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(3/31)道尾秀介の新刊書評をSPA!に掲載いただきました

『光媒の花』(集英社)について、900字程度で書いた。
 道尾氏が「小説すばる」に発表した短篇を連作形式で単行本化したもので、熱心なファンなら作風の変化が見てて取れておもしろいはず。
 これは直木賞レースでも結構いいところにいくんじゃないのかな。選考委員には愛されるタイプの本になったと思う。

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(3/31)ビッグ・ブラザーって本当にいるのかい?

「男の嫉妬はみっともない」などと言うが、性別が何であろうとみっともないのは同じである。男が云々、という言い方の背景には、男性は嫉妬の感情を表に出さないものだ、という意見があるのだろう。立川談春が『赤めだか』で描いた談志の言葉に、とても好きなものがあるので引用する。

 ――己が努力、行動を起こさずに対象となる人間の弱味を口であげつらって、自分のレベルまで下げる行為、これを嫉妬と云うんです。一緒になって同意してくれる仲間がいれば更に自分は安定する。本来なら相手に並び、抜くための行動、生活を送ればそれで解決するんだ。しかし人間はなかなかそれができない。(中略)よく覚えとけ。現実は正解なんだ。時代が悪いの、世の中がおかしいと云ったところで仕方ない。現実は事実だ。そして現状を理解、分析してみろ。そこにはきっと、何故そうなったかという原因があるんだ。現状を認識して把握したら処理すりゃいいんだ。その行動を起こせない奴を俺の規準で馬鹿と云う」

 この伝で言うと、嫉妬がみっともない理由は「行動を起こせない馬鹿だから」ということになる。なるほど、これは男女の別に関係ないですね。

 嫉妬の感情は誰にでもあるものだし、それを発条として行動すれば、自身のためにもなる。したがって内に嫉妬の感情があることを認めるのは大事なことである。単純なことに気をつけるだけで、「みっともない」ざまを晒さずに済むわけだ。そのために心がけるべき、とても簡単なこと。

・対象となる人間の弱味を口であげつらわない。
 その弱点が本当のことであっても嘘であっても関係ない。まずいのは、その人間を貶めているつもりで、自分の内なる嫉妬の感情を糊塗してしまうということである。

・つるんで悪口を言わない。
 安定を求めるなら人とつるむのが便利。だが、それだけ嫉妬の感情を克服することからは遠くなる。ねたましさに浸っていれば満足というのなら別にかまわない。

・時代のせい、状況のせいにしたい自分の感情を分析する。
 見えない場所にビッグ・ブラザーがいると考えると気持ちは安定する。だが、いつまでもビッグ・ブラザーは見えないままなので、状況は絶対に変化しない。

 気をつけよう。どれもこれも簡単にしてしまいそうなことだ。自戒をこめて。

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(3/30)お客様が来ていました

 先週の金曜日から日曜日まで、宮城県の某市から小学生のお客さんを迎えていた。二十六日の日記にも書いたが、うちの区と角田市が交流プログラムを組んでいて、短期のホームステイを交互に実施しているのだ。子供と同じ小学五年生ということで、我が家にもお泊まりいただいていた。土曜日は東京案内。普段は引きこもりの生活をしているので、こういう外出の機会というのはなかなか慣れない。だいたい小学五年生って、どこに行きたいのだろう。

 家人と相談したが、うまく意見がまとまらなかった。六本木ヒルズを見ても、小学生は楽しくないだろうし。かといって二重橋っていうのもなあ。田舎のおっかさんか。区の青少年委員は「角田市はあまり高い建物がないですから、巨大建築の工事現場は珍しいと思います」とか「恵比寿ガーデンプレイスの動く歩道に驚いた、という声がありました」とか、いろいろ紹介してくださったのだが、コイサンマンを東京に連れてきてびっくりさせようってんじゃないのだから。それにテレビで東京の風景は当たり前に見ているだろうし、物を知らないような扱いは馬鹿にされたように感じるんじゃないの?

 結局、行き先は本人に任せることに。聞いてみたら「東京タワーと博物館に行きたい」だって。よかった、普通の希望で。アキハバラでメイドさんが見たいと言い出すような子だったらどうしようかと思った。そんな子供はいないか。非実在青少年。

 そういう意味では普通の子供でよかったのだが、さらに聞くと、父親は会社員で、東京に来たこともあるのという話である。地方の子だからおうちは農家です、みたいな紹介のされ方をしていたのだけど、真に受けないでよかった。さらに観察してみると、彼はかなりのインドア派で、表で駆け回るのはあまり好きではない様子。外出はほとんど車だから、歩いてどこかに行くということはしないのだとか。普段はほとんど車に乗ることのない、我が家の豚児のほうが活発に見えるくらいである(うちの子だって、別に砂場で泥んこになって遊ぶような性質じゃないのだ)。居間でDSをやっている姿は、近所の子が遊びに来ているときとほとんど変わりなかった。

 まあ、せっかくの東京だから何かして感動させてやろうとか、そういう過度な思い込みで接しないほうが吉ということだな、これは。そんなわけで、なんとなく東京タワーに行って、なんとなく写真をパチパチ撮って、なんとなくお土産を買って帰ってきました。おしまい。

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(3/26)二階でどたどた足音がしますどたどた

 うちの子供はあまり跳んだりはねたりしないのだけど、今日は小さなお客が三人来ている。宮城県某市とうちの区が交流プログラムをやっていて、二泊三日の予定で小学生がやってきたのだ。うちに泊まるのは一人だけなんだけど、外に遊びに行け、と追い出したら、雨が降ってきた、と言って戻ってきた。近ごろの子供は雨に負けるね。二階で人生ゲームをやっているはずなんだが、やはりどたどた音がする。子供が多いと、どたどたいうものなのだな。要望があったので、明日は東京タワーに行ってきます。東京タワーなんてこういうことがないとなかなか行かないものだ。

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(3/24)四十六人の子供たちに贈った言葉

 本日が当小学校の卒業式でした。他の地区でもそうだったんじゃないのかな。卒業にあたり、祝辞を述べるのはPTA会長の務めの一つである。今年はこんなことを話しました。思っていること、伝えたいことを素直に話したら、こうなった。
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 みなさん、ご卒業おめでとうございます。それぞれの新天地で元気に過ごされることをお祈りします。

