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(6/30)よおーこそここへなんとかかんとか(歌詞は忘れた)

 昨日学校から帰ってきた子供がいきなり昼寝を始めた。といってもこの子供はいつも昼寝をしているのである。やめろと言ってもしている。もしかすると野比のび太なのかもしれないね。
 で、起こそうとしたのだが、もしかするとこれは覚悟の昼寝なのかもしれないと思いなおした。私は関心がないが、深夜になにやらイベントがあると聞いていたからだ。学校でそのことが話題になって、時流に遅れまいとテレビ観戦を目論んでいるのかも。親としては起こすべきか起こさないでおくべきか迷い、結局「東方永夜抄」をやりながら放置することに決めた。

 午後七時、まだ眠っている。三時間以上は寝ているので、いよいよ覚悟の昼寝かもしれない。そうこうするうちに親として子供に飯を食わせるべき刻限が迫ってきたので、三階の寝室に上がり、おそるおそる訊ねてみた。

「おーい、君はサッカーが観たいのか」
「……児童館に行く」

 はあ? 今はもう夜なんですけど。寝ぼけているのを起こして聞いてみると、児童館に行く前の一休みのつもりで横になったら眠ってしまったのだとか。ああ、のび太だ。でもせっかくだから児童館に行くのは翌日回しにして(もう閉まってるよ!)、今日はサッカーを観たいという。やはり学校で話題が盛りあがっているのだそうだ。

 そんなわけで子供は昨夜、深更までサッカー観戦だった模様。私はつきあっていないのでどうなったか知りませんが、ちゃんと最後まで観たようだ。おつかれさま。父ちゃんはね、「東方永夜抄」をクリアできたんだぜ、偉いだろう。そうか、眠いのか、そうか。今日は早寝したまえ。

 私はスポーツ全般がそれほど好きではないが(だから会社で雑談をするのが苦痛だった)、中でもサッカーについては別世界の出来事のように関心がない。子供の頃に「少年ジャンプ」を読んでも『キャプテン翼』だけは読まなかったぐらいである。あのつまらない『海人ゴンズイ』だってきちんと毎週読んでいたのにな、アチョプ! だって、みんな同じ顔をしていて、いつも走っている絵ばかりだから話がわからないんだもの。

 いちばんサッカーと近かったのは高校の頃で、同じクラスにいたサッカー部の男子とちょっと仲が良くて、原付に乗らせてもらったりしていた。試合を見にいったことはないけど。うちのサッカー部は基本的にちょっとお調子者が多いところで、文化祭のときには校内でローラースケートを履いて走り回り、おらおらこっちを向けオーラを出していた。当時人気があった光ゲンジに対抗して(対抗するな)「紫シキブ」という任意団体を結成し、ミス○○高校のイベントを主催していたのもたしかサッカー部だった。紫シキブかー、紫シキブ。大事なことなので二度言ってみましたが、今では四十代に差し掛かっているはずの彼らは、あの記憶とどう向かい合っているんだろう。高校時代のいい思い出みたいになっているのかも。だったらすごいな。ム・ラ・サ・キ・シ・キ・ブ!

 私のサッカーに関する思い出、以上。たぶん一生試合を通しで観ることはないと思う。あと『キャプテン翼』を読むことも。

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(6/28)戸川安宣さんの夢

 読めない本というものがある。人により、また本によって理由はさまざまだろうが、自ら読むことを封印してしまうのだ。山岸涼子の漫画が怖くて、庭に穴を掘って埋めた、と言っていたのは故・中島らも氏だったっけ。

 私の場合は、マーヴィン・ピーク『タイタス・グローン』(創元推理文庫)がその封印書に当たる。慶應推理小説同好会の大先輩である故・浅羽莢子氏の訳書でもあり、本当なら読んでおかなければならない本なのだが、今のところ手に取るつもりはない。

