置いて立ち去った。そんなに店長の言うことが絶対なのか。店長は彼女にとって神か。だいたい版元が潰れて本が入らなくなったら、取り置きができなくなるだけで、前もって断るべき話でもないだろう。もしかすると同じような勘違いの事態が全国の書店で繰り返されているのだろうか。おかげで定期購読数が減ったら気の毒だな、週刊プロレス。

 と、書いていて急に不安になったのだが、大丈夫ですよね、BBM社。あんまりしつこく言われたので、つい今ググって調べてしまった。私の知らないあいだに緊急事態がおきていないことを祈ります。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/4)私の家では何も起こらない

 恩田陸さんのインタビューが書評サイト「Bookjapan」に掲載されました。
 恩田さん初のゴーストストーリーについて、いろいろほじくりかえしてお聞きしたので、ぜひご覧になってください。詳細はコチラ

| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/4)哀しい仕事

「問題小説」に載せてもらうための、北森鴻さんの追悼文を書いてメールで送る。あれこれ考えると書けなくなるので、朝一番のあまり余念がないときに書いた。北森さんの著作を集めてきて、眺めながら書く。あちこちに著者近影があり、それを見るたびに胸を衝かれる思いがした。やっぱりまだ、早すぎましたよ北森さん。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/4)もうmixiには期待しすぎないほうがいい

 現在、バカミス☆アワードの投票を受け付けています。2/1の日記にコメントするかそれ以外の方法(詳しくは日記参照)で投票ください。尾之上浩司さん、清き一票をありがとうございます。

 で、今の投票状況だが、twitterの方で毎日着実に投票があり、少しずつ形になってきている。この集計結果については二月中旬以降にご報告できるものと思う。

 しかし哀しいのは、バカミス☆アワードの母体であるmixiの「バカミス紹介コーナー」コミュニティでまったく動きがないことだ。一部の方についてはすでに投票を終えているのでもう関心がなくなってしまったのかもしれない。しかしtwitter上での情報伝播の仕方を見ていると、この状況は静かすぎるように感じる。おそらく、コミュニティへの関心自体が薄れているのだろう。mixiの魅力は「バカミス紹介コーナー」のような弱小コミュニティが存続を許される群雄割拠のいかがわしいありさまにあると思うのだが、その特色もだいぶ実体のないものになった。今の言い回し、どこかで聞いたことがあるな。ゆうきまさみ『究極超人あーる』か、そうか。来年以降もバカミス☆アワードが存続するのなら、mixiを母体にするという考え方を放棄したほうがいいのではないか。3年前までのmixiコミュニティに取って代われるような、外部に向かっては閉じられた、しかし入ってこようとする者に対しては暖かい、そんな集まりを求めているのだけど、何がいいのでしょうね。

| | Comments (3) | TrackBack (0)

(2/3)立川談志

 仕事の合間に『立川談志 最後の落語論』をちらちら読んでいる。わーっと読んでしまえばすぐ終る長さなのだが、もったいなくてちびちび読み。体調のこともあって正直内容は期待していなかったのだが、とんでもない。相変わらずの鋭さで、家元には驚かされるばかりである。たとえばこんなくだり。

 ――「文明」とは、その時代々々の最先端であり、より速く、より多くを求めるもので、それに取り残されたモノに光を当てたものを「文化」と称う。文明は、文化を守る義務がある。

 文明と文化の関係についてこういう表現をした先例を私は知らない。そうか文明は文化を守る義務があるのか。本書は『現代落語論』『あなたも落語家になれる』に続く第三の落語論の著書だ。注目すべき点は『あなたも落語家になれる』で展開した「落語とは、人間の業の肯定である」との主張をさらに推し進め、「業」とは「非常識」のことである、と置き換えた。つまり文明社会で生きる人間が生きるために必要な「常識」を遵守することができない非常識を認めたものが落語だと規定したのだ。

