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美しい家族の伝統など日本には存在しなかった

 以下の文章は、ID:@from41tohomaniaにおける私のツイートをまとめ、若干の加筆修正を行ったものです。既読の方は重複して目を通すことになるかもしれないことをあらかじめお断りしておきます。

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 中世~近世の民衆史、及び民俗学を修めた方は一つの共通理解を持っているはずだ。それは親方‐子方という関係が近代以前の日本には成立していて、地縁なども含む血縁以外の理由で結合された疑似家族集団が、社会単位の一つとして存在していたということである。この集団は家産の継承のために機能する。

 平たく言うと「生きていくための財産を守る、という論理で協力し合う集団が家族だった」ということだ。そのためには現在の視点から見ればおかしいことも正当化されていた(しかし、この中世~近世の疑似家族集団を父権が強大であった近代の大家族と混同するのは間違いである)。日本の家族制度が完全に血縁関係のみに縛られるようになったのは20世紀に入って以降のことだ。農村ではさらに遅れ、農地解放が行われた戦後まで基本的にはこうした親方-子方の集団帰属意識が維持されていた。言うまでもなく、それは第一次産業の労働の過酷さに起因するものだ。

「イエ」はその構成員を奉仕・従属させるものであった。構成員の個別意思はまったく顧慮されることがない。なぜならば「イエ」があるからこそ構成員の暮らしが成り立つのであり、「イエ」を離れて生きることはありえないと考えられていたからだ。

 それゆえに構成員の中には非人間的な扱いを受ける者もいた。二男・三男以下の男性が誰とも婚姻関係を結ばずに生涯を終えることは日常茶飯事だった。そうやって家産を集約させることで「イエ」の経営は成り立っていたのだ。近代的な家族制度の成立前には自由恋愛と乱交が行われていたとする説があるが、それを「性の自由」が謳歌されていた、と見るか、表立って性交をすることが許されていない層が存在した、と見るかで大きく変わってくるはずである。

 私の理解では現行民法が規定している家族とは、こうした「イエ」から構成員を解放し、自身の自由意志で生活を営めるように配慮したものだ。夫婦と子を基本とした家族を収税の対象として計上し、その代償として福祉制度を準備するのである。その背景にはもちろん家産を集約しなくても生計を立てることが可能であるという程度に経済状態が向上したという事情があった。

 私が問いたいのは、「イエ」に再び構成員を集約させなければならないほど、現在の日本の経済は破綻し、荒廃しているのだろうか、ということである。私にはそうとは思えないのだが、「イエ」至上論者たちは今「イエ」を守らなければ国は滅びる、と焦っているかのように見える。彼らが願っているのは個人の幸福でもなんでもない。

「日本の美しい家族」至上論者が守りたいのは国家を経営する上での最少経済単位である「イエ」であって、「家族」ではないはずだ。そこのところを隠蔽したまま親子愛の賛美を繰り返しているのである。しかも彼らの念頭にあるのは実像ではなく、どの時代にも存在しなかった幻の「イエ」だからなお始末が悪い。つまり収税を行ったり、労働者を提供する単位としての「家族」をできれば「イエ」の時代にまで復して個人の自由を制限し、福祉制度を縮小する。

 しかし「イエ」とはあくまで前近代の制度にすぎず、現代人が暮らしている社会を維持できるような強固たる構造の上に成り立ったものではない。「イエ」幻想が問題になるのはその点だ。「イエ」至上論者が想定しているような理想の「イエ」は、近代のどこにも存在しなかったのだから。そこには決して戻ることができない。

 私はどちらかといえば明治・大正・昭和に美風を感じ、諸般が旧に復することを喜ぶ保守論者である。しかし、以上のような旧時代の実態を考えると、現代人を「イエ」の昔に戻らせるのは無茶である。少なくとも現代では「イエ」は構成員の誰も幸せにしないシステムである。

 以上のようなことを私は、1980年代に大学で学びました。以来一貫して、「家族」という言葉が不定形なものであり、そこに一つの枠をはめたり、美化したりするような言説はまやかしであるという立場を取っています。家族は自分の意志で作るものであり二つとして同じ形の家族はない。そこに「理想」の家族像を当てはめようとする言説を疑わなければいけない。私はそう考えています。

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