 本が出たのは二十年以上も昔のことである。私はまだ大学生で、慶應推理小説同好会に属していた。私の世代は宝島社「このミステリーがすごい!」の創刊に立ち会っている。第一回の投票時に、クラブを代表してアンケートに答えたのは私だ。国内版、海外版の両方に票を投じたが、今から見るとずいぶん変な作品を選んでいる。学生なりの自意識が働いたものだろう。

 それはさておき、「このミステリーがすごい」の一冊目が世に出た直後のことである。
 私は夢を見た。どこか遠い街を訪れる夢である。その街のはずれにはトンネルがあり、夜にそこをくぐってみたのだった。トンネルを抜けたところに街燈があり、まるで待ち構えていたかのように、二つの人影があった。一つは巨人。身長は軽く二メートルを超えるだろう。丸い眼鏡をかけていて、目の表情は読めない。その巨人からひょっこり生まれたように、もう一つの小柄な人物が立っていた。その人は、私の存在に気づくと、百年来の旧友に会ったかのような大袈裟な身振りをして、こちらに駆けてきた。そして大声で叫んだのである。
『タイタス・グローン』褒めてくれてありがとう、褒めてくれたのは君だけだ――
 その声を聴きながら、私はぼんやりと気づくのである。ああ、戸川安宣さんだ、と。

 夢の話終わり。現・本格ミステリ作家クラブ事務局長の戸川さんは、元・東京創元社社長である。私がその夢を見たころは、編集部でクロフツの未訳本などを精力的に出版しておられた。『タイタス・グローン』が戸川さんの手がけられた本かどうかは不明。たぶん違うのではないかと思う。そして私がこんな変な夢を見た原因も不明だ。だって『タイタス・グローン』なんて読んでいないのに! もちろん「このミス」でも票を入れていない。

 なぜかこの夢を繰り返し見た。私はほとんど夢を見ない人間なのだが、なぜだか繰り返し見た。いつも同じ情景。街はずれのトンネルに街燈、巨人。駆けてくる戸川さん。『タイタス・グローン』褒めてくれてありがとう。

 そんなわけで私は『タイタス・グローン』を読むのをやめた。本に呼ばれている気がしたからだ。もしかすると本を読むと何かが起きるのかもしれない。今のところ、それを知りたい気持ちはないのである。

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(6/25)傷つけられることを覚悟した者だけが前に出ろ

「ミステリマガジン」の最新号が発売になった。いくつかの連載が今号で終了するのだが、千野帽子氏「誰が少年探偵団を殺そうと。」連載もその一つ、ミステリー評論に対する評論としてスリリングな物言いをしている回がいくつかあり、雑誌が届くといつも最初に読んでいた。最終回、どういうところに着地するのかといえば、ほぼ予想通りの位置でした。たいへんに厳しい指摘。しかしミステリーについて発言をしている人間はすべからくこの「罵倒」(とあえて書くけど)を受け止めてはね返すだけの力を持たなければならないと思うのであった。罵倒されてメソメソしている場合じゃない。千野帽子氏曰く、かつてのビッグ・ネーム・ファンにかわり、現在SFやミステリや幻想文学や漫画をジャンルとして語り散らしているのは「馬鹿でナイーヴな腑抜け」であると。おお。

 もちろん罵倒は叱咤激励であり、それを受け止めきれずにへたりこんだらその時点で意味がなくなる。ジャンル文学に限らず、どんな発言者であっても、こうした批判を受ける可能性は常にある。そのとき「ジャンル外の人間に言われたくない」とか「ジャンル愛のない人間い言われる筋合いはない」とか言い出したら負けなのだ。また、「いいもん、ジャンルのファンはわかってくれるもん」と無視を決め込んでも駄目。そこで腐敗は始まる。千野帽子氏の批判は、そうした自己崩壊を見越した上で行われたものだ。罵言に対して脊髄反射しろと言っているのではない。批判を批判として受け止めた上で何が自分にできるかをゆっくり考えなければいけないということだ。いや、ゆっくりじゃなくて急いでだけどね。千野氏は二年間も(同人誌からの流れを含めれば四年間)も猶予期間を与えてこの批判をしてきたわけである。そろそろ何かをしないと、ミステリファンは腑抜け、扱いされても文句はいえなくなる。