 さらに常識/非常識といった社会との関わりの部分より前に、人間には「よくわからない部分」としての「自我」があるとし、演者は「自我」さえも入れ込んで落語を語ることができると述べる。そこで見えてくるのが演者の「狂気」だ。この「狂気」と、近年の談志が落語論の中心に据えている「イリュージョン」は同じものではないのだが、「つながったりつながらなったりする」。イリュージョン、幻影と談志が呼んでいるように現実の何かをさっと切り取ってきたときに閃くその場限りのものなので、構造を理屈づけて説明することは無理なのだ。しかし自我を落語に持ちこんだ演者にして初めてイリュージョンを語ることが可能になるわけなので、業の肯定論からイリュージョン論への橋渡しがおぼろげに見えてくる。おそらくこれ以上は図式的に整理しようとするのではなく、個々の噺、個々のフレーズを玩味しながら都度感じるべき領域なのだろう。本書の次に予定されている『談志 最後の根多帳』(二〇一〇年春刊行の予定だがどうなるか)では、おそらくそうした各論が展開されるに違いない。

 家元の快気を祈念申し上げます。どうかあまりお急ぎになられず、ゆるゆると高座にも執筆活動にも復帰されますよう。



| | Comments (1) | TrackBack (0)

(2/2)BOOK倶楽部、観た人いますか?

 気がついたらもう二月で、AXNミステリーのBOOK倶楽部が更新されていた。今月のお薦め作品は、香山二三郎さんが中山七里『さよならドビュッシー』(宝島社)、大森望さんが東浩紀『クォンタム・ファミリーズ』(新潮社)、私がコーマック・マッカーシー『ブラッド・メリディアン』(早川書房)。いつもの通り、ネットでも観ることができます。コチラ

 今回いつもと違うのは、三省堂書店成城店にお邪魔してロケをしているため。いつもはカフェのテーブルでああだこうだと議論を交わすのだけど、今回に限り三人が書店のレジカウンターに入って店員に扮し、お客(トヨザキ社長)に本をお薦めするという誰が得をするのかというコスチュームプレイになっています。

 ネット上では観ることができない番組の後半部は、三人が店長さんの指示を受け、その希望通りの特集本棚を作るために店内を走り回って本を集めてくるという「お笑いウルトラクイズ」みたいなゲームをやっている。その本棚に何が集められたかという結果は、残念ながら店頭に行かないと見られないみたい。小田急線沿線の方、世田谷区在住の方、よかったらお店を訪ねてみてくださいな。

 こういうイベントはなかなかおもしろかった。他の書店さんからのお声がかり、待っております(とスタッフに断りもせずに言ってみる)。地方出張も受け付けます、たぶん。



| | Comments (0) | TrackBack (0)

(2/2)珍しく動き回る

 私としては異例の、外出する予定がたくさん入っている一週間である。

 昨日は、午前中に逢坂剛さんの神保町の事務所にお邪魔し、インタビューをさせていただいた。そこまではよかったのだが、十七時に近くの飯田橋で予定が入っていて時間は結構空くのに帰宅できない理由があった。さぼうるでコーヒーでも飲みながら仕事をしていようか、と軽い気持ちで歩き始めたのが運のつきであった。結局自分でも嫌になるほど本を買い込んでしまい、ふうふう言いながらミロンガでビバーク。夜から雪が降るとあって、雨風が身を切るほどに冷たかったので露営というのもあながち嘘ではない。
 なんで五時間も空くのに一時帰宅しなかったかというと、こういうわけだ。十七時の打ち合わせは某出版社で日下三蔵氏と一緒であり、その日下氏は十八時から別の用事があるため、なるべく早めに切りあげて某社を発ちたいという。なので打ち合わせ相手の編集者A氏の体が空くまで、別件で時間をつぶしながら飯田橋付近で待っていようという話になったのである。日下氏は十六時からその某社に行っているという。私も、某社の別の編集者B氏にお願いしたいことがあり、無理矢理お願いして打ち合わせを入れていただいた。某社についたのは十六時過ぎ、B氏と打ち合わせをしながら日下氏の到着を待ったが、結局彼が現れたのは十七時きっかりであった。わ、私が時間つぶしをした意味は? あとで判明したことだが、日下氏はなにやら重要な用件があって川崎に寄っていたのだという。それならそうと言ってくれればいいのに。