 はじめに保護者の皆様方に申し上げます。これまでのご苦労、誠にお疲れ様でした。お子様が、中学生というもっとも多感な、大事な時期に突入されるにあたり、嬉しさと戸惑いとをともに抱えた状態で今日のこの日を迎えられたのではないかと推察します。人生の先輩として尊敬申し上げます。
 また、子供たちを指導してくださった先生方、暖かく見守ってくださった地域のみなさまには心より感謝申し上げます。小学校での日々が充実したものであったということは、巣立っていく子供たちの輝く瞳の一つ一つが証明してくれています。

 さて、ここからは卒業生のみなさんにお話したいと思います。みなさんは今日で義務教育の三分の一を終えられました。六年生ならばすでにご存知でしょう。義務教育とは、子供が学校に行かなければならないという義務を負うという意味ではなくて、私たちのような保護者が子供を学校に行かせる義務を負うという意味です。ではなぜ、保護者はそうした義務を負うのでしょうか。
 それは、まだ子供がか弱く、社会に出て行くだけの力がないからです。社会を世界と言い換えてもいいでしょう。世界は広く、子供たちはまだ小さい。大きな世界と向き合えるほど、みなさんはまだ強くありません。だから大人が前に立ちはだかり、みなさんが外の世界と直接対決しないで済むように守ってくれているのです。

 みなさんの前に立っている保護者、お父さん、お母さんがどんなに精一杯の力でみなさんを守ってくれているか。今は知る必要がないことですし、また、知ろうとしてもわからないでしょう。今はそれでいいのです。無理をせず、まだまだ甘えてください。しかしいつか、みなさんの背丈も伸びていくことでしょう。前に大きく立ちはだかっている大人の、最初は腰ぐらいまでしか見えなかったのが、そのうちに背中が見えるようになり、そして肩越しに向こう側が見える日が来るはずです。そのときになって、初めてわかるはずです。今まで大きいと思っていた背中がどれほど小さいものだったか。大人なんて、本当は小さな存在なんです。小さな存在だけど、みなさんを守るため、時には爪先立ちになって、精一杯闘っているんです。そのことを知ったときに、みなさんもきっと自然に言葉が出てくるだろうと思います。「今まで、ありがとう」と。

 これからのみなさんは、大きな力を蓄え、世界に出て行くための準備をする期間に入ります。中学校での三年間は、人生におけるもっとも大事なひとときとなるでしょう。しかし、怖れる必要はありません。みなさんの前にはまだ、みなさんを大事に思い、一番に心がけてくれる保護者のみなさんがいて、先生や地域の人々が応援してくれているからです。どうぞ胸を張って、次のステップへと踏み出してください。

 おしまいに、小学校の暖かい風土で育ったみなさんに、その優しい気持ちを失わないために、お願いがあります。
 一つは、自分自身を愛してほしいということ。なぜならばみなさんは、みなさんのお父さんお母さんが心からの愛情をこめて育ててきた存在だからです。
 もう一つは、自分自身を愛するのと、できれば同じぐらい他の人を愛してほしいということ。なぜならばその人たちも、みなさんと同じようにお父さん、お母さんの愛情によって生まれてきた存在だからです。
 自分が嬉しいという感情をもって、他人の嬉しさを量れる人になってください。自分が哀しいという感情をもって、他人の哀しさを量れる人になってください。
 お互いの立場を尊重しあうためのヒントとして、ある言葉を贈ります。フランスの人、ヴォルテールが言ったといわれている言葉です。実際にはそうではなく、後世の人が彼の言葉として語り継いだだけということですが。

「私は君の意見に反対する。だが、君がそれを主張する権利は命をかけて守る」

 これから先、さまざまな局面でみなさんは自分の意見を述べる必要に迫られると思います。その中では激烈な議論が生じるでしょう。自分とは異なる意見の相手に対し、憎しみを抱くこともあるかもしれません。しかし、その相手のことも愛してください。なぜならば、同じ血の通った人間だからです。同じ、お父さんとお母さんから生まれた子供だからです。そして、あなたがその相手を愛し、尊重すれば、必ず相手も同じようにしてくれるはずだからです。みなさんには、きっとこのことが理解できるはずです。明日に向かってはばたくみなさんにこの言葉を餞とし、私の挨拶と致します。
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 ちょっと難しい内容だっただろうか。でも、小学六年生に私が今いちばん伝えたいことはこういうことなんだ。

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(3/21)第1回翻訳ミステリー大賞決定!

 シンジケートサイト更新しました。気になる受賞作についてはこちらをご覧ください。

 また、第一回翻訳ミステリー大賞コンベンションには、百人以上の参加者にご来場いただきました。素人イベントにかくも多数の方にお運びいただき、感激しております。厚く御礼申し上げます。参加者の方の感想、ご意見などもお聞かせ願えれば幸いです。どうぞ宜しくお願い申し上げます。

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(3/19)東京都のPTAは悪循環にはまりこんでいる

 マイmixiの偽史学博士さんの日記で、東京都小学校PTA協議会の新谷珠恵氏のプロフィールを知った。SPYSEEで検索すると出てくるのである

 プロフィールにはどこそこの小学校PTAに属しているという記述がない。で、二〇一〇年に掲示された平成二十一年度の都小P役員名簿を見ると、PTAの地区名のところに「都小P推薦」という記述がある。これをもって、「外部の人間を協議会のトップに据えている」「何かの利権誘導ではないか」という憶測をしている人がいるのを見かけたが、決してそういうことではない。平成十六年度の役員名簿を見ると、新谷氏の地区名は「世田谷」になっている。このときの役職はまだ理事だ。

 続く平成十七年度の役員名簿では、役職が副会長となり、やはり地区名は「世田谷」。会長に就任したのは十八年度で、このときも「世田谷」。続く平成十九年度名簿を見れば、この年までは現役の小学校PTA会長として活動しておられたということである。そのあと平成二〇年度の名簿から地区名が「都小P推薦」になる。お子さんが卒業されて、現役PTA会長ではなくなったのだ。

 私の属している地区のPTAでは、区PTA連合会(協議会ではない)に属するのは現役会長のみである。例外として顧問が二人置かれており、一人は現役の校長、もう一人は前年度の連合会長(つまり前年まで小学校PTA会長として所属していた人)である。前連合会長の顧問の任期は一年。それが終ったら自動的に退会することになる。顧問はアドバイザーとして有益なので、このシステムは理にかなっていると私は思う。

