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(12/10)『パニック・パーティ』と『殺す手紙』って何が本格なの?

「2011本格ミステリ・ベスト10」(原書房)到着。
 いや、実際はもっと前に着いていたと思うのだけど、郵便物の山に埋もれて見つけられなかったのである。いつもはアンケート回答だけなのだけど、今回は依頼を頂戴して翻訳ミステリー大賞シンジケートの活動について寄稿している。よかったらついでにご覧ください。ベスト10の順位などについては、いつも通りまったくなんの感慨もないが、今回は一つだけ、いや二つ気になっていることがあった。

 みんな、アントニイ・バークリー『パニック・パーティ』(原書房)とポール・アルテ『殺す手紙』(ハヤカワ・ミステリ)を「本格として」どう評価しているの?

 私の評価は両方とも「少しも本格ではないが好き(特にアルテは、過去のどの作品よりも好きかもしれない)」である。詳しくは、まもなく発売される「本の雑誌に」にも書いたので繰り返さないが、私の評価軸では本格ではないものを、他の方はどう「本格として」評価されたかを知りたかったのである。

 以下、投票コメントと川井賢二・羽住典子・横井司の三氏による座談会から抜き出してみる。いずれも敬称略で失礼。

『パニック・パーティ』について。
「好戦者の反本格。「純粋な本格」に対する回答を「純粋な非本格」で打ち返す天邪鬼」月田竜雄
「孤島での人々の行動をうまく書いた作品。本格か?」筑波大学
「バークリーの問題作。孤島に閉じ込められ次第に理性を失っていく登場人物たちの心理描写が巧み。真相との落差がよい」鳥飼否宇
「読んだ後に『第二の銃声』を読み返すと、いろいろ腑に落ちる。速記術に関する薀蓄が面白かった」法月綸太郎
「革新的という自負がありながら当時真価が評価されなかった作。孤島に取り残された集団に起きる殺人パニックはアルテ共々殺人パーティーをプロットに据えている」波多野健
「メタと皮肉で袋小路に邁進したバークリーの終着点として興味深い――壁に激突して倒れた印象は否めないけど」福井健太
「本格の形式を踏みながら、内容としては大きく逸脱したジャンル不明の怪作だが、作者の試みの一環として評価したい」三門優祐
「ぎりぎり本格ミステリの境界線上にあるもの」森英俊
「噂に違わぬ問題作であった」立命館大学
「崩壊の様を見届けた」山口雅也

 座談会の方は最初から「本格じゃないよね」(横井司)という発言があって、そういう流れの論調だったのであえて挙げることは控えた。コメントを見ると「作品としては壊れているけど、さまざまな模索を続けてきたバークリーの最終到達点なのだから挙げざるを得まい」という感想が伝わってくるような気がする。この作品自体は破壊され尽くした焼け野原みたいなものだけど、この上に誰かが新しい建物を創造したらいいんだよ、ってことなのかな(クリスティーとかが)。鳥飼氏のコメントが最も私の感想に近い。

 次に『殺す手紙』について。
「そして、最後にアルテとくれば申し分ないだろう」亜駆良人
「外連が後景に退いた分、ストイックに騙り手としてのアルテを垣間見られた印象」川井賢二
「不可解な冒険に絡めたミスリードが巧みで感心しました」同志社大学推理小説同好会
「伏線の張り方が実に巧妙。アルテもずいぶん垢抜けてきたなと思いきや殺人ゲームとか出てきて苦笑」松本楽志
「ほう、やるじゃん」村上貴史
「ポール・アルテという作家の別側面を垣間見れるようで評価」明治大学
「よくこんな不思議なストーリーを考えたもの」森村進
「アルテは不可能犯罪がなくてもプロット運びだけで十分面白いことを証明した」諸戸似非
「本格としての読みどころは、何が起きているんだかちっともわからない。わからないんだけどところどころに手がかりがあって、その手がかりがはっきりしてわかりやすい点ですね。これはこういうことだったのかと確認して読んでいくのがベストかも。わかっちゃっても面白く読めますよ」羽住典子(座談会発言から)

 うーん、まあつまり。本格じゃないということでいいわけね。垣間見ちゃったってことだ(なにを?)。同志社の回答者氏と松本楽志氏、羽住典子氏は同じ点についてコメントしているように見えるのだけど、そこが「本格として」の評価ポイントなのかしらん。あと松本楽志氏のコメントはアルテの「ちょっとかっこ悪いところ」を指摘していて笑った。そうそう。そういうところがアルテらしいと私も思う。

 というわけでコメントを抜き出してみましたが、わかったことは「よくわからん」ということでした。ベストランキングのコメントにそこまで評論性を求める方が無理なのかしらん。本格ってよくわからんわ。

(追伸)
 あ、『機械探偵クリク・ロボット』の訳業の素晴らしさについて触れた月田竜雄・山口雅也両氏のコメントには完全同意である。特に山口氏の「この役者でオルメスの新訳版を出したらどうでしょう?」というところ。私も同じことを考えていました。早川書房がやってくれ!

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