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(3/10)非実在青少年規制の問題を考える前にやることがあるだろう

 東京都の児童ポルノ規制条例の件について知るため、第二十八期青少年問題協議会の専門部会の議事録を読み始めている。規制反対って言っている人はちゃんと読んだほうがいいと思うよ。委員の思想的偏向を批判するのはいいけど、孫引きをしているせいで誤った引用をしているものが多い。そんなものを元にして請願書を書いても、つっかえされるだけだ。

 たとえば(ひきあいに出して悪いけど)ここ。協議会の中で特に問題がある委員として、前田雅英首都大学東京法学大学院教授と、新谷珠恵東京都小学校PTA協議会会長、大葉ナナコ有限責任中間法人日本誕生学協会代表理事の三名を名指しにしているが、ちょっと問題が多い。
 まず、前田雅英氏のものとされている以下の発言だが、

>アニメ、漫画におけるいわゆる児童ポルノ的なものですけれども、こちらも実在しない青少年の性行為等を描写していても何らかの規制が必要ではないか、ただし、単純製造、単純所持を直ちに刑事罰の対象にはしないとか、残虐な画像に限るなどの条件を課すことも検討すべきであるということでした。

 これは前田氏の発言ではない。東京都青少年・治安対策本部 総合対策部 青少年課の青山課長のものだ。第八回専門部会の議事録を読めば一発で判る。こんな冒頭のところで引用を間違えていてはまずいでしょう。反対するべきではないというわけではなくて、孫引きではなくてきちんと原文を読んでから発言をしないと説得力を失うと言っているのである。たしかに前田氏が児童ポルノの悪い可能性だけを見て(カタルシス論を無視して)、法規制を主張するのは乱暴だし、大葉ナナコ氏の発言は舌足らずで何を言いたいのかよくわからない部分がある。子供たちを性暴力から守りたいという気持ちが先行して、辻褄の合わないことを言っているように見える。新谷珠恵氏の発言はさらに粗が多く、規制賛成という結論ありきの言い方じゃなくて、ちゃんと理論武装してから物を言えよといいたくなる。同じPTAという組織に所属しているのが恥ずかしくなったほどだ。

 私は、ペドフィリア性愛を描いた作品は嫌いだし、表現に関して日本はおおらかすぎると思う。児童ポルノは規制されて然るべきだ。しかし、今回のような拙速のやり方ではなく、きちんと問題を整理した上でやってもらいたい。部会の議事録を読んでいると、ときどきまともな主張をする人が出てくる。第八回でいえば木村忠正東京大学准教授の発言などがそうだ。問題を被写体が実在するか否か、表現が芸術的であるか犯罪的であるかのマトリクスに分けて整理しようと試みている。また加藤諦三早稲田大学名誉教授の、「性の衝動を無意識に追放することまで規制してはいけないけれども、一方に、性の衝動を肥大化するような形のところまで許しちゃいけない」という発言も、人間の性の問題をきちんと把握した発言だと思う(人間の暗部に蓋をする規制はよくないと思っている反対派のみなさん、そういう意見を言う人も委員の中にはいるのです)。しかしそういう意見は声の大きな人の「とにかく反対」に呑み込まれてしまっている印象だ。写真と絵は違うのではないか、という話題が出かかるたびに、急進派の声がそれを打ち消している。

 現行の青少年健全育成審議会の体制を批判する声がないのも問題だと思う。審議会というのは発行された雑誌を見て有害かそうではないか決めるところだ。第八回の議事録を見ると、この審議会の委員長から特定の出版社の刊行物が何度も有害指定を受けている現状がある、との報告があったらしい。にもかかわらず先ほどの青山課長からは、小中学生が見る雑誌の中に同年代の性行為を肯定的に描いたものがある、との報告がされているのである。えー、「特定の出版社」は何度も取り締まれたのに、その出版社は取り締まれなかったのかよ。それって、現行の条例で、「特定の出版社」以外の版元を取り締まらなかった審議会の責任ではないのか。弱小エロ出版社だけではなくて、日本雑誌協会に加盟しているような大手出版社の刊行雑誌にも目を配れば、現行の体制でもゾーニングは可能なのではないかという疑念が浮かぶのである。この辺の「強きを助け弱きをくじく」審議会のあり方については、すでに二〇〇〇年に塩山芳明が批判を行っている(『出版業界最底辺日記』ちくま文庫)。きちんと取り締まれよ、少年少女向け雑誌の皮をかぶったエロ雑誌も。

