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(8/12)本の雑誌九月号の特集について(その2)深夜プラス1が閉店するのは翻訳ミステリーのせいじゃない

 引き続き「本の雑誌」9月号の翻訳ミステリー特集について。

 先日開催された電書フリマに私は川出正樹氏、霜月蒼氏、米光一成氏との対談本を出展した。『”この町の誰かが”翻訳ミステリファンだと信じて』という題名が内容については物語っていると思うが(そして、その物語っているとあなたが思った内容の半分は違っているが)、その座談会の前段で私は、自分がやりたいのは「仮想敵を作らずに翻訳ミステリのファンを増やしましょう」ということだと前置きしている。ジャンル文学について語ろうとすると、どうしても〈ジャンル外〉という仮想敵を見出したり、〈ジャンル内〉の戦犯を特定しようという不毛な論争に陥りがちなので、それは止めましょうと言ったわけですね。そういうあやふやなものにすがるより、もっとしっかりした根拠、つまり自分自身の体験を基にして、とりあえずは出発しましょう、と提案したわけである。

 なにせ、仮想敵うんぬんの話は嫌というほど聞かされましたからねえ(遠い目)。

 で、本特集の劈頭に置かれたブックスサカイ深夜プラス1店長の浅沼茂氏インタビューを読んで、またもやがっかりした気持ちにさせられたのである。

 あー、まただよまた。またもや戦犯論だ。こういう仮想敵を作って何か言うような論議は、もう聞き飽きたんだってば。

 浅沼氏の「暗黒の三年間」論を要約するとこういうことになる。

「めったにミステリーを読まない人が一年に一回くらい読んでみるか、と購買意欲を起こしたとき、翻訳ミステリーの場合は『このミステリーがすごい!』が指標となる。ところが二〇〇一年から二〇〇三年まで『ポップ1280』『神は銃弾』『飛蝗の農場』とマニアすぎる本が選ばれた年が続き、初心者には敷居が高すぎて翻訳ミステリー離れが進んだ」

 その三冊がマニア寄りだというのは認める(マニア向けではない本を一般の読者に薦めることに意味があると思うからこそ、今回ベスト30選びに協力したわけだし)。しかし、逆にこうも思うのである。そんな一年に一回のイベントで失敗したくらいで読者離れが進むんだとしたら、そのジャンルにはすでに力がなくなっていたんじゃないの、と。現象は現象であって原因ではないよ、と私は思うのだ。

 もちろんこれはブックスサカイ深夜プラス1一店舗が閉店した遠因ということなので、広く「なぜ翻訳ミステリーが読まれなくなったか」に敷衍した物言いではない。浅沼氏も自らの体験に基づいて発言しているわけだから、「深夜プラス1に関しては」そうだったのかもしれない。なるほど。

 しかし、しかしである。そうなると一つ疑問が生じる。そんな一店舗の事情を「立ち上がれ、翻訳ミステリー」という特集の頭で採り上げるのは、無意味なことなのではないだろうか。だって浅沼氏だって閉店の原因を「ひと言で言うと、不況ですね」と率直に語っているわけなのだから。不況のため売り上げ全般が落ちて閉店するという書店の呟きを、なぜ翻訳ミステリー応援企画のトップに持ってこなければならないのか。

 記事にはこうも書かれている。深夜プラス1の売り上げは「ミステリー関係書が」「当初から三割弱で推移していた」が、「ここ数年は一割いくかどうかまで落ち込ん」だというのだ。最初から売り上げのほとんどは他の書店と同じように別のアイテムで上げていたわけだ(コミックスや雑誌などが主だろう。私はこの書店に何度も行ったことがあるが、学生が多い街ということもあってか、成年向けも含めてコミックは比較的品揃えがよかった)。ミステリー関係ないじゃん! しかも「ミステリー関係書」というからには、それは日本ミステリーも含めた数字だろう。他店の状況から見て、翻訳ミステリーが半分を占めるということは考えられない。よくても三分の一、下手をすれば五分の一以下という感じなのではないか。だとしたら、そのジャンルの売り上げがどうなろうと、ブックスサカイ深夜プラス1の閉店問題の中で翻訳ミステリーの売り上げ減が占める割合というのは、全体の十分の一にも満たないはずなのである。

 同店は、以前には二階でレンタルビデオ店も併営するなど、一九九〇年代にはかなり羽振りのいい時期もあった。それが次第に不況の波に押し流され、ついに耐え切れなくなって閉店に至ったのだろう。オーナー及び従業員のみなさんには深く同情するが、これをもって翻訳ミステリーの現状把握の参考とする見方は、まったくナンセンスなのである。失礼を承知で言ってしまえば、ここ数年の同店に比べて、もっとミステリーを売ろうとがんばっている書店は他にいくらでもある。どうせ話を伺うならそうしたお店にしたらよかったんじゃないの、というのが私の率直な意見である。

 ただし、さらに率直な意見を言わせていただければ、そうした「売れる」「売れない」の嘆き節をとりあげるよりは、もっと他に読みたいものはいくらでもある。「翻訳ミステリー」という特集の題名に惹かれ、お金を払ってくれる読者に提供すべき記事ではないと私は考える。

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