 というわけで興味深い連載であった。千野氏は次号からも評論を連載される由。慶賀。

 あ、今月の私のHMMレビューで間違いが一点。『ぼくの名はチェット』について触れた文章で、「翻訳ミステリー大賞シンジケート」の原書レビューにおいて同書を取り上げた方が高山真由美さんと書いているのだが、正しくは片山奈緒美さんである。たいへん申し訳ありませんでした。

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(6/24)ゾンビがくるりと輪をかいた、ほーいのほい。

 ひさしぶりに更新をする余裕ができたので書いてみる。いろいろ告知が溜まっているから今日明日で五月雨式に出さなくちゃ。

 仕事のお知らせで書いておかなければいけないのは、ジョージ・A・ロメロ「サバイバル・オブ・ザ・デッド」の件である。前作「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」でも担当させてもらったが、今回もシナリオ採録の原稿を書いている。字幕データをシナリオの形に再構成するお仕事ですね。映画を観たあとでパンフレットをお買い求めになった方は、巻末をご覧ください。

 それにしても『高慢と偏見とゾンビ』『WWZ』のヒットを含めてゾンビ関連の話題の多い年になったものだ。佳きかな。

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(6/8)ちょっとだけ

 あとできちんと更新をするつもりだが、ちょっとだけお知らせ。
 本日の「翻訳ミステリー大賞シンジケート」は、作家・殊能将之氏による「変態本格ベスト5」をお届けしている。

 駄目元で執筆をご依頼したが、快く引き受けてくださった。
 ありがとうございます。

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(6/2)残念ながら青春は有限である

 というのは「問題小説」六月号の書評タイトル。新刊としてゲッツ板谷『メタボロ』(幻冬舎)、柳蒼二郎『天保バガボンド』(中央公論新社)、佐々木譲『鉄騎兵、跳んだ』(文春文庫)の三冊を採り上げた。この中で必読は、柳の作品である。香取慎吾の座頭市もいいけど、この作品に出てくる市を読むと、あまりのかっこよさに卒倒しそうになると思いますよ。

 ゲッツ板谷『メタボロ』は『ワルボロ』の続刊だが、主人公が高校に進学したあとのエピソード。先輩の暴走族に入って理不尽なリンチを受ける話はエッセイでさんざん読んだが、小説の形で書かれているとまた印象も違う。やたらと悲惨な印象なのだ。前作は終わりに救いがあったが、本書はとことん下っていくイメージ。明朗なだけの青春小説に飽きた人には逆にお薦めしたい。おどろいたのは、主人公の進学する私立高校が亡父の勤務していた学校だったこと。ゲッツさん、もしかして親父の教え子だったの?
 

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(6/2)川島薄荷じゃなくて海荷っていうのか

 いろいろな仕事をしすぎて何が何だかわからなくなってしまっているのだが、寄稿したムックの見本をいただいた。STUDIO VOICE BOOKSの『もっと! 東野圭吾』である。東野さんに関する原稿はもうさんざん書いてしまっていて自分としては新味がない。執筆のご依頼を受けたときは、かなり無理な〆切だったこともあって断ろうかと最初は思っていたのだが、打ち合わせにやってきた編集者のお二人が愉快な方だったので、つい魔がさして受けてしまったのである。一人はチャック・パラニュークの本の解説を書いたことがあるというしな。世の中そういうものだ。
 私が書いた原稿は第三章の作家論の部分で、東野圭吾の本がなぜ売れるのか、という私論だ。その後に福井健太氏が本格ミステリー作家としての東野圭吾論を書いているので、併せてお読みいただければ幸いである。日下三蔵氏も、理系作家という観点から東野作品を読み解いている。知っている書き手はその三名で、あとの方とは面識がない(座談会にときわ書房の宇田川拓也氏が出ているか。しかし、なぜかこの座談会は、人物写真がモザイク状に加工されている。どういう意図なのだろう)。あ、表紙写真を撮られた寺澤太郎さんとは一度仕事を一緒にしたことがあったはずだ。表紙のモデルは若い女性。化粧を落とした矢口真理かと思ったら、川島海荷という女優さんなのだとか。失礼ながら存じ上げなかった。東野作品読破を目指しているとのこと。がんばってください。