 都小P人事のおかしい点は、団体のトップである会長職に現役PTA会長ではなくても就任できることではないだろうか。そして、四期にわたって一人が会長職の座にあるという点にも不健全なものを感じる。OB・OGとなったPTA会長が理事として残留し続けている例は新谷氏だけではない。確認できる範囲では、平成十六年度に目黒区のPTA会長として協議会の副会長を務められた堀田主税氏が、翌年に肩書きが「都小P推薦」に変わり(現役PTA会長ではなくなり)、以降平成二十一年度まで連続して理事を務められている。どうやら五年ぐらいは残留が可能なシステムのようなのだ。

 おそらく、現役PTA会長の参加数だけでは理事の定数を埋めることができないのだろうと思う。慢性的な人材不足という構造問題があり、会を維持するためにPTA活動から卒業すべき人々を残留させていった結果、現在のようなOB・OGばかりの役員会になってしまったのだ。平成二十一年度の名簿を見ると二十五人の役員のうち、現役は十一名のみ、うち一人は校長である(たぶん規約に一名は校長会から出すことになっている)。おそろしいことに会長・副会長・常務理事といった役付きは、すべて現役会長ではないのだ。これが本当に小学校PTAの意志を反映した組織かどうかは、大いに疑問視したい。

 東京都小学校PTA協議会に必要なことは組織のスリム化だ。現役会長だけで賄うことができなくなっているのであれば、理事の定数を減らすなど(当然報酬が支払われており、その原資は各小学校のPTAの一般会員が支払っているPTA費である)、実態に即した活動に切り替えるのが筋だろうと私は考える。平成二十二年度の役員体制がどうなるのか現時点ではわからないが、新谷氏が重任されるのであれば申し上げたい。今必要なのは都政に対する発言力を行使することではなく、一般PTA会員の意志を反映した組織への体質改善だ。足元を見つめなおさない限り、いずれ都小Pの理想は画餅と化し、現実と遊離した圧力団体として世間から忌避されることになる。

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(3/19)都内の全PTAを代表する団体が「非実在」である件について

 社団法人東京都小学校PTA協議会が都議会の各会派に対し、青少年健全育成条例の改正案を今議会で成立させるように促す緊急要望書を提出したそうである。都小Pブログでその内容を読むことができる

 PTA会長という役職にいる者として、この件についてはなんらかの意見表明をしなければならないと考えていたが、作家の川端裕人氏がブログで問題点をきちんと整理してくださった。とても参考になるので、問題に関心がある方には一読をお薦めする。そうなのだ、都小Pは都内すべての小学校のPTA会員を代表する組織ではない。一部(二十三区内では世田谷、目黒、荒川、足立、文京が確実に加盟している)の自治体にある小学校のPTAが参加しているだけにすぎない。都小Pのホームページのどこにもそのことは書いていないし、定款のたぐいも公表していない(この点は全小Pのホームページも同じ)。これでは知らない人が誤解をするのは当然だろう。本件については、フェアな情報開示のあり方を求めたい。

 たまたま私は都小Pに加盟している自治体で小学校のPTA会長を務めているのだが、各学校に本件についての検討が要請された事実はない。あくまで本件は、一部のPTAが所属する公益法人団体の、執行部にあたる運営組織のメンバーのみによって意志決定された事項なのだ。私と同じような立場にいて、こうしたあり方に疑問を感じた方がいらっしゃったら、直接都小Pの理事各位と対話されることをお勧めする。川端氏がブログでそのやり方などを紹介されている(いうまでもないことだが、あくまでも対話は論理的に、紳士的に。感情論で難詰されても、迷惑をおかけしてしまうだけだ)。

 ご参考までに、私が先方に送ったメールの文面を一部記載しておきます。

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社団法人 東京都小学校PTA協議会
理事各位

 はじめてメールをさしあげます。

(中略)

 都小Pのブログにて、青少年健全育成条例の改正案について、今都議会で成立を求める緊急要望書を提出されたことを知りました。

 マスメディアではあまり報道が行われていないようですが、関心を持ち、条例改正案を入手して読むなどしてこの件については勉強しております。
 その上でお聞きしたいのですが、今回の議会で改正案の成立を求めるのはあまりにも性急なように思います。
 個人的には、青少年の目にポルノグラフィーが触れないようにする手段としては、表現そのものの規制ではなく罰則規定を伴ったゾーンニングで行うべきと思っておりますが、異なる意見もあろうと承知しています。
 ただし、こうした表現の規制に関しては慎重であるべきだと考えており、十分な議論がないままに結論を促すような緊急要望書の文面には、疑問を感じました。
 また、児童ポルノの根絶と、子供を性的対象にする図書が青少年の目に触れないようにすることとは、本質的に別の問題ではないでしょうか。
 児童ポルノはれっきとした性犯罪であり、両者を併置して禁止を主張することは、危険なミスリードにつながると考えます。
 刺激の強い言葉を連ねることについても、やはり慎重な対応をお願いしたいと思います。

 以上のとおり、遺憾に感じたことを述べさせていただきました。
 ご多忙の折、たいへん恐縮ですが今回の緊急要望書に至った経緯をご教示願えればと思っております。
 宜しくお願い申し上げます。

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(3/17)日本ミステリー文学大賞の贈賞パーティーに行ってきた

 パーティーに出席するのは珍しいことではないのだけど、今回は仕事がらみである。第十三回の受賞者となった北方謙三氏のインタビューアを引き受けたためだ。媒体はAXNミステリーである。バンケット横のスペースを借りて収録した。ところが食器の触れ合う音やウェイターの声など雑音が少しずつ入る。小さい音なら問題ないらしいが、時に収録に差し障るほどの音が立てられるため、そのたびにアシスタント・ディレクターの女性が走っていた。いや、向こうも仕事なんだから、音を立てるなと言われても困っただろうけど。

 この収録と同時刻に別所でアガサ・クリスティー展開催の前日レセプションが開かれていたのだが、残念ながら参加できなかった。珍しいクリスティーのポートレイトや(水着で海水浴をしている写真などがあるらしい)、創作ノートも展示されているそうだ。たいへん珍しいので、会期中には絶対に行こうと思っている。ちなみに創作ノートは、全ページを見られるわけではないという。残念。いたずらしないからビューワーかなにかで見せてもらえないだろうか、とお願いしたら、ミステリマガジンK編集長から、「クリスティーはすごい悪筆だったらしいから読めないと思いますよ」といわれた。なるほど。四月に刊行される『秘密ノート』も、その悪筆をひーひー言いながら何年かがかりで解読したという代物なのだとか。