 まあ、A氏との打ち合わせ自体は非常に好感触でした。そのうちに何かお知らせできるかもしれぬ。B氏との打ち合わせも有意義に終ったので、忙しく動き回ったのは無駄にならなかった。日下氏に感謝すべきか。しかし寒かったし、ちょっと風邪を引きましたからバンザイなしよ!

 ちなみにしこたま買いこんだ本は、B氏との打ち合わせの結果、そっちの資料として活用できることになった。ますます無駄なし。エコだ、私は。

| | Comments (4) | TrackBack (0)

(2/1)バカミス★アワード一次投票のお願い(2/1~2/5)

 バカミス★アワードとは、前年一年間で刊行されたミステリー(漫画・戯曲なども含む)の中から、もっとも優れた作品を選ぶ読者参加型の賞です。本年は三月に大賞選考会を公開で行う予定があります。

 つきましては、みなさまのご投票をお願い致します。投票は一人一日一回、期間は二月一日(本日)から二月五日(金)まで。つまり五回投票が可能になるということです。一回の投票につき、三作までタイトルが挙げられます。その場合は一位三点、二位二点、三位は一点。二作しか上げない場合は一位が二点、一作しか上げない場合は一点という得点配分です。順位をつけずに投票した場合は、得点を均等割りします。

 投票方法は以下の三つです。ご不明の点はお問い合わせください。twitterを使う方式以外はメールアドレスを明記する必要があるのでご注意のほどを。基本的にどの方法を使っても投票は一日一回です。重複はしないでくださいね。あと、コメントとメールはできれば何か一言付け加えていただけると幸甚。題名だけ、みたいな乱暴なのはちょっと嫌だな。

 その一。この日記にコメントをつける。

 その二。杉江松恋sugiemckoy@gmail.com宛にメールする。

 その三。twitterでハッシュタグ「#bkmys2010」をつけて呟く。この場合、#bkmys2010の前後に半角スペースをつけないと正しく検索できず、集計不可能になりますのでご注意ください。

 最終候補作は、上記の投票結果を踏まえ、上位作品の中から選考委員(小山正、日下三蔵、杉江松恋)の協議を経て決定いたします。基本的にたくさんコメント/メール/ツイートすることが得票につながるシステムですが、非常識な投票者からの票は無効にさせていただくことがありますのでその点ご留意を。

 下記には先日の候補作募集で寄せられた作品名を列挙します。投票に当たってはこちらをご参考にしてください。この中から選んでも結構ですし、リスト外の作品に投票していただいても結構です。投票期間中に新しい作品名が挙げられた場合、そのタイトルもリストに追加します。繰り返しになりますが、対象となる作品は奥付の刊行日が二〇〇九年一月一日から同年十二月三十一日の間になっているもののみです(下記リストの中に対象期間外のものが紛れこんでいる可能性がありますので、ご注意ください)。

