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(4/28)私がヒゲのPTA会長になった理由 その4

(承前)

 前回書いたとおり、私が地域活動に携わった最初は、町内会に加入したことだった。
 最初は、祭のときに神輿を担げればいいなあ、くらいの気持ちだったのである。西新宿で講に入れてもらえなかった悔しさがその背景にはあった。
 都市部で暮らしている方は経験があると思うが、古くからの地縁で結ばれた祭には、新参者はなかなか参加しにくいものである。古い住人は「そんなことはない、言ってくれれば参加は歓迎だ」と言われるだろうが、そうはいかないって。よほど社交的な性格でもない限りは言い出しにくいよ。それに神輿だけ担いでさよならというわけにもいくまい。関わるとなったら、ある程度の覚悟は必要になる。
 引越しを機に、私はその「覚悟」をしようと思ったわけだ。
 しばらくは音沙汰がなかったのだが、子供が小学校に入学し、二年生に上がるときになってお誘いがきた。
 子供の行事を企画実行する、少年部に入ってくれないかというのだ。
 その年の少年部長さんははす向かいにお住まいの主婦の方だった。私以外に声をかけた方は、すべて女性だという。少し迷ったのだが、引き受けることにした。自分以外は女性ばっかりという環境には慣れていて、大学のゼミもそういう状態だった。主な活動時間が平日の午前中というのも苦にならない。仕事で在宅している時間帯だからだ。つまり、「面倒くさい」という気分以外に、引き受けない理由はなかった。
 面倒くさいのは誰でも面倒くさいものである。

 一年目の少年部の活動は慣れないことばかりで大変だったが、どうしてもこれは駄目、というような問題はなかった。行事は年に三回あり、夏休みの子供映画会、秋の祭礼お手伝い、新春のお楽しみ会である。それぞれ告知文を作って小学生の子供がいる家庭に配布し、あとは行事に向けて必要な物品を購入して準備するだけ。特に行事内容について考えることも要らず、先輩の少年部役員のいう通りに動いていれば大丈夫だった。
 唯一弱ったのが、毎回の打ち合わせが無駄に(と私は思った)長いことだ。肩肘張った会議ではないので話題が脱線しがちなのは仕方ないとして、やたらと会話が無限ループに入るのである。資料が充分ではない状態で打ち合わせに入るから、仮定条件が多すぎてなかなか結論が出ない。「もし○○だったら××だから」の連続になってしまうのだ。会社員時代の、時間を決めて結論を出す簡潔な会議に慣れていた身にとっては、軽い拷問に近いもどかしさがあった。特にしんどかったのは、お楽しみ会の景品を買出しに行ったときで、店先で「最近の女の子はあまり可愛らしいものは喜ばないのではないか、もう少し大人びた景品の方がいいのではないか」という議論が始まってしまい、泣きたくなった。今だから言えますが、あのときは急な仕事ができたことにして先に失礼させていただきました。聞くところによると丸一日それで潰れてしまったらしいので、賢明な判断だったと思っています。あのときはごめんなさい。

 そういうこともあったが、全体としては和気藹々とした楽しい活動だったと思う。ただ一つひっかかったのが、少年部の位置づけだった。町会全体から見て少年部は「ていのいい便利屋」として扱われているように見えたのである(これは町会の意志決定機関の体質問題だと後でわかった)。
 一例を挙げれば、祭礼の手伝いだ。具体的には、子供神輿と山車の準備をし、焼きそばなどの屋台の店番をする。それはそれで文化祭の模擬店感覚で楽しくはあるのだが、どうしてもその場所に縛り付けられることになってしまう。子供と一緒に祭礼を楽しむわけにはいかないのだ。少年部に参加している役員は、みな小学生の子供を持つ親ばかりである。これは本末転倒の話なのではないかと、初年度から私は思っていた。また、扱いが軽いという問題もある。祭礼に携わる町会の役員は、みな町会の名を染め抜いた法被を着ている。これがなぜか、少年部にだけは支給されていないのだ。みな自前のエプロンや割烹着である。
 なぜか。
 おそらくは古くからの体制がそうなっていたからだ。町会という組織は、擬似的な大家族である。中心には町会長や、祭礼を仕切る鳶の頭、予算管理を司る会計、総務部長がいて、切り盛りをしている。そうした役職は古株の住民のものだ。また婦人部という組織があって、これは文字通りの「女房」役をこなしている。祭礼のときには手分けをして煮しめを作ってきたり、立ち働く人にお茶を出したりしている。古株の男が主、婦人部が従という上下関係がはっきりと出来ているのだ。
 少年部というのはたぶん、そうした中心の町会員になる前の準構成員のような位置づけだったのではないかと思われる。別に青年部というのがあって、これはいわゆる若衆だ。おそらくその女性版、もしくは既婚者版が少年部である。将来婦人部に進む候補者が、代々少年部の役員を務めてきたのではないか(だから私が参加したのはイレギュラーなケースだったと思われる)。
 つまりは男性論理と年功序列が支配する社会である。それはそれで構わないのだが(目くじらを立てても仕方がない)、つまりは古株にならないとおもしろくないということだ。年季奉公で我慢をすればいいのだけど、新参者の私のような住民は、もしかすると一生古株にはなれないのではないか、という気もしてくる。しかも少年部上がりだし。なにしろ少年部は模擬店の世話をしなければならないから、他の用事ができないのである。それは青年部のお仕事だ。青年部に参加していない私は、もしかすると神輿の担ぎ手になることができないのかもしれない。

 そういう風に悪い方向に考え出すと、なんだかすごくつまらなくなる。思春期の中学生じゃないんだから、そうやって人を妬むのはやめろよ、えー、でもなあ、などと自問自答を繰り返し、ようやく任期の終わりが来た。そのときになって、少年部長に言われたのだった。

「次の少年部長になってもらえませんか?」

 えー。少年部、辞めようかと思っていたんですけど。

(続くような続かないような)

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