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デーブ・スペクターのホットな「クールギャグ」


 第二次世界大戦でロンドンはV2ミサイルによる空襲を受けた。爆心地を示したサイトを見ると相当な密度で着弾があったようである。
 その際の実話として伝えられているジョークに、爆撃によってエントランスを破壊されたデパートが翌日、「今日から営業開始。入口を拡張しましたので待たずに入れます」と書いた看板を出した、というものがある。
「負けず嫌いで」「ジョーク好きな」イングランド人の国民性を示したもの、としてこのエピソードは紹介されていたと記憶している。たしか井伏鱒二あたりが監修した子供向けの読み物だったと思うのだが、記憶は定かではない(原文を探してみたが、わからなかった)。
 子供のときは「ふーん、イギリス人すげーなー」ぐらいの感想で通り過ぎたのだが、今考えてみると、別の思いが去来する。

「笑い」はいいものである。笑うことによって心は和み、神経が安らぐ。
 しかし、それは諸刃の剣でもある。「笑い」を不真面目・不謹慎ととる人もいるからだ。そして「笑い」には予測不可能なところがあり、意図しない形で誰かを傷つけてしまう。人を笑わすのは難しく、そして実は勇気がいることでもある。
 しかも昨今では、「笑い」の芸人にも常識を求め、周縁ではない場所にいることを求める風潮がある。ビートたけしにしろ太田光にしろ、芸人がまともな世論の代弁者として扱われる風潮は明らかにおかしいのだが、当たり前の風景になりつつある。立川談志はそうした風潮に戸惑い、もどかしさを覚えていた芸人だ。晩年の言動や著作を見ると、自分だけは常識に囚われまいとしてあがいていた様子がわかる。しかし、あと10年談志が生き続けたとしたら、立川流家元でさえ「芸人」の世界に逃げ切れていたか。ファンとしてはそうだと思いたいが、確言はできない。

 そんななか、デーブ・スペクターはいちばん「笑い」が成立しにくい時期に「笑い」の世界の人であり続けたのである。2011年のあの緊張した空気の中で、自身の姿勢を守り抜いたことは賞賛に値する。彼のtwitterにおける活動をまとめた本『いつも心にコールドギャグを』については、前にエキサイトレビューで書いたのでここでは繰り返さない。当時のデーブは非常に正しい「芸人」であった。たいへん素晴らしいことである。

 まさかデーブのギャグに救われるなんて! 震災後のデーブ・スペクターTwitter本

 デーブの賢明さは、どこから自分は発言したらいいのか、ということをすぐに見抜いた点に現れている。
 冒頭で紹介したロンドン空襲のジョークは、爆撃を受けた被害者が自身の境遇を笑いのめすという「自虐」から成り立っている。緊張した場ではあるが、当事者がそれを言う、ということによって笑いが正当化される。
 2011年のデーブは客観的な評価では当事者ではなかった。あらゆる意味で彼は「外部」の人間だったのである。にもかかわらず彼は踏み込んできた。その絶妙なやり方については、リンク先のレビューを読んでもらいたい。

 デーブが「場違いなところに迷いこんできたよそ者」という自虐の姿勢をとれたのは、以前から「デーブ・スペクターは実は埼玉生まれの日本人である」というジョークが流通していたからだ。その意味では彼にしかできない芸当だった。適材適所だったわけである。しかしもちろん、一歩間違えば彼も排斥される危険があった。不謹慎、場違いだ、とのそしりを受ける危険を冒してまで「笑い」で場を和ませようと考えたのである。その勇気ある態度には感嘆するほかない。

 本日の14時58分、デーブは以下のようにツイートした。

 その前のツイートは、「茨城県のスパゲッティ→水戸ソース」であり、その後は「田中マー君が関西出身なのに球種男児」であった。前後のつまらなさを含めて完璧だ。クールだぜ、デーブ。

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Comments

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