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一度も膝小僧を擦りむかせずに自転車の乗りかたを教える方法・その1

 アメリカの父親が子供に教えることは、火の熾し方と釣りと、えーともう一つなんだっけ。たしかキャッチボールだったような気がするのだけど、銃の扱いだったかもしれない。まあ、いいです、どっちでも。どちらにせよ、釣りとキャッチボールと銃の扱いは、私は子供に教えられなかった。火の熾し方は、私が教えたわけじゃないけど、一緒にキャンプに行ったときにまあまあできるようになった。アメリカの父親的にはこれ、何点ぐらいですか? 30点?

 そういう技術はだめだったのだけど、違うことはいくつか教えることができた。
 自転車の乗り方も、その一つだ。

 これは自分の恥になるが、私は小学校4年生ぐらいまで自転車に乗れなかった。坂の多い団地に住んでいたので自転車に乗るのが怖かったというのもあるが、一番大きな要素は自分に運動関連の才能がまったくなかった、いや、そういう風に思い込んでいたということである。子供時代の私、けっこううすのろだったと思います。走るのは今でも苦手だし。

 だから自転車に乗ってもすぐに転んでしまうと思っていた。当時の担任の先生と級友に特訓されて、ようやく乗れるようになったのである。怖い怖いと思っていたが、小学校の校庭で訓練したら、ものの1時間で乗れるようになった。もっと早く訓練しておけばよかった、と思ったものである。

 私はそういうわけで小学校の高学年になる前に乗れるようになり、あとはぶいぶい走り回る自転車少年になった。三多摩では自転車に乗れないと、けっこう生きていくのが大変なのである。逆に妻は、交通量が多くて自転車乗りにはけっこう剣呑な環境で育ったためか、幼少期にはほとんど縁がなかったという。

 で、子供の話だ。
 そんなわけで、子供には自転車に乗れるようにはなっておいてほしいと思っていた。ただ、妻の育った環境と拙宅の周囲はどっこいどっこいで、子供が自転車を乗り回すのに理想的、とは言いがたいのである。それで自転車を買ってやるのが遅くなり、かなりの年齢になるまで子供は自転車に乗れなかった。

 これは責任重大である。子供に自転車を教えるのは自分の役目だとなんとなく思った。過去の思い出が何度も頭をよぎったものである。

 慣れない自転車で盛大に転び、膝をすりむいてべそをかいた日のこと。

 転ぶだけならともかく、どうしたはずみなのかチェーンまで外れてしまい、どうにもならなくなって泣きながら家まで押して帰ったこと。

 補助輪のついた自転車に乗っていてからかわれ、悔しくてその級友に石を投げたこと(当たらなかった)。

 自転車には哀しい思い出が数々ござる。親の務めは、同じ思いを子供にはさせないことであると私は考えた。
 そこで編み出したのが、乗れるようになるまでは絶対に転ばず、一度も膝小僧をすりむかせない教習法である。
 自転車は怖くないし、厭なものでもない。
 そう子供には思ってもらいたかった。
 
(この項つづく。なんでこんなことを書き始めたかというと、フラン・オブライエン『最後の警官』を読んでいたからです)

(おしらせ)
 以下のイベント・読書会がございます。

1/24(金)、外国文学の楽しさをお伝えするトークイベントがあります。今回の特集は新ノーベル賞作家、アリス・マンローです。
詳しくはこちら

1/26(日)、フラン・オブライエン『第三の警官』を課題作とした読書会があります。
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1/29(水)に作家・法月倫太郎さんとの評論対談を公開で行います。
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Posted by: free music downloads | April 03, 2015 12:55 PM

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