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(4/26)私がヒゲのPTA会長になった理由 その3

(承前)
 新宿区西新宿五丁目。
 以前の住所を言うと、「そんなところにも人が住んでいるんだ」と変な感心をされることがあった。住んでいるのである。あたりまえです。以前はもっと住んでいた。バブルのころに地上げの波に襲われ、土地が歯抜けにされてしまったのだ。そのために、商店街というものが弱体化し、二店に一店は畳んでしまっているような状態だった。住んでいたのは十二社通りといって、昔は色街があって栄えた場所だ。都電の停留所があり、映画館もあったはずである。芸人さんが多く住んでいて、売れる前の志村けんもたしかいたはずだ。変なおじさん、いえいえそのころはまだおにいさんでした。

 そういうところから今の家がある場所に引っ越してきた。これを言うとまたまた感心されるのだが、某私鉄沿線の駅から二分のところに住んでいる。よく土地があったものである。聞けば以前に住んでいた人が旋盤工場をやっていて、廃業して引っ越していったのだという。おかげで綺麗な四角い土地が空いていた。そこに小さな家を建てて引っ越してきたのだ。
 新宿のネオン街から来たのだから、落ち着くだろうと思っていた。また、多少は淋しくなるかな、とも考えていた。とんでもない。引っ越してきて驚いたのが、若者が多いことである。駅前のパチンコ屋に深夜から並んで開店待ちをしている(警察に叱られたのか、しばらくすると深夜の行列はなくなった)。居酒屋が遅くまでやっているものだから、明け方までふらふらしている人間がいる。うちは商店街から路地を一本引っ込んだところにあるもので、本当に人通りが絶えないということがすぐに判った。下手をすると、表で痴話喧嘩をしているのが聞こえてくるぐらいである。あれはやめたほうがいいぞ、君たち。筒抜けなんだよ、家の中には。私はいいが、中には睦言に興奮しちゃう人も出るかもしれない。いたずらに蛮声を上げたりするのも感心しない。寝てるんだから。あと、家の前で酔っ払って寝るのもやめろ。冬だと死ぬぞ。
 要するに、寂れた町から活気のある繁華街に越してきたのだった。子供がいる以上、これは痛し痒しの環境である。人通りが多い分、どんな人間と出くわすかわからないからだ。
 近所の人と仲良くならねば、と改めて思った。なにかあったときに気づいてくれる人を増やすのが、最大の防犯策、防衛策だ。実は引っ越すときにトラブルがあり(隣家と前の家から、家の高さについて文句をいわれた)、近隣の住民にはそんなに期待できないと思っていた。文句をつけてきた家には子供はおらず、どちらも高齢者の住まいである。とりあえず日常的につきあうこともあまりないはずである。たぶんここで初めて、地域活動をちゃんとやろうという考えが芽生えたのだ。近所の信用が名刺代わりということである。おお、なんか警察の生活安全課みたいなことを言っていますね、私。

 実は新宿時代にもそういうことを試そうとしたことがあった。マンションの裏手にあった中華料理屋のおじさんと親しくなり、祭の講にも入れてもらえるという話になったのだ。講に入れば、神輿を担げるじゃないか。わくわくして待っていたのだが、祭当日になってもおじさんからの連絡はなかった。それどころか、軒に暖簾がかからなくなり、いつのまにか営業も途絶えてしまった。
 どうやらおじさんを二つの不幸が見舞ったようなのである。一つ目は離婚。おじさんは年下の中国人女性と結婚していたのだが、彼女が男を作って家出してしまったらしい。そして、彼女のつてで中国黒社会の金融業者に借金をしていたのが駄目になり、店をとられてしまったのだ。これが二つ目の不幸である。おっそろしいことに、青龍刀を持った連中に押しかけられたらしい。
 だいぶ経ってから連絡があり、おじさんと再会した。白衣を着ていたときのおじさんは優しい表情の好漢だったが、生活の疲れが出た顔になっていた。近所のスナックで飲み、懇意にしているという歌舞伎町の韓国パブに繰り出したが、あまり楽しい思い出にはならなかった。しばらく西新宿近辺にいたようだが、やがて連絡が取れなくなった。電話番号は古い携帯に記録してあるが、もう何年もかけたことがない。
 おじさんとの縁が切れたあと、残念ながら西新宿でいい人にめぐり会うことはなかった。

 そんなわけで、新天地ではうまくやろうと心に決めていたのである。自宅の一階を仕事場に定め、専業ライターとしての生活を始めた。三階の寝室から一階に降りてくるだけの通勤だ。しばらく経ったある日、仕事をしているとチャイムを鳴らす人があった。インタホンの画面に映っていたのは、見たことがない初老の女性だった。女性は言った。
「町会の者なんですけど、今年度の町会費をいただきに上がりました」
 町会? 町会っていうとあれか、回覧板をまわしてくれたり、年末に助け合い活動で募金をしたりする、あれか。とんとんとんからりんと隣組か(古い)。
 ドアを開けて、外に出た。女性の説明を聞く。町会参加は強制ではないが近所の一戸建ての住民はみんな入っている。町会には交通安全部や防犯部、婦人部などがあり、特に子供がいる家に関係があるのが少年部だという。
 少年部?
 そうか、少年部というのがあるから、自然と地域の活動にも関われるかもしれないな。
 そう思い、町会費を払った。
 私の最初の地域活動は、この町会だった。

(続く予定)

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