 ではでは。みなさまからの清き何票かをお待ちしています。よろしくどうぞ。

(候補作リスト)※提案をいただいた順。
・『青酸クリームソーダ』佐藤友哉(講談社ノベルス)
・『サンドマン・スリムと天使の街』リチャード・キャドリー(ハヤカワ文庫FT)
・『レポメン』エリック・ガルシア(新潮文庫)
・『死神を葬れ』ジョシュ・バゼル(新潮文庫)
・『解雇手当』ドウェイン・スウィアジンスキー(ハヤカワ・ミステリ文庫)
・『迷惑なんだけど?』カール・ハイアセン(文春文庫)
・『バッド・モンキーズ』 マット・ラフ(文藝春秋)
・『ダイナー』平山夢明(ポプラ社)
・『ロング・ドッグ・バイ』霞流一(理論社)
・『忙しい死体』ドナルド・E・ウェストレイク(論創社)
・『麗しのオルタンス』ジャック・ルーボー(東京創元社)
・『ババ・ホ・テップ』ジョー・R・ランズデール(ハヤカワ・ミステリ文庫)
・『ANOTHER』綾辻行人(角川書店)
・『三崎黒鳥館白鳥館連続殺人』倉阪鬼一郎(講談社ノベルス)
・『電気人間の虞』詠坂雄二(光文社)
・『粘膜蜥蜴』飴村行(角川ホラー文庫)
・『フロム・ヘル』アラン・ムーア/エディ・キャンベル(みすず書房)
・『ルシアナ・Bの緩慢なる死』ギジェルモ・マルティネス (扶桑社ミステリー)
・『七つ星の首斬人』藤岡真(創元クライム・クラブ)
・『神国崩壊―探偵府と四つの綺譚』 獅子宮敏彦(原書房)
・『夢で殺した少女』ベネット・ダブリン(ヴィレッジブックス)
・『ロンドン・ブールヴァード』ケン・ブルーエン(新潮文庫)
・『お行儀の悪い神々』マリー・フィリップス(早川書房)
・『シャーロック・ホームズの大冒険 上』(原書房)
・『フラグメント 超進化生物の島』ウォーレン・フェイ(早川書房)
・『ジーヴスの帰還』P・G・ウッドハウス(国書刊行会)
・『ブランディングズ城は荒れ模様』P・G・ウッドハウス(国書刊行会)
・『名犬ランドルフ、スパイになる』J・F・イングラート(ランダムハウス講談社)
・『検死審問ふたたび』パーシヴァル・ワイルド(創元推理文庫)
・『新・垂里冴子のお見合いと推理』山口雅也(講談社)
・『荒野のホームズ、西へ行く』スティーヴン・ホッケンスミス(ハヤカワ・ミステリ)
・『世界名探偵倶楽部』パブロ・デ・サンティス(ハヤカワ・ミステリ文庫)
・『ババ・ホ・テップ』ジョー・R・ランズデール(ハヤカワ・ミステリ文庫)
・『田舎の刑事の闘病記』滝田務雄(東京創元社)
・『壊れた偶像』 ジョン・ブラックバーン(論創海外ミステリ)
・『フラクション』駕籠真太郎(コアマガジン)
・『May探偵プリコロ』魔夜峰央(祥伝社)
・『コズミック・ゼロ 日本絶滅計画』清涼院流水(文藝春秋)
・『B/W 完全犯罪研究会』清涼院流水(太田出版)
・『探偵儀式THE NOVEL メフィスト症事件』清涼院流水(角川コミック・エース)

| | Comments (3) | TrackBack (0)

(2/1)マッギヴァーンと結城昌治

 アクセス解析を見たら深夜にもかかわらず多数の訪問者があることに驚いた。唐沢俊一検証blogからいらっしゃったみなさん、こんばんは。本文中でkenshouhan氏のお名前を一部誤っていたことに気付き、先ほど修正した。申し訳ない。

 日曜日に一日費やして書いた原稿がやっと上がったので、メールで送付した。ある日本小説に関するものなのだが、これを書いている間中、ウィリアム・P・マッギヴァーン『殺人のためのバッジ』(ハヤカワ・ミステリ文庫)と結城昌治『夜の終わる時』(角川文庫)が読みたくて仕方なかった。仕事がひと段落したら手をつけます。さて、その本とはなんでしょう。判る人はいるかしらん。
 ヒント:山本周五郎賞を受賞したことがある作家の作品です。

 本日は午前中に逢坂剛さんのインタビュー。少し寝て起きたら準備をしよう。

| | Comments (30) | TrackBack (0)

« January 2010 | Main | March 2010 »