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ダ・ヴィンチのライター募集は本当にブラックなのか?

「「ダ・ヴィンチ」のアニメライター募集がブラックな件」というtogetterまとめが目に入ったので覗いてみたら、知人のコメントがまとめられていたのでふむふむと読んだ。それでリンク先を見て、ちょっと違和感を覚えたのである。

 雑誌全盛期だったら、このくらいハードルを上げられても、誰も文句は言わなかったような気がする。

「ダ・ヴィンチ」誌が出している条件を引用してみる。アニメだと私は門外漢なので、専門である「ミステリー」に翻案してみるよ。後ろに※をつけたのが、翻案した条件だ。

【条件】
・関東近県にお住まいの方。(都内まで1時間以内に来れる方)
・定職や定期的なスケジュールのない方。(時間が自由な方)
・ミステリーやサブカルチャー媒体の執筆経験のある方。(未経験者相談)※

【求めるスキル】
・情報収集能力(ネットの流行、トレンドに敏感で好奇心が旺盛)
・企画立案能力(受け仕事だけでなく、自ら能動的に動ける)
・毎月出るほとんどのミステリーを読んでいる(好き嫌いしない)※
・物怖じせずに取材やインタビューが出来る。
・最低限のコミュニケーションが取れる。
・一眼レフのカメラを持っており、それなりに撮影経験がある。
・Photoshopなどを使って、画像編集(リサイズ)の経験がある。
・ミステリードラマ、俳優、古本屋事情、グッズなど人には負けない知識がある。※
・すぐにレスポンスができる(ほうれんそうを後回しにしない)

◎社会常識を持ち合わせている。約束を守る。納期を守る。

 うん、これ、1990年代だったら当たり前につきつけられていた条件だ。それがいいとか悪いとかではなくて、ライターの世界が「買い手市場」であり、志願者が今よりもずっと多かったのである。なので、その中から編集部は人材を選ぶことができた。私がよく知っているのはもちろんミステリー関連業界だけなのだが、周辺ジャンルの噂ぐらいは知っている(たとえば呆れるほど劣悪な条件であったにも関わらず志願者が引きもきらなかったターザン山本時代の「週刊プロレス」とか)。15年前だったら、この条件を出されてもびっくりする人間はいなかっただろうと思うのである。

 ではなぜこれが今話題になるのかといえば、理由は一つである。「ライターは稼げない」という職業上の常識が広く知れ渡ったからだ。上の条件提示に待遇面のことがまったく書いてないが、ライター募集というものは昔からこうだったはずだ。それでも夢を見て世界に飛び込んでくる若者がいくらでもいたのだが、最近では知識が増え、知恵がついて、もっと慎重になったのである。まあ、それはいいことだ。なにしろ職業選択に関することなのだから、軽挙妄動はしないほうがいい。これは老婆心ながら書いておくが、応募者に対して編集部は報酬額の話をしてあげてもらいたい(許される範囲のことだと思うのでちょっと書いておくが、「ダ・ヴィンチ」の原稿料は極端に高くも低くもない)。なかなか聞きにくいのですよ。この募集ページで書く必要はないと思うが、人生設計にかかわる問題なので、求職者には積極的に教えてあげてもらいたいのである。

 で、応募を考えている人に言いたい。
 もしあなたがアニメが大好きで、一定のコミュニケーション能力を要していると考えているならば、とりあえず挙手してみてはいかがだろうか。この場合のコミュニケーション能力とは、「スケジュール帳を持って、その通りに行動することができる」「初対面の人とも相手を不快にしない程度愛想よくして、日常会話が成立する」「新入社員向けのビジネスマナー書を買って、そこに書いてあることを馬鹿にしないで実践できる(自信がある)」くらいでいいのではないかと思う。

 で、厳しいと言われている条件だけど、そんなに難しいことだろうかと思うのである。

 まず撮影技術のことだが、これはプロのカメラマンになれと言っているわけではなく、物撮りや、カメラマンを同行させるほどではない取材のときは自分で撮ってくれ、という程度のことだろうから(基本的に「ダ・ヴィンチ」はどんな小さなインタビューでもカメラマンを同行させるので、被写体はたぶん人間ではないと思う)、日曜写真家向けの本でも一冊読めばなんとかなるのではないか。一眼レフはまあ、買うしかない。

 次に画像編集のことだが、リサイズぐらいだったらPhotoshopのような高額なソフトがなくてもなんとかなるだろう。実は私も大昔にPhotoshopを買って画像をいじる勉強をしたことがあるが、上に書かれている条件だったら、今でもこなせそうな気がする。