 そのクリスティー展と機を一にして、早川書房がアガサ・クリスティー賞の新設を発表した。長編ミステリーの新人賞で、今秋が〆切だという。共同通信社のネット記事はアガサ・クリスティーの名を冠した賞は世界で初めて、と書いているが、アメリカにアガサ賞がある以上、これは誤りだろう。「版権継承者が公認した賞は初めて」が正しいのかな?(アガサ賞は、ミステリー・ファン・コンベンションのマリス・ドメスティックが「クリスティーっぽい」と認定した作品にあげているものだ。マリス・ドメスティックの公式サイトはここ)。

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(3/15)私にはよくわからない

 例の都条例改正の件について、本日正午より山口貴士弁護士が都庁記者クラブで会見を開き、その後午後二時からイベントを開くそうだ。記者会見・イベントともに所用のため参加はできないが、その内容については報道されるだろうから注意深く読むことにしたい。詳細は以下のとおり。

「東京都による青少年健全育成条例改正案と『非実在青少年』規制を考える。」

 タイトルに「よくわからない」と書いたのは、日を同じくして東京・秋葉原で日本を護る市民の会なる団体が抗議デモを開くと聞いたからだ。なぜ秋葉原? この団体のホームページを見てみたのだが、主張するところと抗議デモの趣旨とがどう結びつくのか本当にわからなかった。そもそも秋葉原でやることに意味があるのかという気もする。内容が内容だけに、興味本位にマスメディアに採り上げられてしまうのではないか。とりあえず私は、山口弁護士の主催するイベントの方に注目するつもりである。

 この条例改正の件については、よくわからない事態が噴出しつつある。反対派も賛成派も、意見を表明するのであればぜひ堂々と述べていただきたい。だが、それが自分の主張を押し通すだけの「べき」論や、相手の揚げ足を取ったり人格批判をするような不毛な論議になってしまうのであれば、とても不幸なことだ。冷静に、冷静に。

 前にも書いたが、私は性に関する表現の規制には基本的に反対する。以前に「表現に関して日本はおおらかすぎると思う。児童ポルノは規制されて然るべきだ」と書いたが曖昧だった。表現の規制には反対するが、それが流通することによって、被害を蒙る人が出るならば(見たくもないポルノを見せられてしまうなど)、予防措置が必要であると考える。それは表現規制ではなく、ゾーニングの問題だと私は考えているのだが、今回の都条例改正の前提として、そのゾーニングでは規制しきれていない分野がある、という見方があるのだと知った。何をどうすればいいのか、という具体案については自分で詰めきれていないので、さらに考えてみたいと思っている。また、こうした反対の動きが特定の出版社や、嗜好を持つ個人の利益を護るもののように思われることには違和感を覚えていて、それについてもなんらかの意志表明をしたいと考えている。いろいろ、考え中なのだ。みんな考え中って言うのを怖れないほうがいいと思う。大事なことなのだから、「まだ考えています」って言うのは恥ずかしくなんかない。「そんなこともわからないのか、この未熟者め」と揶揄されるかもしれないけど、実際未熟なんだから仕方ないやね。

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(3/15)たいへんなことになっている月曜日

 目を開けるのが嫌なくらいにうんざりしながら朝を迎えた。今週末はいよいよ翻訳ミステリー大賞の第一回贈賞式及びコンベンションである。それに向けて準備しなければならないことは山ほどあるので、本日は最終打ち合わせを持つ予定だ(あと確定申告もある)。明日は光文社の日本ミステリー文学大賞の贈賞式パーティーがあり、開始前に北方謙三さんにインタビューをさせていただくことになっている。アガサ・クリスティーの前日レセプションもあるのだが、そっちは諦めた。水曜日はAXNミステリーのBOOK倶楽部収録日で、翌木曜日は池袋コミュニティ・カレッジの講義。出不精な自分としてはこれだけでも気が滅入るのに、雑誌原稿の〆切が五本と、解説原稿が二本。いっぱいいっぱいだ。いっぱいいっぱいと呟くとなんだか気分がいっぱいいっぱいになるのでもういっぱいいっぱいと言わないようにしよう。いっぱい。

 そんなわけで今週もがんばります。みなさんもつつがなくお過ごしください。

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(3/11)予想外の満員御礼

 すでに翻訳ミステリー大賞シンジケートのトップページでは告知を出していますが、三月二十日に予定している第一回翻訳ミステリー大賞贈賞式及びコンベンションは、定数に達したために受け付けを締め切りました。なんと、百人もの参加表明をいただいてしまったのです。それだけ期待していただいているのだと事務局一同厳粛に受け止めております。開催まであと一週間しかないですが、楽しめる会にしていきたいと思っておりますので、参加される方はよろしくお願い申し上げます。

 そして、これはお願い。当日参加される中で、twitterに登録されている方がいらっしゃったら、ぜひ実況ツィートをお願いできないでしょうか。お申し出をいただけば、「公式ツィート」として事前に告知もさせていただきます。あと、えーと未成年でなければビールおごります。ぜひぜひ。sugiemckoy@gmail.com宛にメールをくださいな。

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(3/11)PTAもワークシェアリングの考え方を導入したほうがいい

 昨日は平成二十一年度最後の運営委員会だった。毎年三月の運営委員会は、各部の役員全員に声をかけて、茶話会をかねた形でやるのである。総勢三十名近くの役員が会議室に集まったが、私と副校長を除いた全員が女性。やはりPTA活動は女性主体だと感じる。

 その運営委員会を開催する十二時間前に、ようやく来期の執行部役員が全員決まったとの連絡があった。一安心である。当校の場合、次年度役員は役員候補推薦委員会が候補者をリクルートし、候補者名簿を作成して全会員から信任投票を受けるという形で決定する。基本的には会長の自分が口出しをすることができない領域であるため、おんぶに抱っこの状態だ。

