インタビュー記事の構成について(杉江松恋のやり方)
唐突だけど、私のインタビュー記事の作り方をまとめておきます。
これはtwitterへの投稿を元にしたものに、少し加筆しました。
聞く方ではなく、すでに音源があるものをどうまとめるか、という話です。
同業者、及びライター志望者の方向けの投稿かもしれませんが、一般の方でも参考になれば。
※これは、アーヴィン・ウェルシュにインタビュー後の得意気な私
(1)まず音声起こし。これは今は外注しています。理由はいろいろあるけど、いちばんのそれは「自分には時間短縮、依頼をする相手には仕事の分配というメリットがそれぞれある」ということです。自分でやむなくやるとき「杉江言う原稿ふに猿」みたいに略しながら起こします。だいたい1時間の録音時間に対して作業は1.5倍くらいまでと決めてあり、作業用なので誤字は無視します。後で直せばいいんだし。
(2)起こしができたら最初の短縮をします。やり方は二通りあり、「インタビューイとインタビューアの掛け合いになっているもの」と「インタビューイの台詞と地の文で構成されているもの」で少し違います。ここでは前者をA、後者をBと呼んでおきます。まずはAから。
■一般的なインタビューの場合(質問者が登場する)
(3)Aの場合は頭から読んでいき、最初に小さな枝葉だけを落とします。「一同笑い」とか「うんうん」みたいな相槌ですね。このとき、明らかに脱線しているようなやりとりや、意味が通らない言葉を発見することがありますが、削りません。もしかすると話者の個性が出ているのかもしれないからです。
(4)こうして微調整をしながら読み終わると、その時点でだいたい全体の文字数が依頼のある分量の3~10倍くらいになっています。そこから第一の削る作業に入ります。最初に削れるのは絶対掲載できない個所や、脱線ですが、パートごと削る場合は消去せず、文章の後ろのほうにくっつけておきます。
(5)次に同じ話題が連続しているようなものを探します。それを一つにまとめて字数を稼ぐわけですが、人の話し方は完全に論理的ではないので、一つの話の中で矛盾することを両方言うこともあります。そういう場合はなるべく削らず、表現をいじって人の立体性を出せるように工夫します。
(6)話者には足の長いことを話せる人と、応酬話法のようにパッパッと話題が切れる人がいます。前者の場合、一つの話題が途切れたかに見えても実は続いていて十分後にようやく完結するなんて場合もあります。そういうときは間の話題を独立させ、結論の部分を前に持ってくることもあります。
(7,8)削るときに考慮するのが、自分の出し方です。たとえば作品の中ではそこまで表現されていないようなことでも深読みすると出てくるモチーフがあるとします。そこについては分岐する道を探り歩きするような聞き方をしてインタビューイの本音を聞いているわけです。その場合、話を聞き出せたのは自分の手柄だ、みたいな書き方をすると読者は鼻白んでしまうわけです。なので、自分が話を引き出すために使っている前置きなどは可能な限り省略して、語り手が自発的に言い出したように書くやり方を私はとります。もちろん逆の場合もあります。自分を出す必要があるとき。
(9)たとえば、インタビューイがそこまで踏み込んで発言したかったり、私の質問で思いついてそういう意図もあったのだと発見したような場合。それはおもしろいですが、これから作品を読む人に予断を与えてしまうといけない。そういう場合はあえて「私がそう言った」という形で組み込むこともします。
(10)これでだいたい第一の成形過程は終わっています。この時点で規定文字数の1.5~2倍くらいの分量でしょう。ここからは細かい言い回しをいじる作業になります。インタビューイの発言を、文意は変わらない程度にいじります。語尾であったり、倒置法を元に戻したり。ここはセンスが問われます。
(11)たとえば一人称を「僕」にするか「私」にするかでインタビューの印象はだいぶ変わりますが、それ以外にも独特な言い回しというものはあります。たとえば「やっぱさ」みたいな口癖がある場合、頻発するそれを何度も出すのではなくて一度にする、というような形で口跡を遺す必要があります。
(12)さて、ほぼ1.1~1.2ぐらいの文字量になったら、そこで初めてエディターの検索機能などを使って頻発している語句を探し、調整します。次に、編集から聞いている行の字数があれば、それに合わせてさらに文中の贅肉を削り、僅かな字数のはみ出しなどをなくしていきます。
(13)最後に、文章のおしまいにくっつけておいた、最初に削った部分を見てみます。実はそこにおいしい話題が捨てられている場合があるので、捨てがたく感じたら、今成形したばかりの文章の中に乱暴に放り込んでみます。それでも問題がなければ、少し段階を戻して別の話題を削ることも検討してみます。
■「ダ・ヴィンチ」などの場合(質問者が文中に登場しない)
(14)以上はAの場合です。他に細かい技巧はあるのだけど、それは別の機会に。Bの場合は少しやり方が変わります。普通の会話形式ではなくて地の文を挟むので、Bはライブ感が少し薄れます。むしろ、インタビューイが独白して、それに補う形で地の文が入っている状態に近い。
(15)この場合重視されるのはむしろ最初から最後まで一つの筋道が立っていることです。序破急ぐらいの構成があったほうがいい。つまり会話を見せているというよりも、言葉入りの一続きの読み物としてインタビューを構成するということです。頭と結びを印象的にする必要も強くなります。
(16)Bの場合も最初から流して読みながら最初の調整をすることは同じですが、私の場合、Bのときは一読目から文中にメモを入れ、さらに自分の言葉を切っていきます。最終的に使わないパーツだからです。また、インタビューイの言葉でも最終稿に残りそうにないものは外して、文末に避難させます。
(17)自分の言葉を切るというのは「杉江:この場面では○○さんは書くという行為についての韜晦を~」みたいな質問をしていたら「(作家の自意識)」みたいなメモにしてしまうということです。作家が長く話していたら途中に(ブリッジ)と書きます。ここには後で、相の手の地の文を入れます。
(18)また、書きながら設計者のメモのようなものも入れていきます。たとえば後で順番を入れ替えられるかな、と思うような個所には(ここに冒頭の話題を持ってくる?)というような形でカッコ書きをしておくわけです。この時点でだいたい、全体の構成が見えています。
(19)最初の調整が終わると、BはAよりも明らかに短くなっています。ここからはさらに大胆に、インタビューイの中で使う言葉だけを残して、後は削っていきます。規定文字量と残した文章の量が同じくらいになったら、その構成を始めます。順番を入れ替え、プラモの仮組みみたいに組んでみます。
(20)当然ですが、残した文字量に自分の地の文を入れるわけですから、この作業の後は文字量がオーバーします。だいたい1.2~1.5倍というところでしょうか。ここから削っていく手順はAの場合と同じです。インタビューイの言葉が長かったら、それを地の文に置き換えるなどの処理もします。
(21)だいたいそんな感じでA・Bとも作業が終了になります。インタビューの構成に必要なのは「情報量」「インタビューイの主張が出ていること」「個性が消えていないこと」「臨場感」の四つだと思います。それを念頭に置いておけば、以上のようなやり方で誰でも構成はできると私は思います。
以上、私流のインタビュー構成の仕方でした。自分だったらこうやる、こうしたほうがいいと思う、というようなご意見がありましたら、どうぞコメントいただけると幸いです。