「博麗霊夢がそこにいた」一部を公開します
題名紛らわしくて申し訳ありません。第一話「博麗霊夢はそこにいる」に続き、第二話「博麗霊夢がそこにいた」の冒頭部分だけをちょっとお見せします。
[……]
「うん。もしかすると、ここ、だから残っているかもしれない。もしかすると聞いたことはないかもしれないけど、一式飾りというものがある」
「聞いたことない」
「でしょうね」
アリスは頷いた。
「日本でもごく限られた地方、出雲国にのみ見られる習俗らしいから。それに関する神様は、秋葉大権現」
「三尺坊ね。それは天狗の姿をした神様のはず」
日本には土着神である火の神・カグツチがいるが、秋葉三尺坊権現もまた別種の神として知られている。幻想郷の外の世界においては、観音仏の垂迹した姿として信仰を集めていた秋葉大権現が、明治期になってその権利を奪われ、カグツチを祀った秋葉神社が変わりに防火の神様になった、という経緯が実はある。しかしそれはあくまで外の世界の話であり、幻想郷の「中」までは及ばない。
ここでは依然として秋葉三尺坊権現は防火の信仰を集める神である。
「一式飾りというのは、その大権現のための祭りで作るものなの。由来はよくわからないが、それは一種の人形らしい」
「人形? そこにいる」
上海人形を指さした霊夢に対してアリスは首を振った。
「ううん。こういう風にきちんとした人形じゃない。上海は私が産みの親になって部品作りからやってあげたけど、一式飾りの人形というのは、陶器から作るの」
「陶器というと茶碗とか」
「ポットとか」
「植木鉢とか」
「水瓶なんかを使う場合もあるらしい。とにかくそういういろいろな陶器を針金で結び合わせてひとがたを作る、というものなんだって。だから『一式』飾り」
「へえ」
実物を見たことがない霊夢には、どういう姿なのか皆目見当がつかなかった。
「わかっているところでは、それは他の地域で行われている秋葉大権現の祭りと共通点を持っている。秋葉大権現の祭礼では、地面に線を書いたり、何か障害物を置いて、そこから先には火が侵入しないようにする慣わしがある。一式飾りの場合も、人形の前に梯子を置いて、同じように線引きをするんだって」
「それは、一種の結界作りね。なるほど、確かに根底は同じような祭りなのかもしれない。で?」
「で、って?」
「それで何を調べたいの。言っときますけど、そんな習俗は幻想郷には存在しないし、一式飾りなんて見たこともないからね」
[……]
東6 つ9aにて頒布を予定しております。どうぞよろしくお願いします。
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