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(6/1)日本推理作家協会賞の贈賞式に行ってきた

 解説を書いた『粘膜蜥蜴』が賞を獲得したのだから出席するのはもちろんだが、貫井徳郎さんへのインタビューも依頼されたのである。私が貫井さん、大森望さんが飴村さんを担当した。来月のAXNミステリーで放映されます。お楽しみに。

 で会場についたら、なんだか背広姿の男たちがたくさんいて、Tシャツにジャケット姿の私を胡散臭そうに睨んでくる(『エルム街の悪夢』Tシャツ着てました)。「なんだこのジジイ」と思ってサングラス越しにメンチをきったが、実は「○○不動産」関連の真面目な会合が推協パーティー前に入っていたのであった。間違えたのは私。背広の人、すまん。
 インタビュールームとして指定された場所に行ってみると、そこにはサングラス姿の貫井さんが。え、あの好青年然とした貫井さんはどこに。飴村さんが髪を染めてヤンキー化したのに続いて、この人もか、と思ったが、実は貫井さんは自転車の接触事故でお怪我をされたのだとか。見せていただいたが、目の周りに青タンができていて、美川憲一のメイクみたいになっていた。そんなわけでサングラス同士のお話という、ちょっと胡散臭い絵面になってしまった。なんでもそのインタビューの前に北村薫さんとも対談されたそうで、その模様は「週刊朝日」に載るそうである。グラビアページに写真も掲載されるそうなのに、お気の毒であった。
 インタビューは『乱反射』のことについて。後半部の加速が小説の美点、というようなことをこちらからあれこれ言ったような気がするが、詳しくは放映でどうぞ。

 パーティーは粛々と進み、普段お会いしない方とも話をすることができた。おかしかったのは道尾秀介さんが理事として働いていたことで、壇上で贈賞する東野圭吾理事長に正賞の賞品を渡す役。小学校の卒業式で、校長先生の横についている先生の役目ですね。普通は編集者の役割なのだが、推協は作家・評論家が働くので、そういうことにもなるのだ。

 パーティー終了後は、おのおの分散して二次会へ。ご存じない方のために書いておくと、推協賞は各部門計で三人以上の受賞者が出ることが普通なので、それぞれ二次会を開催するのである(幹事は本の出版元が担当する慣例)。一般の会員はともかく、理事長や理事は各会場をハシゴしてまわる必要があるので、乾杯即移動みたいな忙しい時間帯になってしまう。私は『粘膜蜥蜴』つながりで飴村さんの二次会へ。挨拶に立った人が「まさか粘膜が獲るとは思わなかった」と口々に言うのがおかしかったです。
 伊坂幸太郎さんが「これから飴村さんもファン層を広げる必要があるから青春小説で『粘膜兄弟、部活やめるってよ』というのはどうでしょう」と提案すれば(元ネタはもちろん朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』)、西上心太さんが「ここは伊坂幸太郎を見習って仙台を舞台にしては。題名は『粘膜ピエロ』」と返すなど、スピーチがほとんどネタ大会となっていたことよ(感嘆)。残念ながら福井晴敏さんは来場されていなかったので、一九六九年生まれ同士の顔合わせは実現できなかった。『粘膜ガンダム』への道はまだまだ遠い。

 そんなわけで楽しい一夜でした。受賞者の皆様、おめでとうございます。今後の活躍を期待しております。

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