 そして「ほとんどの作品を視聴している(上の例だとほとんどのミステリーを読んでいる)」問題だが、これは全クールにわたって全部の作品を最後まで観ろと言っているわけではないはずだ。いや、そうするべきだろうが、仕事との兼ね合いもある。「好き嫌いしない」と断り書きがあるように、スタッフとか声優とか原作とかで観る観ないを決めるのではなくて、とりあえずなんでも手を出すという姿勢が問われているわけである。たとえば私はミステリー書評を仕事にしているが、「○○の書いた作品は読まない」と言い出せばどんどん仕事の幅は狭くなっていくし、依頼もしづらくなる。そういう「使いにくい人」は要りません、と編集部は言っているだけだ。大丈夫、あなたの技能が一定以上に達していると認められれば、「今期は視聴必須の作品が多すぎますから○○さん情報共有してがんばりましょう」ぐらいのことは編集者から言ってくる。ダイジョブ。そんな超人性は求めていないと思う。

 以上のように書くとまるで「編集部を舐めてかかれ」と言っているように見えると思うが、その通り、舐めてかかればいいと思う。その代わり、誠意をもって、自分を大きく見せるような嘘は吐かず、編集者の立場を尊重し、いっしょに仕事をするにはどうしたらいいか、という協調の気持ちで話をすればいいのである。最初から相手に要求のすべてを飲ませるつもりで行くのではなくて、どうすれば一緒に仕事ができますかね、と相談するつもりで。それ、大事なことね。

 とはいえ、編集者も千客万来ではないだろうし、応募者をふるいにかけて上位者だけを獲りたいと思っているはずである。応募したあなた方のうち、9割9分は落ちるだろう。しかし、そういうものなのである。一緒に仕事をしたい、とどんなに願っていても、すべての人に仕事を与えるわけにはいかないのだから。編集者もきっと断腸の思いであなたを切ったに違いない。もし落ちてしまったら、そう思って高を括っていればいいのだ。編集者は別にあなたの人格すべてを否定したわけではなく、たまたまその職場で働いてもらうには条件が合わなかっただけなのだから。

 客観的に観て、こんなに条件のいいライター募集というのはあまりない。「ダ・ヴィンチ」というのは駅売りやコンビニ売りの雑誌であり、全国規模で六桁の売上げを持っている。もちろん雑誌や出版社が好みではない、という人もいるだろうが、だとしても私情を押し殺して挑戦する価値は十分にあるはずだ。それでもって実際に仕事をしてみて条件が思ったほどいいものでなかったら、礼を尽くして辞めてしまえばいいだけの話である。その場合は出版社も姿勢を改めるべきだろうから、ぜひ対話をしてから職を辞するようにしてもらいたい。

 私は別に「ダ・ヴィンチ」の回し者ではないが、1990年代から2000年代にかけて「な、なにか仕事を」と餓えながら売り込みをしていた時代のことを思い出すと、先入観だけでこの募集を忌避してしまうのは(そして、そういう印象を拡散しすぎてしまうのは)よくないと感じたのである。ライター志望者には貪欲、強欲であってもらいたい。さもしすぎる程度でなければ。そして、気持ちを強く持ってもらいたい。へこむな。ひるむな。家から出て、原稿を書きに行け。どんどん金を稼げ。

 言いたいことはあと一つだけ。「ダ・ヴィンチ」編集部にも、もちろん覚悟が求められる。こうやって募集した人材を絶対に使い潰さないでもらいたい。ライターというのは育成が必要な職業だ。それをやれるのは、日常的にOJTを行っているといってもいい編集者だけなのである。将来のスター候補生の芽を摘むのも、大樹に育て上げるのも編集者だ。あなたの回す仕事がライターを強くしていく。そして即戦力といっていいほどに出来上がったライターにも必ずのびしろはある。それを見極められない編集者が、ライターを削っていく。さらに上を目指せるのに抜擢の仕方が悪くて衰えていったライターを私は何人見てきたことか。編集者の「この人はこのくらいだろう」という決めつけ、思いあがりがライターを殺すのだ。今回応募してくる中には必ず将来ドル箱になってくれる人材がいる。そのつもりでぜひ、長い目で育成してあげてもらいたい。少なからず「ダ・ヴィンチ」という媒体に恩義を感じているライターからの、以上はお願いである。

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Comments

Really when someone doesn't understand afterward its up to other visitors that they will assist, so here it occurs.

Posted by: sydney removals | June 16, 2015 at 01:22 PM

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