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Comments

いやいくら不健全図書指定受けてもその後も他のエロマンガを平然と一般向けで売り続ける出版社があるんですよ、で、改正案でこれらの項が追加されるわけです。
2 知事は、図書類発行業者であつて、その発行する図書類が第八条第一項第一号又は第二号の規定による指定(以下この条において「不健全指定」という。)を受けた日から起算して過去一年間にこの項の規定による勧告を受けていない場合にあつては当該過去一年聞に、過去一年間にこの項の規定による勧告を受けている場合にあつては当該勧告を受けた日(当該勧告を受けた日が二以上あるときは、最後に当該勧告を受けた日)の翌日までの間に不健全指定を六回受けたもの又はその属する自主規制団体に対し、必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
3 知事は、前項の勧告を受けた図書類発行業者の発行する図書類が、同項の勧告を行つた日の翌日から起算して六月以内に不健全指定を受けた場合は、その旨を公表することができる。
4 知事は、前項の規定による公表をしようとする場合は、第二項の勧告を受けた者に対し、意見を述べ、証拠を提示する機会を与えなければならない。

ちなみに、雑協にも入ってる実業之日本社のマンサンコミックスなんか全年齢指定でエロマンガを売り続けて何度も不健全図書指定を受けてますが、一向に改善する気がありません。逆に一部の書店側も不健全図書指定を受けたことを売りにして成人コーナーで販売してたりします。そして、今日も一般漫画コーナーでは「静かなるドン」と指定を受けてないエロマンガが一緒に並んで売られてます。

Posted by: 通りすがり | March 10, 2010 at 10:22 PM

あと、現行条例では、同年代の性行為が肯定的に描かれてても「卑わいな感じを与え」なければ不健全図書に指定できません。だから、卑わいでなくても指定できるように今回の「非実在青少年」なるものが生まれたんです。
一応実態としてはそういうことになってます。

Posted by: 通りすがり | March 10, 2010 at 10:36 PM

>通りすがり様

 ご教示ありがとうございます。たしかに条例改正案の第九条の二第一項についての改正は、ご指摘のような累犯の防止を意図したものだろうなと思います。

 勉強不足で申し訳ないのですが、第八条第一項第二号の東京都規則で定める基準(すなわち非実在青少年に関する規定)を導入しなければ「同年代の性行為が肯定的に描かれてても「卑わいな感じを与え」なければ不健全図書に指定でき」ないという根拠が、元の条例からは見出せなかったのです。私の見落としでしょうか。「青少年に対し、著しく性的感情を刺激」するものということで該当するというようには言えないのでしょうか。ここは自分でまだよく理解できていない点だと思います。

 素人考えでは改正すべきは、旧第九条の五項「何人も、青少年に指定図書類を閲覧させ、又は観覧させないように努めなければならない」の項目で、ここを強化してゾーニングを徹底すればいいのでは、という気がするのですが、そういう趣旨の改正ではないようですね。ゾーニング強化よりも表現の規制ありき、という改正の方向性に問題協議会の答申が影響を与えているのではないかと思い、過去の議事録を読み始めているところです。

 重ねて御礼申し上げますが、ご教示ありがとうございました。

Posted by: 杉江松恋 | March 10, 2010 at 11:44 PM

http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/pdf/08_jyourei/08_p2.pdf
こちらが「東京都規則で定める基準」とされている施行規則で、「著しく性的感情を刺激し」とは、つまるところ「卑わいな感じを与え、又は人格を否定する性的行為を容易に連想させるものであること」となっています。

改正案の主旨としては第三章の三にある「青少年性的視覚描写物をまん延させることにより青少年をみだりに性的対象として扱う風潮を助長すべきでないことについて事業者及び都民の理解を深めるための気運の醸成に努め」ることだと思われますが、憲法21条があるため答申よりは一歩引いたものとなってるのでしょう。
石原知事の答弁では本音が垣間見えます。
http://www.gikai.metro.tokyo.jp/record/proceedings/2010-1/d5110211.html
> 児童ポルノや子どもへの強姦などを描いた漫画の蔓延を、
> 見て楽しむだけなら個人の自由である、
> いかなる内容であっても表現の自由であると許容することは、
> これらの自由の履き違えでまさにありまして、
> 青少年を守り育てる大人としての責任と自覚を欠いた
> 未成熟な人間の自己保身にほかならないと思います。

Posted by: 通りすがり | March 11, 2010 at 12:26 AM

>通りすがり様

 ありがとうございます。お手数をかけてすいません。この施行規則を自分でももっと前に見ておくべきでした。再び御礼申し上げます。

 改正案の主旨についてもうなずけます。石原発言については「児童ポルノ」「子供への強姦を描いた漫画」を並列に扱い、さらに「保護者が幼い子どもを性的写真集の被写体として売り渡す行為」をも列挙する論調に、規制への強い意志を感じます。漫画の規制ありき、ということなのでしょうね。

Posted by: 杉江松恋 | March 11, 2010 at 01:14 AM

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