 運営委員会の席上で、その推薦形式についての議論が起きた。ある方から、書記として推薦されたが、定数が二名と少なく、負担が大きいことがあらかじめ判っていたため、お断りしたと言われたのだ。二人で分担するとたいへんな仕事でも、三人、四人いられば負担は軽減される。その方向性は正しいと、私は思う。最初に候補者を見つけるときは苦労が多いかもしれないが、一人当たりの負担が少なければ、やってもいいという人は出てくるのではないか。今年の役員決めでは、それまで二人だった副会長職について、二人増員の四人で候補者探しをお願いした。役割分担を明確にするためだ。二人は校内担当で、六つある委員会を半分ずつ面倒みる。残りの一人は校外担当で、一人は地域コミュニティとの折衝、もう一人は他校との連係を図る。そういう形であれば各人の負担は少なくなるし、極論すれば校外担当は一回も学校にこなくても任務を果たせる。フルタイムで働いている方でも仕事はできるはずだ。

 この方針を決めたときは、PTAのOB・OGからずいぶん批判を受けた。そんなに定数を増やしても無駄だというのだ。自分ではやらない人間ほど無駄だと言うし、無責任な立場の人ほど守旧派になる。経済状況も厳しい折、PTA活動に専念できる人のほうが少なくってくる。当校に限っていえば、これからは今まで一人でやっていた仕事を二人で、二人でやっていた仕事を四人でやっていくPTA体制にしていくべきだ。頑張るのではなく、頑張らなくてもいいように頑張るのである。そのことを二年前PTA会長に就任したときから、ずっと言い続けている。

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(3/10)非実在青少年規制の問題を考える前にやることがあるだろう

 東京都の児童ポルノ規制条例の件について知るため、第二十八期青少年問題協議会の専門部会の議事録を読み始めている。規制反対って言っている人はちゃんと読んだほうがいいと思うよ。委員の思想的偏向を批判するのはいいけど、孫引きをしているせいで誤った引用をしているものが多い。そんなものを元にして請願書を書いても、つっかえされるだけだ。

 たとえば(ひきあいに出して悪いけど)ここ。協議会の中で特に問題がある委員として、前田雅英首都大学東京法学大学院教授と、新谷珠恵東京都小学校PTA協議会会長、大葉ナナコ有限責任中間法人日本誕生学協会代表理事の三名を名指しにしているが、ちょっと問題が多い。
 まず、前田雅英氏のものとされている以下の発言だが、

>アニメ、漫画におけるいわゆる児童ポルノ的なものですけれども、こちらも実在しない青少年の性行為等を描写していても何らかの規制が必要ではないか、ただし、単純製造、単純所持を直ちに刑事罰の対象にはしないとか、残虐な画像に限るなどの条件を課すことも検討すべきであるということでした。

 これは前田氏の発言ではない。東京都青少年・治安対策本部 総合対策部 青少年課の青山課長のものだ。第八回専門部会の議事録を読めば一発で判る。こんな冒頭のところで引用を間違えていてはまずいでしょう。反対するべきではないというわけではなくて、孫引きではなくてきちんと原文を読んでから発言をしないと説得力を失うと言っているのである。たしかに前田氏が児童ポルノの悪い可能性だけを見て(カタルシス論を無視して)、法規制を主張するのは乱暴だし、大葉ナナコ氏の発言は舌足らずで何を言いたいのかよくわからない部分がある。子供たちを性暴力から守りたいという気持ちが先行して、辻褄の合わないことを言っているように見える。新谷珠恵氏の発言はさらに粗が多く、規制賛成という結論ありきの言い方じゃなくて、ちゃんと理論武装してから物を言えよといいたくなる。同じPTAという組織に所属しているのが恥ずかしくなったほどだ。

 私は、ペドフィリア性愛を描いた作品は嫌いだし、表現に関して日本はおおらかすぎると思う。児童ポルノは規制されて然るべきだ。しかし、今回のような拙速のやり方ではなく、きちんと問題を整理した上でやってもらいたい。部会の議事録を読んでいると、ときどきまともな主張をする人が出てくる。第八回でいえば木村忠正東京大学准教授の発言などがそうだ。問題を被写体が実在するか否か、表現が芸術的であるか犯罪的であるかのマトリクスに分けて整理しようと試みている。また加藤諦三早稲田大学名誉教授の、「性の衝動を無意識に追放することまで規制してはいけないけれども、一方に、性の衝動を肥大化するような形のところまで許しちゃいけない」という発言も、人間の性の問題をきちんと把握した発言だと思う(人間の暗部に蓋をする規制はよくないと思っている反対派のみなさん、そういう意見を言う人も委員の中にはいるのです)。しかしそういう意見は声の大きな人の「とにかく反対」に呑み込まれてしまっている印象だ。写真と絵は違うのではないか、という話題が出かかるたびに、急進派の声がそれを打ち消している。

 現行の青少年健全育成審議会の体制を批判する声がないのも問題だと思う。審議会というのは発行された雑誌を見て有害かそうではないか決めるところだ。第八回の議事録を見ると、この審議会の委員長から特定の出版社の刊行物が何度も有害指定を受けている現状がある、との報告があったらしい。にもかかわらず先ほどの青山課長からは、小中学生が見る雑誌の中に同年代の性行為を肯定的に描いたものがある、との報告がされているのである。えー、「特定の出版社」は何度も取り締まれたのに、その出版社は取り締まれなかったのかよ。それって、現行の条例で、「特定の出版社」以外の版元を取り締まらなかった審議会の責任ではないのか。弱小エロ出版社だけではなくて、日本雑誌協会に加盟しているような大手出版社の刊行雑誌にも目を配れば、現行の体制でもゾーニングは可能なのではないかという疑念が浮かぶのである。この辺の「強きを助け弱きをくじく」審議会のあり方については、すでに二〇〇〇年に塩山芳明が批判を行っている(『出版業界最底辺日記』ちくま文庫)。きちんと取り締まれよ、少年少女向け雑誌の皮をかぶったエロ雑誌も。

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(3/9)これはこれでアリだという気がする。

 第一回翻訳ミステリー大賞の候補作『川は静かに流れ』(ハヤカワ・ミステリ文庫)の作者、ジョン・ハートの新作『ラスト・チャイルド』が四月に刊行されるらしい。異例なことに、文庫とポケミス版とが同時刊行されるのである。過去にも文庫で刊行された作品が愛蔵版としてハードカバーで出直した例などはいくらでもあるが、初めから同時刊行というのはやはり珍しい。

