「博麗霊夢はそこにいる」冒頭だけちょっと公開します
博麗神社秋季例大祭にて頒布予定の『博麗霊夢はそこにいる』(連作集。イラスト・くま、ゲスト原稿ランコ&ランコの姉)の表題作を、冒頭の部分だけちょっと公開します。
「ううむ。やはり少ない」
米櫃を覗き込みながら博麗霊夢は一人ごちる。
もっとも口元を白紙で覆っているので、声はその中に籠もるだけである。
一人だけの住まいであり、一人だけの台所であるので、誰に聞かせる必要もないのだが。
米櫃の蓋を元に戻し、霊夢は立ち上がった。スカートにつけていた前掛けを外し、見えないほこりを払う。
「今年は冷夏だったから稲穂が軽い、とは聞いていたのだけど。それにしても、こればかりの米では」
考え込むような顔になって、台所を出て行く。白足袋の下で年季の入った床板がきゅっきゅっと軋む音がした。
引き戸を閉めて廊下に出た霊夢はそのまま歩いていく。陽射しはまだ弱く、空気も冷えていた。白衣の肩は閉じられずに開いているので、風が吹くと外気をそのまま感じることになる。
ふと、足を止めた。霊夢の住まいは拝殿のすぐ横手にある社務所だが、その裏手は神社を囲む森に面している。つ、と背筋を伸ばし、はるか向こうに覗く山の端を見つめた。人里を離れたその山々は妖怪の山と呼ばれ、あやかしや地神が住まう場となっている。
「豊穣神のやつ、きちんと仕事をしたのかしら」
巫女にもあるまじき言葉を吐いてさらに歩を進めようとして、思いなおしたように動きを止めた。そうっと耳を澄ます。
聞える。
何者かが建物の外で声を発しているのだった。
ここは神社であり、神社には参拝する者が付き物だ。したがって訪れる者があるのはなんの不思議もないことなのだが、唱えごとをしているというのが珍しい。拝殿の前から社務所の建物を通してその裏手の縁側まで届くのだから、よほどの大音声なのである。
よほど熱心であるのか。
それとも耳が遠くて大声でも出さないと自分が何を言っているのかわからないのか。
どちらかであろう。
神頼みをしに来た者があるということは、それが伝わるように介添えをするのは巫女の務めでもある。
霊夢は声のする方向に意識を集中させた。というのも、やけにでもなってしまったのか、わめき散らすように自分の声をばらまいているので、単に耳をそばだてただけでは判別ができなかったのである。
耳が慣れてくる。
「無無明亦無無明尽乃至無老死亦無老死尽。無苦集滅道。無智亦無得」
むむ。[……]
博麗神社の巫女・霊夢が送る日常を描く短篇に、毎回ゲストが出てきます。この話は霧雨魔理沙回(冒頭の部分に出てきているのは違いますが)。
頒布場所は東6 つ9aです。よろしくお願いします。
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