 しかし、これはアリだろう。私の周囲にも、文庫とポケミスの両方で出るのならポケミス版で買うというファンがたくさんいる。そういう人の場合、ポケミスが愛蔵版で、刊行されれば全部揃える叢書という位置づけだ。もちろんポケミスはポケミスでオリジナルの作品を出してくれたほうが嬉しいのだが、目の前に出されれば無視するわけにはいかないのである。私の場合本は資料として所蔵するのが目的で買うので、小さければ小さいほどありがたい。だから基本的には文庫刊行のほうが好ましいが、ポケミスならやはり買う(このへんが機能主義に徹しきれていないところで、我ながらだらしない)。

 こんな試みは、もっと増えていっていいはずだ。コレクターズアイテムとしての本と、物語の中味を届けるために存在する本とを明確に分けていくわけである。電子書籍の時代到来との話題がかまびすしいが、「本」というイメージが単一で揺らがないものというように考えていると、いつまでたっても議論は前に進まない。流通するすべての商品と同じで、本にもいろいろなニーズがある。ポケミスを全冊揃えたいと思っている人に電子書籍でデータを差し上げましょうと言っても一笑に付されるだろう。逆に、過去のポケミスを集めて時代による訳文の変遷を検証したいと思っている人にはデータ化された資料のほうが喜ばれる。そういうことだ。ちなみに私は、データが全部あれば嬉しいが、できたら(ポケミスに限っては)全冊揃えたい派。そんなことを言っている人間は、電子書籍とか言う前に書棚を片付けるべきかも。

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(3/9)みんなが気にするあの秘密結社

 今日は宣伝である。「翻訳ミステリー大賞シンジケート」では、現在『ロスト・シンボル』刊行に合わせ、訳者の越前敏弥氏のエッセイを短期集中連載している。その第三回がおもしろいので、全員必見。なんと越前氏が、あのフリーメイソン東京ロッジを訪問し、取材しているのだ。詳細はコチラ
 まじめな研究家も、陰謀論者も、単なる野次馬も、一度は見ておくことをお勧めしたい。

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(3/8)これは熟読玩味すべき教えだ

 ジャーナリスト藤崎圭一郎さんがブログ「ココカラハジマル」に、私家版「雑誌原稿書き方 全111条」をアップしている。ざっと読んだが、ライター志望者なら必ず心得るべきことがわかりやすい文章で網羅されており、とても参考になる内容だと思った。ライターを職業としたい人だけではなく、学生でこれからまとまった分量の論文を書かなければいけない人、そこまでいかなくても短い文章(ブログなど)を日々書く用がある人でも参考になる箇所が多い。コピーし、持ち歩いて覚えてみるのもいいだろう。

 もっとも、これを金科玉条として守るだけではなく、自分なりのルールを付け加えていくのもライターの技量のうちである。あくまで原則と割り切ったほうがいい。割り切った上で、原則の精神を壊さずに改変を行うのだ。良いルールができたら、それこそ門外不出の財産となる。

 細かく見ていけば、違うなと思うところもある。たとえば私が自分に課しているルールでは、「の」を連続していい回数は二回までである(「021) 「の」の連続は3つまで。」)。文末に―や…を使って言い切りの形を避けることは極力縛めている。自己陶酔になる可能性があり、きちんと語尾まで言い切った上で余韻を生むような文章を書くことができなくなるからだ(「039) 文末に「──」や「……」を使うと余韻が生まれる。藤沢周平を読もう。 」)。そういった具合に自分ルールを作っていくわけである。ここを起点として、またここに戻ってくればいい。素晴らしい教科書になるはずだ。ぜひ一読してみてもらいたい。

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(3/8)大藪春彦賞と吉川英治文学新人賞の夜

 五日の夜は、東京・日比谷周辺に主要出版社の文芸担当者が集結していた。実に、濃密な一夜であった。桜田通り沿いで、文学賞関係の集まりがほぼ同時に開かれていたからだ。一つは、大藪春彦賞、日本SF大賞、日本SF新人賞の徳間文芸賞贈賞式、もう一つは吉川英治文学賞、同文学新人賞の選考会および記者会見である。その両方に関係していたのが、道尾秀介氏。第十二回大藪春彦賞を受賞するとともに、吉川英治文学新人賞の候補にも残っていたのである。実に引きが強い。

 結果は既報のとおりで、吉川英治文学新人賞は池井戸潤『鉄の骨』と冲方丁『天地明察』の二作が同時受賞を果たした。その報せを私が受けたのが午後五時半過ぎ、徳間の会場に向かっている途中だった。池井戸潤は慶應推理小説同好会の先輩なので、待機会場に詰めていた編集者が教えてくれたのである。幸か不幸か、これで道尾氏は両会場を往復する必要がなくなった。そうなっていたらおもしろかったけどね。

 その道尾氏の贈賞式二次会で見聞したことを少しだけ書く。前に日記でも書いたように、今回の大藪賞選評は、非常に厳しかった。厳しいが作品を的確に分析した、正当なものである。したがって、各委員が道尾氏に接する態度はまことに堂々としたものだった。「厳しいことを言ったが、道尾には嫉妬するほどの才能がある」とスピーチしたのがもっとも厳しい選評を書いた馳星周氏。選評で「わたしはガキをダシにした作品が大嫌い」と書いた志水辰夫氏は、選評を読んで反発されただろうがその怒りをバネとして選考委員を見返す活躍をしてもらいたい、という趣旨のことを述べたのである。こうでなくっちゃいけませんやね。

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(3/8)売れそうで売れない本

 twitter経由で知った書店のフェア。福岡・天神のジュンク堂書店で、「売れると思ったのに、なぜに売れぬ」というフェアをやっているとか。どんな本が含まれているのか知りたいと思っていたら、こちらのサイトが書店に問い合わせてリストをアップしてくれた。ありがたい。

 ぱっと眺めた印象では、たしかに「売れそうなのになぜ売れない」という本もあるが、「なぜこれが売れると思ったか」というものもある。とりあえず、杉作J太郎『恋と股間』は確信的にやったネタとしか思えないのだが、スティーブ・エリクソン『エクスタシーの湖』や、ケイト・モートン『リヴァトン館』のような良作を大量に仕入れた挙句に売れなければ、「なぜに売れぬ」と言いたい気分にもなるだろう。

 近くに住んでいたら、ぜひ棚を見に行きたいものである。近くのジュンク堂でもやらないかな。

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(3/7)第三回世界バカミス☆アワードの結果は意外なことに!

 三月一日から実施した第三回世界バカミス☆アワードの最終候補作選考に多数の方からネット投票をいただきました。その結果と、選考委員(小山正、川出正樹、日下三蔵、杉江松恋)の討議を元に、六作の候補作が決定いたしました。(作品名五十音順)

『解雇手当』ドウェイン・スウィアジンスキー(ハヤカワ・ミステリ文庫)
『死神を葬れ』ジョシュ・バゼル(新潮文庫)
『粘膜蜥蜴』飴村行(角川ホラー文庫)
『バッド・モンキーズ』マット・ラフ(文藝春秋)
『フラクション』駕籠真太郎(コアマガジン社)
『三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人』倉阪鬼一郎(講談社ノベルス)

 以上の結果を踏まえ、三月六日に東京・青山ブックセンター本店で公開選考会が行われました。選考方法は、各作品についてのプレゼンテーションを聴いた来場者が「いちばん読みたいと感じた本」に票を投じるという形式です。六作品のうち、他の四作品を引き離して票を集めたのが『フラクション』と『三崎黒鳥館白鳥館連続密室殺人』の二作。獲得したのは二十一票と二十三票、なんと二票差でした。選考委員代表の小山正より、両作ともに受賞とするのが妥当ではないかという提案が行われ、満場一致で承認されました。バカミス☆アワード初の同時受賞です。駕籠さん、倉阪さん、誠におめでとうございます。明日のバカミス界はご両人に託されました。今後のご活躍を期待しております。

 以上の模様は、五月二十五日発売の「ミステリマガジン」七月号に記載されます。お楽しみに。

(追記)以下のサイトやブログで当日の模様が紹介されております。ご参考まで。
受賞者の一人、倉阪鬼一郎さんのサイト
新Weird World 倉阪鬼一郎の怪しい世界
同じく、駕籠真太郎さんのブログ
おぼろ駕籠
ぼくのミステリな備忘ログ
霞流一探偵小説事務所
ミステリー作家・藤岡真のみのほどしらずの、なんでも評論


 

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(3/6)第六十三回日本推理作家協会賞候補作発表

 日本推理作家協会のホームページに告知が出ていました。
 詳細はコチラ

 長編及び連作短編集部門候補作で飴村行『粘膜蜥蜴』が入ったのは見識でしょう。ここ数年ではもっとも突出したものを感じる新人である。湊かなえ『贖罪』は必ずしも作者のベストの作品とは思わないから(進境著しい『Nのために』を読むと特にそう感じる)、新人枠での受賞はないんじゃないかな。個人的には米澤穂信に獲ってもらいたいが、過去の貢献度を加味した貫井徳郎が受賞すると予想(推協賞は過去の実績が評価に加えられる)。

 短編部門は読んでいない作品もあるのでちょっと判断不能。永瀬隼介の『完黙』は新境地を拓いた意欲作だと思うので、そこから選ばれた短編で受賞してもらいたい気持ちがある。 評論その他の部門は、翻訳ミステリー大賞事務局の中の人として小森健太朗を推します。翻訳ミステリーの古典作品が売れるきっかけになるといいな。

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(3/5)まさかの個人商店化?

 株式会社ランダムハウス講談社からお手紙をいただいた。ランダムハウス社と講談社の資本提携関係を解消するにあたり、来る四月一日から社名を変更することになったそうである。新社名は「株式会社武田ランダムハウスジャパン」

 なんで武田、と思ったのだけど、代表取締役社長のお名前が武田雄二なのね。もしかするとオーナー社長の会社になるのか。

 ちなみに文庫レーベル名は「ランダムハウス講談社文庫」から「RHブックス・プラス」になるのだそうだ。ふうん。文庫の中に二百分の一の確率で「RHブックス・マイナス」があったりして。ジャンルごとにミステリーはA、ロマンスはB、ヒストリカルはOとか分かれていたりして。

 今後ともよろしくお願いします。がんばってくださいね。

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(3/4)昨日からお金になる原稿を一行も書けていない不思議

 そして今日は、PTAの最後の役員会でした。来週に運営委員会をやって今年度はおしまい。
 でもまだ、来年度役員の一部が決まっていないとか。たいへんだ。誰かやりたい人はいませんか、とここで書いても意味がないのだけど。

 今から翻訳ミステリー大賞関連の打ち合わせに行って、夜は池袋で講師である。講師だけ一応本業だな。

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(3/4)文庫のお知らせもう一つ

 夢枕獏『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』(徳間文庫)が全四巻で完結した。解説ではないのだけど、この巻ノ一と巻ノ二には関与しています。二〇〇四年九月二十九日に東京都新宿区の紀伊国屋サザンシアターで開かれた「空海夜話」の講演録が収められていて、その構成をしたのが私なのだ。巻ノ一は夢枕獏・中沢新一(宗教学者)・宮崎信也(高野山真言宗般若院住職・多摩美術大学芸術人類学研究所客員研究員)の鼎談を収録している。中沢氏が獏さんを扇動している様子がよく判っておもしろいです。巻ノ二の方は夢枕獏・岡本光平(書家)対談が。こちらは主に書家としての空海に焦点を当てた内容である。空海の書って、実際に見てみると絵画みたいでおもしろいのだが、なぜあんな変な形なのか、岡本氏が説明するところが興味深い。実はこのイベントのときにはもう一つ演目があって、神田山陽がネタおろしで空海講談を語ったと記憶している。講談が終った瞬間、山陽が文字通り跳んで楽屋に逃げ帰ったのが印象的でした。あの演目、よそでもかけているのかしら。

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(3/4)バカミス☆アワード最終候補作品投票の〆切は今日です

 標題のとおりなんでお忘れなく。一人一回投票なので、まだ済ませていない方はよろしくお願いします。

 解説を書いた文庫の見本が届いた。今野敏『38口径の告発』(朝日文庫)だ。自分でも意外だったけど今野作品の解説を書いたのはこれが初めて。自宅はすごく近所なのに。

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(3/3)春風亭小朝という落語家のこと

 以前に故・古今亭志ん朝の弟子にインタビューをした本を読んでいたら、うちの誰かが(お名前失念)、「うちの師匠に稽古をつけてもらったことがないくせに、志ん朝の名前を利用している落語家がいる」「その落語家は自分の師匠のことはまったく話に出さない」という批判を始めてびっくりしたことがある。名指しこそされていないが、まあ、小朝だろうと思います。

 春風亭小朝という落語家は、大抜擢をうけて真打になったために先輩格の落語家から妬まれたり、大銀座落語祭を企画して席亭から批判を受けたり、とにかく攻撃されやすい人なのである。出る杭になっているということで、芸人としては結構である。まあ、それにしても悪く言う人は悪く言う。

 ちょっと気になったので二〇〇六年に出たインタビュー本『いま、胎動する落語』を読んでみた。それで判ったことがある。小朝は、わりと物言いが無防備なのだ。本人に悪気はないはずだが、人によってはかちんとくると思う。この調子で「俺の志ん朝が」みたいな言い方をしたのでくだんの落語家は頭にきたのだろうな。

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(3/2)アンフェアだっていいじゃないクリスティーだもの

 そういえば忘れていたが、来る三月十七日から、東京ではアガサ・クリスティー展が開かれるのであった。前日の十六日にはレセプションが開かれるそうだが、行けるかどうか判らなくなってきた。日本ミステリー文学大賞の授賞式があるので、微妙に重なってしまうのである。レセプションと併せて内覧会が開かれるそうで行きたいんだけどな。いただいた招待状の文面を引用して、展示の内容をちょっとご紹介する。

 ――2010年はアガサ・クリスティーの生誕120周年にあたります。
 この節目の年に、アジア初の展覧会として彼女の愛用品や日常の嗜好品から、作品制作に関わるの(原文ママ)直筆メモや世界の初版本などを一堂に介するほか、大変貴重な、アガサ・クリスティーのプライベートフイルム、フォトなども初公開いたします。

 だそうだ。わー、これは見たいな。伝え聞くところによると、単に物を並べて置くだけではなく、展示の方法も凝ったものだとか。うーん、十六日が無理でも必ず行く。

 それにしても今回いちばん驚いたのが、展覧会場が東京国際フォーラム相田みつを美術館だったことだ。アガサ・クリスティーと相田みつを。私の中では水島新司と水嶋ヒロぐらい違う。水嶋ヒロってどういう人だか良く知らないけどね。

(展覧会概容)

会期:2010年3月17日(水)~6月13日(日)
会場:東京国際フォーラム 相田みつを美術館第2ホール
休館日:月曜休館(祝・祭日は開館、振替休日なし)
開館時間:10:00~17:30(最終入場は17:00)

 展覧会に合わせて、なにかイベントでもやろうかな。
 

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(3/1)大山詣りでいこう!

 私の好きな落語に「大山詣り」がある。大山詣りの道中で乱暴者の主人公が、禁を破って喧嘩をしてしまう。決まりにつき、彼はくりくり坊主にされてしまうのだが……というお話。後半に一大スペクタル場面があり、とんでもない嘘で騙される人が出て、という見せ場の多い噺なのだが、すべてをチャラにしてしまうような春風駘蕩とした落ちがつく。これがくだらないのだ。

「お山は快晴。帰ってみれば、みなさんお毛が無くお目出度い」

「毛が」を「怪我」にかけた駄洒落だ。立川志らくが『全身落語家読本』の中で、
 ――ボリューム感のある噺にしては落ちがひどすぎると一般には言われている。でも、このくだらない駄洒落を言いたいが為に、全てを許してしまう甚兵衛さんは只者ではないし、このくだらなさで、聴く側も何だかほっとするのである。私はこの落ちは噺の効果上、良い落ちだと思っている。
 と綴っているとおり、良い落ちだと思う。「お怪我無くお目出度い」のだ。いいじゃないか。救われる。

 津波が来なかったことで警報を出した気象庁が責められているという話を聞いて、この落語のことを思い出した。いいじゃないか過剰な警報でも。それでお怪我無くお目出度い。少しは大目に見てあげなさいよ。大山詣りでいこう。

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(3/1)第三回世界バカミス☆アワード最終候補作選考に参加してください!

 バカミス★アワードとは、前年一年間で刊行されたミステリー(漫画・戯曲なども含む)の中から、もっとも優れた作品を選ぶ読者参加型の賞です。本年は三月六日に大賞選考会を公開で行います。
(詳細はコチラ。まだ座席には余裕があるようです)

 第一次選考でもお願いしましたが、今度は最終候補作選びにご参加ください。投票は一人一回、期間は三月一日(本日)から四日(木)までです。末尾の一次選考通過作品の中から、もっとも気に入った作品を一つ挙げてください。最終候補作はアワード選考委員が討議をして決定しますが、ネット投票で上位をとった作品
(選考委員が推す作品と重複した場合は、下位に順送りとする)が一作最終候補に追加されます。大賞の決定は三月六日に会場の投票によって行います。併せて参加いただき、ぜひ歴史の証人になってください。

 投票方法は以下の三つです。ご不明の点はお問い合わせください。twitterを使う方式以外はメールアドレスを明記する必要があるのでご注意のほどを。基本的にどの方法を使っても投票は一人一回だけです(一次投票とは違いますのでご注意を)。よろしくお願いします。

 その一。この日記にコメントをつける。

 その二。杉江松恋sugiemckoy@gmail.com宛にメールする。

 その三。twitterでハッシュタグ「#bkmys2010」をつけて呟く。この場合、#bkmys2010の前後に半角スペースをつけないと正しく検索できず、集計不可能になりますのでご注意ください。

(一次選考通過作品)
『フラクション』駕籠真太郎(コアマガジン社)
『三崎黒鳥館白鳥館連続殺人』倉阪鬼一郎(講談社ノベルス)
『バッド・モンキーズ』マット・ラフ(文藝春秋)
『粘膜蜥蜴』飴村行(角川ホラー文庫)
『解雇手当』ドウェイン・スウィアジンスキー(ハヤカワ・ミステリ文庫)
『電気人間の虜』詠坂雄二(光文社)
『ダイナー』平山夢明(ポプラ社)
『死神を葬れ』ジョシュ・バゼル(新潮文庫)
『迷惑なんだけど?』カール・ハイアセン(文春文庫)
『レポメン』エリック・ガルシア(新潮文庫)
『世界名探偵倶楽部』パブロ・デ・サンティス(ハヤカワ・ミステリ文庫)
『神国崩壊―探偵府と四つの綺譚』獅子宮敏彦(原書房)

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